先祖返り美少女、実は義姉につき。

赤城其

先祖返り美少女、実は義姉につき。

 俺の学校には、北欧出身の先祖を持つという世にも珍しい先祖返り美少女がいる。


 その名も桜井夏芽。高校2年生。

 

 腰まで伸ばされた薄い金髪と軽くつり上がった二重を彩る青い瞳が良く映える彼女は、北欧人らしいシャープさと、東洋人特有の丸っこさの良いとこ取りをしたような顔立ちをしている。

 れっきとした日本生まれの日本育ちなのだが、見かけだけで判断されて外国人に道を聞かれてしまうのが悩みの種なんだとか。


 制服をつんと押し上げる胸や、メリハリのある腰つきに154cmという平均より少し低い身長は、まさに世の男共の理想を体現している……とは戦死者リストに名を連ねている友人の言葉である。


 一見して陽キャで人を選んで付き合いそうな夏芽だが、意外や意外、人懐っこく誰にでも笑顔を欠かさないためか男女陰陽関係なく友達が多い。

 だからこそ、いつ恋愛関係に発展する人間がその中から出てきてもおかしくないと少なくとも周りはそう思っていたし、密かにその座を狙っていたようだが、それでも彼女は頑なに彼氏を作ろうとしなかった。


 そんな夏芽が、また男子を振ったという噂が校内を駆け巡ったのはとある週末の昼休み。今回玉砕した勇者は、野球部のエースとして主将を務めている勅使河原という先輩らしい。

 人伝に聞く限り、かなりのイケメンで悪い性格もしていなかったようだが……残念ながら今回も彼女のお眼鏡には叶わなかったみたいだ。


 まあ俺、桜井千秋にとってはまったく関係の無い話。

 自称情報通を名乗る友人の興奮気味な語り口を適当に聞き流しながらついたため息は、誰に聞かれることもなく教室の喧騒に飲み込まれていくだけだった。



☆☆☆☆



 友人と適当に街をぶらついてすっかり日が暮れてから家に帰った俺は、母さんのありがたいお小言を喰らいつつ飯を平らげてから風呂に入り、さっさと自分の部屋に引き上げる。

 久々にハマったマイ〇ラの大規模建築が佳境も佳境で、今は一分一秒でも時間が惜しいのだ。


 だが俺の部屋には────貴重な自由時間を蝕む魔王が居座っていた。


「お、来た来た。さっさと準備して素材集めを手伝いたまえ」


 勝手に部屋へ侵入していた奴は、我が物顔で俺のベットへ仰向けに寝そべりながらこっちを見ようともせずにそんなことを言う。

 小さな手に握られているのはスマホだ。

 どうせ流行りのソシャゲだろうが、生憎とやっている暇はないので当然無視する。それはもう気持ちが良いくらいに無視してパソコンを立ち上げた。


「無視するなっ」

「今から忙しくなるんで他所を当たって下さいよ桜井さん・・・・

「家じゃ他人のフリはしないってこの前約束したよね?」

「そうでしたっけ?」

「……そんなによそよそしくされたら泣いちゃうぞ?」

「ご勝手にどうぞ」

「うわ~ん、千秋が冷たい~」


 わざとらしい泣き真似をするプラチナブロンドと青い瞳が評判の美少女、桜井夏芽。

 俺はただ日々の約束事を実践してるだけだというのに、この人は一体何が不満なんだろうか。


 父さんの都合で高校入学を前にこっちへ引っ越してきた俺達は、知っている人が誰もいない学校への入学を機に完全な赤の他人を装っていた。

 そもそも俺達の共通点は苗字だけで、見た目からして純日本人に外人と、似ている所を見つける方が遥かに難しい。

 それでもこれを徹底しておかないと、また夏芽人気の波に飲み込まれて大変なことになってしまうのだ。



 ……ラブレターの橋渡しとか、嫉妬に狂った同級生の相手なんてもう死んでもごめんだからな。



 夏芽が着ているのは、ピンク色にポチポチと肉球がついたパジャマだ。

 曰く、わざと大きなサイズを着て萌え袖にすることがポイントらしいが……心底どうでもいいな!

 ここぞとばかりに見せつけている開かれた胸元から覗くベッドに押し付けられて歪んでいる胸にも、ふんわりと後ろでまとめられたシャンプー香る金髪でさえも、俺の男心は一切動くことはない。

 枯れてる? いやいや、普通に女の子は好きだぞ?

 休日デートがしたい、共通の趣味で一緒に盛り上がりたいという人並みな願望はちゃんと持っているわけだし、据え膳食わぬは男の恥って言うだろ? 俺だってそう思う。


 だけどさ……もしその対象が、たとえ血が繋がっていなかったとしても身内・・だったとしたら?

 いくら他人が羨むようなことを目の前でされたとしても、何とも思わないだろ、普通。


 そう、桜井夏芽は父さんの再婚相手として桜井家にやってきた母さんの連れ子だ。一応同い年だが、実は彼女の方が僅差で早生まれということで戸籍上は姉になっている。

 ちなみに、出会って一発目の印象はアニメから飛び出てきた女の子だった。

 太陽に照らされて輝くクセのない金髪と、心配そうに辺りをキョロキョロと見回すビー玉みたいな青い目。そしてこの世のものとは思えない可愛さ。

 当然鼻たれ小僧だった俺に、夏芽が生粋の日本人だなんて理解出来るはずもなく、母さんの影に隠れてしまった夏芽に『ねぇとうさん、ク〇ラがたってる』と、指を指してしまうのも無理もない話だった。


 そんな俺達も今や高校生。

 夏芽はすっかり女性らしくなり誰も隅に置けない話題の女子へと変貌を遂げていた。

 もう思春期特有のあれこれでどうでもいい喧嘩を繰り返し、少しずつ疎遠になっていたとしても何らおかしくないお年頃だ。

 ……だというのに、今もこうして俺の部屋に平然と入っては思うがままにくつろいでいる。


 これがはっきり言って鬱陶しい。


 しっかりと断ってから静かに漫画を読むなら全然構わない。

 作業の片手間に下らない世間話をする程度だったら、むしろ息抜きにもなるし、ガワ・・だけは周囲に自慢できる姉。言い方はあれだが……目の保養にもなるだろう。


 だが奴は、俺がどれだけ忙しかろうがお構い無しにやってきては迷惑を振りまいていくのだ。

 人のゲームや漫画は勝手に持っていくし、大切に食べていた高級な菓子は、見つけたら最後一息に食べてしまう。

 四六時中仕掛けてくる姉弟の域を軽く超えるスキンシップなんかもはや日常茶飯事だ。

 まだまだ列挙しきれない悪事の数々が山とあるが……改めて考えてみても本当にろくでもないな。


 とまあ、これが学校で人気のアイドル。今も昔もやたらと持て囃されている夏芽の────俺達家族だけが知っている真の姿だ。



☆☆



「そういえばさ」

「ん?」

「今日の話、聞いた?」

「まあ、あれだけ噂になってればな────とアレ忘れてた」


 結局諦めてベッドにまた寝そべった夏芽が、スマホをタップしながら漏らした呟きに適当に返す。

 そんなことより、建築資材確保の方が急務なのだ。


「なんて断ったか興味あるでしょ。まだ誰も知らない大スクープだよ?」

「別に────と、あったあった」

「……」


 少し間を開けて柔らかな衝撃が俺の後頭部を襲う。

 頭を擦りながら振り向くと、頬を目一杯膨らませたハムスターが振り切った手もそのままに睨んでいた。


「人の枕を投げるな」

「聞け」

「話だろ? 聞いてるじゃないか」

「ちが~う! ちゃんと聞き返してって言ってるの!」

「見て分かれ。今俺は超忙しいの」

「聞いてくれないとまたマグマダイブさせるよ?」


 な、なんて非道な行いをさらっと言いやがるんだ……。そんなことされたら今までの苦労が全部水の泡になってしまうじゃないか。

 それもわざわざ、俺がいないのを見計らって貴重な物ばかり持たせてから身投げさせるんだから、本当に質が悪い。


「分かった分かった。で、なんて伝えて断ったんだ?」

「ふっふっふっ……聞いて驚け! ついに・・・私! 彼氏がいるって宣言しちゃいましたっ!」


 そう高らかに宣言した夏芽は、自慢げにドヤ顔して豊満な胸を張った。

 へー……。そりゃ確かに大スクープだ。

 これで俺は晴れてこの悪魔から距離を置ける口実が出来て万々歳だし、こいつもこいつで、良い男に巡り会うことが出来て幸せと、本当に掛け値無しの良いことづくめじゃないか。


「これでようやく弟離れしてくれるってわけだな、うん。おめでとう」

「なんで? しないよ?」

「は? どういう風の吹き回しか知らないが彼氏を作ったんだろ。だったらこのままじゃ色々とマズいだろうが」

「だ~か~ら~、する必要ない相手なんだって────な、な、何をするんだよぅっ!?」

「そんな馬鹿なことを言う口はこれか、この口なのかーっ!」

「う~にゃ~~、離して~」


 ムカついた俺は、身を乗り出して柔らかな頬をこねくり回す。せっかく整った顔もこうなってしまえば台無しだ。

 それなりに深刻なトラブルに引き込もうとしてるんだ。是非ともここは存分に反省してほしい。


「いたた……乙女の柔肌に傷がついたらどうするんだよ~」

「自業自得だ自業自得。自分の所業をよく考えてみるんだな」

「でも…………。うん。私的にはホントに何の問題もないと思うんだよ」

「一体何をどうすればそんな結論が出るんだ……ホント頼むからしっかりしてくれ」

「なんなら保証しよっか?」

「まったく当てになりそうもないから断るっ」

「遠慮しなくてもいいのに」


 いたずらっぽく能天気に笑う夏芽は、わざわざベッドの縁に腰掛けなおしてパジャマに包まれたおみ足で膝をつついてくる。

 あれだけ男子を振り続けてようやく首を縦に振った相手がどんな奴かなんて、俺でも容易く想像できるというのに……どうして気付いてくれないのか。

 もしかして馬鹿? 馬鹿なのか?


「何か失礼なこと考えてない?」

「…………別に。ちなみに聞くけどさ、その相手ってのは誰なわけ?」

「そんなに知りたいの~?」

「質問を質問で返すな。まあそうだな。ここまで無駄に時間を使わされたんだ。一応聞いとかないと損ってもんだろ」

「無駄言うなし」


 小気味のいい音を立てながら蹴り続ける夏芽。俺はイライラを押し殺し、黙って続きを促した。


「ヒントはね、私のよ~く知ってる人だよ」

「どうしてそこでスパッと教えてくれないんだ……まあいいや、で?」

「その中でも1番付き合いの長い人」

「うーん? そんな奴いたっけか。俺も知ってる奴?」

「あー、うん。そうなるね」


 意味深に頷いてみせる夏芽。

 なんだそりゃ。……まあ、まず親はありえないから省くだろ? 小中からの知り合いなんて高校にはいないし。

 うーむ。どいつもこいつも戦死者リスト入りしているから、まるでそれらしいのが思い浮かばないぞ。


「さっぱり分からん」

「ホントに分からないの?」

「おう。だから勿体ぶってないでさっさと教えてくれ」

「目の前にいるって言っても?」

「目の前? 誰の?」

「もちろん私の」


 は? 今なんて言った? 夏芽の目の前って……俺しかいないじゃないか。

 念の為人差し指を自分へ向ける。そして目で確認してみると、にっこりと微笑みかけられてしまった。


「ははは……。夏芽、それは流石に冗談キツいって」

「冗談なんかでこんな大切なこと言わないよ」

「いや……………嘘だろ?」

「ちなみに賞品は結婚前提のお付き合いね。やったじゃん!」

「やったじゃん! …………じゃないっ! なんだ俺が彼氏って! そんな話初めて聞いたわ!」

「知らなくて当然だよ。初めて打ち明けたんだし」

「お前なぁ。……大体、俺達は姉弟────」

「────だけどさ、血は繋がってないんだよ?」


 ある意味ド正論な発言に遮られてつい口をつぐんでしまった。確かに法律的に問題が無いことは聞いたことがあるような? いや、冷静になれ俺! どうせこいつの事だ、絶対に何か裏があるはずだ!


「分かった! 告白されるのがいい加減嫌になったから、俺を風よけにするつもりだな?」

「ひどいっ! 私そこまで性悪じゃないよ!」

「どの口が言うんだ、どの口が」

「……」


 お、おい。急に黙り込むなよ。

 耳まで真っ赤にしちゃってさ。そんなしおらしい姿、全然お前らしくないじゃないか。


「千秋が約束してくれたんだよ? 将来私を……その、お嫁さん・・・・に貰ってくれるって」

「俺が? そう言ったってのか? 何時? どこで?」

「…………っ!? もしかして……ホントに覚えてないの!?」

「お、おう……」


 服の裾をギュッと握りしめながらジト目で睨んだって、覚えてないものはどうやったって思い出せないぞ。記憶力には自信がある俺だが、そのキッカケさえ掴めないとなると相当昔の出来事なのかもしれない。


 半ば真っ白になった頭を必死に整理して思い出そうと奮闘していると、とうとう我慢出来なくなったのか夏芽はわざわざ床に落ちていた枕を拾って再び投げつけ、『バカ千秋っ』と叫んでドタドタ足音を響かせて出て行ってしまった。


 あの表情────。久しく見ていなかった気がするが、最後に見たのはいつだっただろうか。


「あっ……」


 枕に移った彼女の残り香を感じつつ記憶を掘り返し続けていた俺は……ついに思い出した。鮮明に。強烈に。それはもうハッキリと思い出してしまった。


────出会って数年経ったある日、幼稚園に通っている時に起きた出来事だ。

 その日は遊戯会本番で、俺達年長組は劇をすることになっていた。夏芽はその容姿を買われて姫役。俺は彼女に王子役として指名され、それぞれが気合十分に臨んだ舞台。

 楽しみにしている両親を喜ばせるために、俺も夏芽も一生懸命練習した。特に夏芽は憧れのヒロイン役ということもあり、幼心に微笑ましく思えるくらい頑張っていたんだ。


 しかし、ハプニングというのはどれだけ練習を重ねても起こってしまうもので……。

 途中まで練習の成果を存分に発揮していた夏芽だが、なんと、勝手を働いた他の園児に巻き込まれセリフが頭から飛んでしまったのだ。

 ざわめく会場。それでもめげずに思い出そうと頑張るが上手くいかず、ついに俯いてしまう。そんな時、いの一番に助け舟を出したのが……何を隠そうこの俺だった。その結果、劇はトラブルを除いて大成功。両親と先生に咄嗟の行動を褒められて凄く誇らしかったのはよく覚えている。


 そして遊戯会も盛況のままお開きとなり両親に挟まれて歩いた帰り道に、隣で悔し泣きをしている夏芽の手を取った俺はこう言ったんだ。


『しょうらいなつめちゃんをおよめさんにする! こんなにかわいいのに、ずっとないてるなんてもったいないよっ!』


 当時の俺が、足りない言葉を総動員して作り上げた精一杯の慰めだった。

 今にして思えば、何を言ってるんだってツッコミの1つも入れたくなるが、今更昔に吠えたってしょうがないな。


 それにしても、俺なんてついさっきまで欠片も覚えていなかったというのに、それを今まで片時も忘れずにいたなんて……変な奴だよ。本当に────


 小さな夏芽が、泣き腫らした青い目を細めてひまわりのような笑みを浮かべる懐かしい光景に、思わず額に手を当てて天井を仰いだ。


「────俺が彼氏……か。ははっ、どうすればいいんだろうな」


 姉弟継続か、はたまた恋人にクラスチェンジか。そんな重要極まる案件をいきなり眼前に突きつけられたところで、すぐ答えなんか出るわけがない。世間体も考えたら尚更だ。


 しかも、どうやら昔の俺は夏芽のことが好きだったらしい…………だとしたら、今は?


 誰もいなくなったベッドを見る。

 乱れたシーツの上には、夏芽のスマホがゲーム画面を表示したまま楽しげなBGMを奏で続けていた。


────ガチャ。


 ドアの開く音にボーッとしながら目だけを向けると、さっき怒って出ていったはずの夏芽が、とてもバツの悪そうな顔をしてひょっこりと顔を覗かせていた。


「どうした?」

「あはは……スマホ忘れてたの思い出しちゃって」


 手で入るように促すと、恐る恐るベッドに向かいスマホを手にする夏芽。横目に見た彼女の頬には涙の後がうっすら残っている。 


「あのさ……夏芽」


 何となく罪悪感を感じて、おやすみと一言残して足早に出ていこうとした夏芽を呼び止めてしまった。

 振り向いて首を傾げる夏芽に言葉を続けようとして固まる。

 ……しまった。気の利いた言葉が何にも浮かばないぞ。


「あーその、なんだ。……全部思い出した」

「へ~、それで?」

「確かに言ってたみたいだな、俺」

「でしょ? 私、嘘だけはつかないんだよ」

「なんか、すまんかった」

「分かればよろしい」

「でもさ……良いのかそれで。姉弟なんだぞ」


 やれやれと腰に手を当てた夏芽は、椅子の後ろにまわると背もたれごと包むようにして抱きついてきた。

 パジャマ越しの柔らかな胸が後頭部にえもいえない感触を与えてくる。

 ほんの少し前まではなんとも感じず、それどころか嫌悪までしていたというのに……なんなんだこの胸の高鳴りは!


「仮にも、でしょ。あの日からずっと私は恋人のつもりだったんだけどな~このニブチンめ」

「……もしかして、ただの姉弟だと思ってたのって、俺だけか?」

「そゆこと。なんならお母さん達だってそう考えてたんじゃないかな?」

「な、なんだって!?」

「思い返してみてよ。あの時隣には2人もいたんだよ? 私達ダイスキーな2人がさ。そんな人達が可愛い息子の頑張ってる姿を見てさ……何も思わないと思う?」

「た、確かに……」


 そうだ、あの場には両親もいた。未だ親バカ街道まっしぐらな2人のことだ。きっと今でも人の恥ずかしい思い出を酒の肴にしているかもしれない。

 そう考えると、なんだか無性に恥ずかしくなった。


「耳真っ赤だよ? ……あはっ、急に意識しちゃって恥ずかしくなったとか?」

「う、うるさいなっ!」


 耳元で甘い吐息を吹きかけるように囁いてくる夏芽を慌てて振りほどくと、彼女は俺の腕から逃げるように扉の前へ。


「じゃ、そういうわけだから改めてよろしくね! │彼氏くん《・・・・》っ」


 軽い足取りで扉を開けて出て行く瞬間、飛びっきりの笑顔でテンポ良くそう言い残して出て行ってしまった。

 再び1人になった俺は、脱力して椅子に深くもたれかかる。しばらくシミ1つ見当たらない真っ白な天井を眺めた後……全てをかなぐり捨てるようにベッドへとダイブした。



☆☆☆☆



 次の日、他に誰もいないのを見計らいそれとなく母さんに確認した俺を待っていたのは────


「────確かにそんなこともあったわねえ。いいんじゃない? 連れ子婚。お母さんは全力で応援するわよっ」


 と、盲点だったとばかりに喜んで俺の肩を叩く母さんの姿だった。


 こうして最後のトドメは俺自らの手で刺してしまったわけだが……不思議と気分は悪くない。

 これが後へ退けなくなった事による諦めの境地というやつなのか、なんとなく停滞していた気がする日常が動き出すことへの仄かな期待感から来るものなのか。俺には分からない。



 俺の学校には、北欧出身の先祖を持つという世にも珍しい先祖返り美少女がいる。


 その名も桜井夏芽。高校2年生。


 そんな夏芽が、とある男子と付き合い始めたという噂が校内を駆け巡ったのは、あれから数日後の昼休み。

 見事射止められたというその男子の正体は明らかになっていないが、本人曰く、幼い頃の英雄ヒーローでそれなりにイケメン。残念ながら全然素直じゃないが、とても可愛い性格をしているらしい。


 ……まあ、全部俺のことなんだけどな。


 自称情報通を名乗る友人の興奮気味な語り口を、適当に聞き流しながらついたため息は、誰に聞かれることもなく教室の喧騒に飲み込まれていくはずだった。

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