冬─タバコ(煙草)
手に伝わる温もり。
普通に握るではなく、恋人握りと言われる指ひとつひとつ搦める甘さと温度を感じるこの結び方が私は好き。
「どうしたの? ジッと僕を見て」
「ううん、何でも……あっ」
いきなり足が
「あっぶな……」
肩に担がれた私は、降ろそうとしない彼を疑問に思う。
「どうしたの? 降ろして」
「……抱いて帰りたい」
「え? ヤダ恥ずかしいから下ろして!」
「うん、持って帰る」
「ええっ!?」
確かに辺りは暗くて人気もない、だからってこれは─。彼はお姫様抱っこではなく、子どもを抱くように片腕で私を持ち上げた。
私は落ちないよう彼の肩にしがみついた。お姫様抱っことこちらの抱き方、どちらが恥ずかしいんだろう。
こんなことを考えつつ、他ごとも考えた。
(こんな細腕で軽々と私を……、何処にそんな力が。男の人ってほんと不思議)
彼の体温の心地良さに揺られ、うつらうつらする私は家に着いた。玄関に着いた途端意識は起こされ、急に恥ずかしさが込み上がる。
「もう、下ろして!」
「俺、実はムラムラしてて抑えられない。ごめん」
「ちょっ……
「ううん。僕の前は「俺」呼びだよそれに」
「それに?」
「実は肩車している時、太腿にほくろ見つけたんだよね」
「え? ほくろ?」
今日の私はフレアスカート、それなのに肩車されていた。彼の肩に股がるからと安心していたが、スカートが捲りあがっていたらしい。
その時、彼が見つけたらしい。自分も知らないほくろがあることに気付かされ、私は恥じらいもなくがばっとスカートを広げ、太腿を開いた。
「ほらっここ」
私自身が確認する前に彼が覗け、太腿と股関節のつけねに唇を当て強く吸いつく。
(あっ、うっかり……っ!)
家という緩み、そして彼の前だからとむやみにスカートを捲り上げたのがいけなかった。
太腿を支え持ち、意地悪くハニカム奴がいた。
「さっき脚を持つ際スカートがさ、それで見つけた。悪いとは思ったけどほくろ探し、やりたくなったんだよね」
「やっ! やだよ、恥ずかしいからやめて?」
困惑気味の私を見た男はニヤけ、右手でズボンを下ろし、左手で私の両手首を縛り持つ。そして私の身体をソファに深く沈めた。
(この人。こういう時の手癖が─……)
私の太腿に彼はキスし、次に口づけを強要されるともう抵抗できない。一糸まとわぬ姿にされ、隅々にある黒い点を的確に歯で嚙まれ、唇で吸われ、舌を這わされ……。
(うぅ、ぅんっ、くすぐっ……たぃ。ほんとうになぞってる)
一通り、彼の矜持が終わるともう私の身体は蕩けていた。無理やりこじ開けられた脚に、彼の温度が纏わりつく。
静に溶け合う私達がいる……。
体が重なる時間は長く思えた。
でも実際の時間は然程、経ってはなかった。裸で毛布に包まる──、私と彼がいる。
背後に抱きつく彼の鼓動が静かに、私の肌に心地よく吸い込まれていく。
「……、もう助平!」
「あっそれ、この間先輩に言われた。おまえ顔の割にって」
「うん。納得」
「……そうかな。でも今回のムラムラの要因はキミだよ?」
「私?」
素っ頓狂な声を出し、彼に顔を向けた。
「捕まえた」
私に深く口付ける彼がいる。私はゆるりと瞼を閉じた。なんだかんだで彼が好きなんだと思わされた。
「私がってどういう」
「まぁ、ほくろも、あと綺麗に伸びる雪のような脚にもあるけど……やっぱり」
太腿を撫でる彼の指に私はピクリと体が仰け反った。それにほくそ笑む人は更に口角を上げていた。
「フフ、酒乱さんは覚えてない?」
「今は呑んでないし、酔ってません」
秀麗に笑む彼の顔があり、私は頬を赤らめた。
「ひどいなぁ~、あの木の下で─。酔って僕を犯したのはキミだよ」
「いやいやいや、あなたじゃあないの……に!!」
「思い出した? 呑兵衛さん」
「もう……前のことだ、ょ?」
「でも僕は焼き付いている。あんなに激しい
私の瞳に食い入る彼にたじろい、逃げたくても逃れられない腕の中で全身を縮めた。折りたたんでいる足を腕で力いっぱい抱き閉じ、肩を竦め、顔を彼の胸にうずめる私がいた。
(思い出した。恥ずかしい)
「やっぱりキミはかわいい」
髪、耳、腕、首筋、肩にと─、むき出された肌に滝のようにキスを浴びす彼に溺れそうになった。
その時、私の空腹を知らせる合図がした。恥ずい私は彼がしてくれた愛撫の反応以上に、肌を赤く染めた。
おずおずした私に彼はひと言。
「ハハッ、だね。お腹空いたね」
彼は攻め弄る手を止め、私を手放しソファから離れた。
彼と繋がるのは好きだけど、今日はもう休みたいと思っていたところ。彼の熱情を起こしたのは私だけど記憶の羞恥が勝り、今は頭がぐちゃぐちゃ。それに……身体にはまだ、彼の灼き痕が残っている。
(こんな状態で求められたら私壊れそう……でも卑猥な彼の記憶を上回る私ってどんなだろう)
「もう忘れてよ」と、醜態を曝しておいて何だが嘆く私がいた。
「シャワー浴びながらシヨうよ」
「えっそん……な」
「だってまだキミが足りない」
破顔させる彼に抗えず、今度はお姫様抱っこで浴室へ。
(ああ、たぶん……記憶から忘れないなこれ)
蛇口を捻り、シャワーを出す彼は私を泡に包みそそっと弄り始めた。私は彼の遊具と化しそして─、濃密な時間が始まる。
(……もぅ!)
甘美な時間を終え、気持ちいい余韻に浸る私は彼に下着も、寝間着も着けてもらった。
ソファに寝そべり毛布に包まり、キッチンから漏れる調理の音を耳にする。彼は手際よく仕事の業務を熟すみたいに、力尽きた私を介抱しつつ料理も拵えていた。
「恥ずかしいなんて言えた義理じゃないな、私」
ぽそとぼやき、彼の調理姿を瞼に浮かべた。
(だるい……。下腹部もジンジンと、
鼻腔に香る甘ったるい醤油と砂糖、甘く焦げ付く玉葱の匂いにつられお腹はクゥと悲鳴を上げた。
(胃袋が文句を云っている)
寝転ぶ私を覗き込む彼がいた。心配そうな表情をする彼の手に調理終えたての牛丼が、湯気を白く上げていた。
「食欲はありそうだな。坐る?」
「……もぅ! 腰、尻脚、足先ガクガクよ?」
(お腹空いたぁあ眠ぃ、でも)
「ねぇなぜ牛ぅ」
「ああ、僕が食したかったからだけど?」
虚ろな意識の中、口に肉汁が染みこんだご飯が運ばれる。黙ってスプーンを頰張る私に彼は「赤ちゃんみたい」と、笑っていた。
私はそんな無邪気な彼に、眉間にきつくきつく皺を寄せ睨んだ。
(言うに事欠いて、もう!)
悔しいけどご飯は甘辛い肉とシャリシャリの玉葱が程よく絡み、すごく美味しい。
「五蔵六腑に染みわたる」という言葉があるがまさしくそれだ!
と、思わされる程に空腹だったことを思い出す。
(誰の所為よ、まったく……)
「もう。あすぅやすみぃ良かっ、たぁぁあ」
「フッ、眠そうだね」
歯を見せ笑う彼は満足気に私を見つめ、頬を撫でている。優美な彼の笑顔を目に焼き付け、半分呆れるも心は笑っていた。
うとうと……、私の瞼が閉じた。
「……」
(もう、かわいく微笑んで?)
気付くと私はベッドの上だった。開け放たれた窓から入る、冷えた空気に起こされた。
ベランダに、真っ裸で佇む彼が窺えた。おはようと笑顔を向ける彼の片手にはタバコがあった。
煙を吐き、オレンジの朝焼けを一身に受け、彼の姿が神々しく照らされていた。
その姿に、私は吹いた。
「なにが可笑しいの。僕が裸で外にいるから?」
「そうよ、阿呆な上にバカでしょう?」
「『風邪引くよ』とかはないの?」
「ないわ」
冷たく遇らう私に彼は、
「寂しいなぁ」
とぼやき、ベランダの柵に身体を預けた。尖らせた口から白煙をゆっくり、吐いていた。
煙草にも、花言葉がある。
『あなたがいれば寂しくない、孤独が好き、触れ合い……』
など。この言葉は葉巻きから立ち上る細い発煙が孤独に見える所から来てるのではと、勝手に解釈している。そして吐かれる煙は様々な姿に変え、孤独を打ち消そうとしているように思えた。
……煙草姿の彼は絵になり、完全に見惚れる阿呆な私がいた。
私と彼のあいだに流れる。
白い煙──。
孤独をうめる肌
甘えられる信頼
求め合う
彼は手にあるタバコを灰皿に押し付け、ベッドに戻ってきた。
外の空気で冷えたのだろう。ひんやりとする彼が私の肌に触れ、自分の体温の高さが彼にも伝わる。
「空気冷たい、寒い」
「うん、寒い温めて」
「いやよ、寒いもん」
私は彼の姿に安堵したから吹いたのだと思うけど……、内緒にしておこう。
私の額に冷気を纏う彼の額が合わさり、冷やっこい
私は彼を追い出した。
「さぶい!」
「ヤダ、そんな冷たい体は来ないで!」
「そこを何とか!」
まるで子どものように、互いが暖かい場所を取り合う。
はしゃぎ、笑い、じゃれ合い。
この光景が私にはポカポカして、とても暖かく満足なものだった。
◇◆◇◆◇花言葉◆◇ ◆
タバコ(
「あなたがいれば寂しくない 、私は孤独が好き、孤独な愛 、触れ合い、信頼、秘密の恋、援助、保護」
たくさんの言葉がありますね。あなたはどれが好きですか?
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆
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