第6話 猫のお宿
エミリーの定宿に着いた。
可愛らしい猫の看板のある宿だった。
「おばちゃん、ただいまです。」
「エミリーちゃん、おかえり。」
おっと!
猫耳の恰幅の良い女将さんが出迎えてくれた。
ケインは当然獣人に慣れていたが、健一にとっては夢にまで見た猫獣人さんだ。
感動混じりの複雑な感情が渦巻く。
「お客さんを連れてきたんだけど、部屋空いてるかな?」
「大丈夫よ。ところでエミリーちゃんの彼氏かい? 二人部屋に替えた方が良いかしらね。ウフフ。」
「ケルビンはパーティメンバーよ。まだ彼氏じゃないわ。もう、おばちゃんたら。」
「まだなのね。ウフフ。一泊2銀貨だ。良いかい?」
「はい。お願いします。」
「晩御飯は一緒に食べましょう。おばちゃん、二人分よろしくね。」
「あいよ。ミーシャ、お客さんだよ。部屋に案内しな。」
「はーい。いらっしゃいませ。お部屋にご案内します。こちらへどうぞ。」
女将さんと同じ猫耳の少女ミーシャちゃんが部屋に案内してくれた。
ミーシャちゃんはこの宿の看板娘だ。
後ろをついて行くと可愛い尻尾が揺れている。
ちなみに女将さんは虎猫でミーシャちゃんは白猫だ。
部屋は六畳ほどでベットと机、椅子、クローゼットのみの簡素な作りだった。
掃除もしっかりされていてとても清潔だ。
ケイン時代に暮らしていた宿と同じ値段の部屋とは思えない。
とても気に入った。
「身体を拭くためのお湯は1銅貨、タオルは2銅貨です。必要な時はお申し付けください。トイレは共同で廊下の突き当りにあります。また、部屋を出るときは鍵をカウンターに預けてください。備品を壊した場合には弁償してもらいますので丁寧に扱って下さいね。何かご質問は?」
「晩御飯は何時ですか?」
「1時間後には出来上がりますのでいつでも大丈夫です。でも、エミリーさんがたぶんお迎えに来ると思いますよ?」
「わかりました。では、それまで部屋でゆっくりしてます。」
「ごゆっくりお寛ぎください。」
幼く見えるがしっかりした子のようだ。
それから先程買ったガラス瓶を取り出し、錬成術、錬金術を使って不純物を除いてみた。
予想通り透明なガラス瓶になった。
さらに鑑定眼のおかげでガラス瓶の作製方法もわかった。
明日、ガラスの原料の珪砂を求めて河原に行ってみようと思う。
ドアを叩く音がした。
「ケルビン、起きてる? エミリーです。」
「うん。起きてるよ。ちょっと待ってね。」
ポーションを入れたガラス瓶を収納し、部屋を綺麗にした。
「どうしたの?」
「気になっちゃて、晩御飯まで待てなかったの。アリエス様のこと聞かせてくれる?」
「わかった。ここじゃなんだから、中へどうぞ。」
俺の部屋に入ったエミリーはベットに腰掛けた。
俺は机に備え付けてある椅子に座り向かい合った。
押し倒したい衝動は飲み込んだ。
「それでどこから話そうかな。」
「全部。」
「じゃあ、俺の前世の記憶から話そうかな。」
「えっ?! 前世? わかったわ。何でも受け入れます。受け入れ態勢です!」
「俺には前世の記憶があるんだ。1つはポーターをしていたケインの記憶。それからケインの前世の異世界地球人だった健一の記憶だ。ケインに転生した時、アリエス様から使命を受けた。だが、手違いで使命を忘れてしまったんだ。それから幼馴染たちと組んだパーティから追放され、恋人にも裏切られ、自暴自棄になり酒におぼれ死んだ。再度エリアス様から使命を受け、転生したのが今日だったんだ。そして、町を探して迷っていたところで襲われていた君と出会った。」
「なるほど。それで使命とは?」
「どこかのダンジョンの最深部に邪神によって封印された勇者千聖を助け出すこと。そして、勇者とともに邪神を滅ぼすことだ。」
「ええ! 伝説の勇者様を助けるの? 凄いわ。夢みたい。ワクワクするわ。私も伝説になるのね!」
どれだけポジティブな子なんだ。
「邪神が怖くないのかい?」
「だって、私のことはケルビンが守ってくれるんでしょ?」
「そうだけど。でも、エミリーをパートナーに選んで良かった気がするよ。」
またドアを叩く音がした。
「ケルビンさん。晩御飯の準備ができましたよ。エミリーさんが部屋に居なかったのでお知らせにきました。」
「ありがとう、ミーシャちゃん。すぐ行くわ。」
「えっ? エミリーさん?? これは失礼しました! ごゆっくりどうぞ!」
ミーシャちゃんがドタバタと走って行った。
「絶対、勘違いしているぞ。」
「まあ、良いんじゃない? 私たち、パートナーなんだし?」
めちゃくちゃエミリーがニヤニヤしている。
これは押し倒しても良いのではないだろうか?
「じゃあ、ご飯食べてきましょ。お腹が空いたわ。おっちゃんの料理はおいしいわよ。4銅貨だけど、払う価値はあるわよ。」
エミリーはすぐに部屋を出て食堂へ向かってしまった。
ミーシャちゃんがごゆっくりって言ってたのに。
今回はお預けのようだ。
何がかは想像してほしい。
「こっちよ。席を取っておいたわよ。」
食堂へ着くと席を確保したエミリーが待っていた。
さっきの話のことはすっかり忘れたような雰囲気だ。
結構重い話だと思うのだが。
テーブルの上には何かの肉のステーキ、サラダ、パンとスープが置かれていた。
「おばちゃん、エールも1つずつお願いね。」
「あいよ!」
「うん、うまいね。」
「でしょ? おっちゃん、おいしいってさ。」
「ありがとよ!」
顔は見えないが、厨房の奥から太いおっさんの声がした。
ちなみにおっちゃんは黒猫らしい。
おいしい食事に満足し、ここを紹介してくれたエミリーに感謝した。
その夜、エミリーが訪ねてくることを期待して待っていたのだが訪れることはなかった。
翌日の朝、朝飯を済ませてからギルドへ向かった。
「おはようございます。スーザンさん。」
「あら、おはよう。ケルビン君とエミリーちゃんが一緒に来たということは昨夜は。。。」
「同じ宿を使っていただけですよ。それでクエストを受けたいのですが。」
「そうね。ケルビン君はウルフも余裕のようだし、Eランクの討伐クエストが良いかしらね。ウルフ、ゴブリン、ワイルドボアの討伐でどうかしら?」
「問題ないです。ついでに薬草も採取してきます。エミリー、良いよね?」
「うん、任せるわ。」
「じゃあ、4つね。危険を感じたらすぐ逃げるのよ。安全第一よ。」
「はい。ありがとうございます。じゃあ、行こうか。」
「うん。行ってきます、スーザンさん。」
「あっ! そうだ、忘れてたわ。昨日の夕方、エミリーちゃんを見捨てた3人が遺体で見つかったわ。逃げた先で違うウルフの群れに襲われたようね。天罰ね。」
「そうですか。。。 一言文句を言いかったのに残念です。」
「改めてケルビン君。エミリーちゃんのことよろしくね。」
「はい。もちろんです。では、行ってきます。」
薄情のようだが、魔物が蔓延るこの世界では死は珍しいことではない。
ギルドを出て、昨日の森に向かって歩いて行った。
「そうだ。エミリーの装備を見せてくれるかい?」
「良いわよ?」
エミリーの装備を強化した。
雫の杖(INT+10、水魔法強化)→雫の杖★(INT+20、水魔法強化)
魔法ローブ(DEF+5、MP+10)→魔法ローブ★(DEF+10、MP+20)
魔法の帽子(DEX+5、MP+5)→魔法の帽子★(DEF+10、MP+10)
革の手袋(DEF+5、DEX+5)→革の手袋★(DEF+10、DEX+10)
革の靴(DEF+5、AVI+5)→革の靴★(DEF+10、AGI+10)
「あれ? ステータスが大幅に上昇しているわ。ケルビンが何かしたの?」
「うん。エミリーの装備を強化したんだ。それで装備によるステータス補正が上がったんだと思うよ。」
「ケルビンはそんなこともできるのね。頼もしいわ。」
俺のスキルはどう考えても異常なのだが、楽天的なエミリーは全てを受け入れてくれる。
エミリーを選んで良かったと思う。
しばらく歩くと森にはまだ遠いが草原にホーンラビットが潜んでいることに気付いた。
「ねえ、エミリー。あそこにホーンラビットが潜んでいるよ。試しに狩ってみる?」
「ケルビンは目も良いのね。私にはどこに隠れているのか分からないわ。」
道端の小石を拾って草むらに投げた。
驚いてホーンラビットが顔を出した。
「見つけた。ウォーターボール! ウォーターボール! あっ! 2発で倒せたわ。いつもは5発ぐらい撃たなきゃダメなのに。」
エミリーの攻撃力は随分と上がったようだ。
「うわ! びっくりした。急に頭の中に声がしたわ。レベルアップしたみたい?」
エミリーはステータスを確認したようだ。
俺もこっそり覗いてみる。
*ステータス
名前: エミリー
称号: 創造神アリエスの使徒、Fランク冒険者
職業: 魔法使い
性別: 女
年齢: 15歳
レベル: 5→6
HP: 80→100
MP: 200→230
STR: 30→40
INT: 150→200
DEF: 30→45
AGI: 30→45
DEX: 120→150
Luck: 80
スキル
魔力操作、魔力感知、MP回復UP
戦闘スキル
棒術
魔法スキル
初級水魔法:ウォーターボール(水の玉)、ウォーターカッター(水の刃)、
ウェーブ(波)
生産スキル
解体、採取
ユニークスキル
創造神の加護、神託
「凄いわ。ステータスの上昇率も上がってる。それにMP回復UPも獲得したわ。あれ? 水魔法がウォーターボールだけじゃない! 魔法が増えた! 嬉しい。」
「加護のおかげだね。」
「ケルビンは加護の効果って何かわかるの?」
「うん。エミリーには見えていないんだね。エミリーの加護は成長促進と全魔法適正だよ。」
「そうなんだ。って、全魔法適正?! 水魔法以外も覚えられるってこと? 私の伝説が始まったのね! ところで、今更だけどケルビンには私のステータスが見えているのよね? まさか私の裸まで見えていないわよね?!」
エミリーが身体を腕で隠しながら睨んだ。
「ステータス以外見えてないから!」
「そう。ちょっと残念な気もするわね。」
えっと、エミリーは痴女だったりするのかしら?
MP回復UP:通常自然回復は1分毎5ポイント。スキルにより10ポイントに上昇。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます