第4話 冒険者になった

「はい。私が拠点にしている町がありますよ。案内しましょうか?」


「お願いするよ。川の側には町があるかなって思って上流からずっと下ってきたんだ。このまま町に辿り着かず、遭難してしまったらどうしようと不安になっていたところだったんだ。」


「では、先ほどのウルフを解体してしまいますね。私、結構うまいんですよ。」


「じゃあ、お願い。」


女の子とは思えない勢いとナイフ裁き。

あっという間に皮を剥ぎ、肉と毛皮に解体された。


「どういたしましょうか? さすがに6体分は2人で運ぶには多すぎますね。」


「俺にはアイテムボックスがあるから問題無いよ。それにしてもエミリーさんは器用だね。」


「すごい。。。 アイテムボックス所有者に初めてお会いしました。」


解体済みの6体分のウルフをインベントリに収納し、エミリーの案内で町へ向かった。

30分ほど歩くと3mほどの壁に囲まれた町が見えてきた。


「あそこが私が拠点にしている町のザザヤです。この町には冒険者ギルドの支部があるので便利ですよ。」


「そうだ。俺、まだ冒険者登録して無かったんだった。身分証すら持って無かった。どうしようかな。」


「門番さんにお願いすれば銀貨1枚で仮の身分証を作れますよ。私が身元引受人になりますから。その後、冒険者ギルドで登録すれば銀貨は返却してもらえますよ。」


「ありがとう。お世話になるよ。」


「何を言っているのですか。ケルビンさんは命の恩人ですよ。これくらい当り前です。」


「そうだ。エミリーさん、ちょっと手を出してもらえるかな?」


「はい。どうぞ?」


エミリーの手を握り、クリーンを唱えた。

彼女のローブはウルフに襲われた時に転げまわり、泥だらけだった。


「あれれ?? うわあ、綺麗になった。」


「女の子を泥だらけの服で町を歩かすわけにはいかないからね。」


「ケルビンさんは魔法も使えたのですね。凄いです。」


「いや、生活魔法のみだよ。」


「私は魔法使いですが、ウォーターボールしか使えないんですよ。」


「水魔法だね。今度教えてもらえると有難いな。」


鑑定で見たので知っていたが、初めて知った態で話しを合わせた。


「私のアイデンティティが。。。 もちろん、喜んで!」


最初の方が小声で聞き取れなかったが、教えてもらえるようだ。

せっかく全魔法適正を持っているのだから魔法を使ってみたいよね。

町の入口の門で無事に仮身分証を作成し、町に入ることができた。

その仮身分証を持って冒険者ギルドへ向かった。

幼馴染のパーティから追放された俺と囮にされ見捨てられたエミリー。

なんか共感するところがある。


「エミリーさん。俺とパーティを組んでもらえませんか?」


「え? 突然の申し出ですね。でも、もちろんOKです。ケルビンさんには恩返しもしたいので。でも、私はウォーターボールしか打てない駆け出しの魔法使いですよ?」


「俺なんかまだ冒険者登録すらしてないから。」


「そうでしたね。それでは改めましてよろしくお願いします。」


2人は笑顔でギルドの扉を潜った。

するとエミリーが手を振りながら見知った風の受付嬢さんの元へ走っていった。


「ただいまです。無事帰還しました。」


「お帰りなさい、エミリーちゃん。えっと、そちらの方は?」


「命の恩人のケルビンさんです。ウルフに襲われていたところを助けてもらいました。」


「えっ?! あれ程森の奥には入っちゃダメって言ったでしょ!」


「ごめんなさい、スーザンさん。一緒に行ったパーティメンバーがずんずん先に行っちゃって気付いたらウルフに囲まれていたの。一緒に依頼を受けた私を見捨てた薄情な人たちはもう帰っていますか?」


「いいえ、まだね。帰ったらお説教ね。」


「そうだ、スーザンさん! 忘れてました。ケルビンさんの冒険者登録と私とのパーティ登録をお願いします。」


「あらまあ! エミリーちゃんにも春が来たのかしら?」


エミリーは真っ赤になりモジモジしていた。


「初めまして、ケルビンです。登録お願いします。」


「はい。私は受付嬢のスーザンです。よろしくね。では、この用紙に必要事項を記入してください。代筆は必要ですか?」


「問題無いです。」


小柄で20代後半ぐらいのスーザン。

赤毛でボブの元気な方だ。

エミリーは冒険者になってからずっとお世話になっているそうだ。


<冒険者登録申し込み用紙>

 氏名: ケルビン

 年齢: 15歳

 出身地: -

 職業: なし

 特技: 剣


「これで良いかな?」


「出身地と職業は未記入だけど? スキルは任意だから書かなくても大丈夫よ。」


「俺が産まれた村はとても小さく田舎で名前は無かった。職業は教会で洗礼を受けていないのでまだない。」


「そうですか。この町には教会もあるので洗礼を受けることができますよ。それではこの内容で登録いたします。」


スーザンさんは登録作業を行うために奥へ消えた。


「後で教会も案内するわね。」


「ありがとう。あと、ついでに良い宿も頼む。」


「じゃあ、私の泊まっている宿を紹介するわ。清潔だし、ご飯もおいしいのよ。」


「それは有難い。よろしく頼む。」


スーザンさんが戻ってきた。


「はい。こちらがケルビンさんの冒険者カードになります。身分証の代わりにもなりますので無くさないように注意してくださいね。登録料の1銀貨をお願いします。」


仮身分証と同じ値段だった。

1銀貨を払う。


「パーティ登録も済みました。ケルビンさんは初めての登録ですのでFランクからのスタートです。その他もろもろの注意事項はこちらの冊子に書いてございますので良く読んでおいてください。依頼は一つ上のEランクまで受けられます。無理をして命を落とすことの無いように注意してくださいね。」


「わかりました。それと素材の買い取りは出来ますか?」


「もちろんできますよ。」


カウンターにゴブリンやウルフを積み上げていった。


「ストーップ!! アイテムボックス所有者でしたか。それ以上出されたら他の冒険者の方に迷惑になります。倉庫の方にお願いします。とにかく一旦仕舞ってください。あれ? 洗礼を受けていないと言ってませんでした? なぜ、スキルをお持ちなのでしょうか?」


「さあ? なぜか使えていたので分かりません。」


「洗礼を受けていないのならステータスは確認できませんものね。早めに教会で洗礼を受けてくることをお勧めします。」


「そうします。」


「解体費用として10%頂くことになりますが、そのままの納品でよろしいですか?」


「構わない。それでどちらに出せばよいかな?」


「私が案内するわ。こっちよ、ケルビンさん。」


「それじゃ、エミリーちゃんに任せるわね。ガンツさんに解体と査定をお願いしてちょうだい。」


「はーい。じゃあ、行きましょう。でも、次回からは私が解体するわね。」


「了解。よろしく頼むよ。」


エミリーの案内でギルドの裏口から出て解体場に向かった。


「こんにちは、ガンツさん。」


「おお、エミリーか。今日はどうした? おじさんの顔を見たくなったのか?」


「ん-。そうかもね? それよりも私、こちらのケルビンさんと新しいパーティを組むことになったの。ケルビンさんが大量の魔物の死体を持っているのね。だから、解体と査定をお願いってスーザンさんが言ってたの。ケルビンさん、こちらのガンツおじさんは私のお師匠様なの。」


「初めまして、ケルビンです。しばらくこの町を拠点に活動していく予定なのでよろしくお願いします。」


「そうか。エミリーをよろしく頼む。それで素材はどこじゃ?」


「アイテムボックスの中です。そこに出しても大丈夫ですか?」


「ああ、ここでいいぞ。」


アイテムボックスは結構レアスキルではあるが、それなりには所有者がいる。

しかし、容量の差が大きい。

大容量のアイテムボックス持ちは、王族や貴族に召し取られる。

それなりの容量の物は商人に仕える。

ケインのように容量小の者はポーターになるしかない。

だが、インベントリは容量無制限/時間経過無しのとんでもない仕様だ。

バレたら厄介事に巻き込まれるだろう。

そのため、あえてアイテムボックスということにした。


「それじゃ、出しますね。」


指定された場所に収納されていた魔物の死体を全部出していった。


「おいおい。どれだけ溜め込んでたんだ? 何日分だ? しかし、随分新鮮だな。」


「今日だけだが? エミリーさんに会うまでに遭遇した魔物だ。」


「そうか。。。 これだけの数だ。それなりに時間が掛かるからお茶でも飲みながら待っていてくれ。」


「わかった。あと、この解体済みのウルフはエミリーさんのものなので別で頼む。」


「え? 私のなの?」


「先に戦闘していたのはエミリーさんだからエミリーさんの魔物だろ? 横取りなんてできないさ。それに解体したのもエミリーさんだ。俺の物じゃないさ。」


「助けてもらったのに頂けません。」


「俺たちパーティを組んだんだ。遠慮は無しだろ?」


「わかりました。ありがとうございます。では、仲間なのでこれからはお互い呼び捨てにすることにしましょう。敬語も無しよ。」


「そうだな。これからよろしくな、エミリー。」


「はい、ケルビン。じゃあ、ギルドへ戻ってお茶を飲みながらお話しましょ。おじさん、ゆっくりで大丈夫よ。」


「ふふ。わかった、わかった。」


ギルドへ戻り、フロワー内にあるカフェでお茶を飲むことにした。

ここは夜になると居酒屋になるらしい。

昼間は一切酒は出さない。

じゃないと飲んだくれて仕事をしない冒険者が居座ってしまうからだ。


「私は孤児なの。それで成人したら孤児院から出なきゃダメで。私には水魔法があったから冒険者になることにしたの。でもね、ウォーターボールしか使えないから限界があってね。稼げないときはガンツさんのお手伝いをしてお給料をもらっていたの。」


エミリーが親睦を深めるために身の上話を始めた。


「俺はさっきも言ったが、名も無い小さな村で産まれた。成人して村を出て、拠点になる町を探しながら旅をしていた。」


「そうなんだ。じゃあ、査定が済んだらまず教会に行って神の祝福を得てステータスを確認しましょう。アイテムボックス以外にもすごいスキルを持ってるかもよ?」


「だと良いのだが。」


それから査定が終わるまで楽しい時間を過ごした。



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