第2話

 


 夏の終わりはいつなのか。夏至の後か、8月末か、それとも9月末か、はたまた気温次第でその年によって変わるのか。今年の夏は例年以上に暑かった気がしたせいか、緋成はそんなことを考えていた。


 カラン、と鳴った入口の扉の鈴。やって来た咲奈は、冬服と呼ばれる紺色セーラーを着ていた。


「……暑い!!」


 噛み締めるように言いながら、長い袖を雑に捲る。


「確かに暑そう。てか今日早いね」

「昨日から中間テスト」

「あー、そんな時期か」


 カウンターのいつもの席に座り、当たり前のように教科書とノートを広げる。


「なんか飲む?」

「緋成くんの奢り?」

「何でだよ」

「じゃあとりあえず水ください」

「水だって本当はタダじゃないからね」

「わかってる。お願いします」


 ペコリと会釈する、そんなちょっとした丁寧さに負ける。水を注ぎ、少し離れた位置にグラスを置いた。ちらりと見えた教科書に、緋成は驚く。


「へー、倫理やるんだ。僕の高校は選べなかったな」

「えっ、そうなんだ」

「地理か日本史か選ぶ感じだったかな。世界史は必修で」

「世界史めちゃ苦手。カタカナの羅列に弱い」


 咲奈はシャープペンシルのノック部分を頬に突き刺し、カチカチと芯を出す。そして続ける。


「倫理も考え方は面白いんだけど、それを言った人は誰か?みたいなのがほんとに覚えられない」

「あー、それはそうかも。テスト形式になると別だよね」

「うん。これはそもそも何か?って突き詰めていく感じは、結構夢中になる」


 頷いた咲奈は、目線をノートに移す。黙々と文字を記していたと思えば、突然顔を上げた。食器を洗っていた緋成は、思わずガチャッと音を立ててしまった。


「びっくりした」

「なんか流行りの曲ってさ、誰かが誰かを好きみたいなのが多いじゃん。何かの主題歌だからっていうのもあるかもしれないけど」

「え、そう言われたら、そうだね」


 緋成は同意する。脳内には、昨日の音楽番組で見た週間人気チャートのラインナップが浮かんでいた。咲奈の言うことが全てではないにしろ、そういった曲が母数として多いのは確かだろう。


「この世界の全部を愛とか恋に繋げないでほしいし、そこにいくまでの伏線にしないでほしい」


 咲奈はグラスから伝った水を人差し指でなぞる。そうやってできた跡をナプキンで拭き取り、グラスの下に敷いた。


「ねー、緋成くん」

「ん?」

「来週火曜の夜、空いてる?」




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