第3話 シルヴィアの考察
◇◇◇
翌朝
シルヴィアは、マリーに頼み、歴史書を部屋へと運んでもらった。受け取るや否や、夢中で読み進めた。
「シルヴィア様。お手伝いいたしましょうか?」
「ありがとう、マリー。でも、一人で読みたいの」
「……。シルヴィア様は、いつの間に古代語を習得なさったのですか?」
(っ!!!しまったわ!今の
シルヴィアは、慌ててマリーから視線を逸らせ、必死に言い訳を考えた。
「絵を!絵を眺めているのよ」
「では、図鑑をお持ちいたしましょうか?」
「今は、この本がいいの!」
「左様でございますか」
(ふう。誤魔化せたようね。マリー、ごめんなさい。もう少し、気持ちの整理がついたら、一番に告白するわ。だから、許して!)
◇◇
この時代、本は貴重品だ。
宝石よりも高値で取引される。
紙自体が貴重なので、多くの書物は羊皮紙を使用している。
識字率も非常に低く、平民で読める者は少ない。
◇◇
既に読んだことのある内容に関しては、確認程度に流し、サクサクと読み進める。やがて、記憶にない時代の記述に辿り着いたが、それらしい記載は見当たらなかった。
シルヴィアは「はぁ」と、溜息を吐いた。
(仕方ないわ。端から期待はしておりませんでしたもの。歴史書に記すには、都合が悪かったということですわね)
歴史は、勝者によって創られる。為政者に都合の良いことしか記されていない。
十六歳のシルヴィアは、記憶力に優れ、旺盛な知識欲と凄まじい魔力を有する令嬢だった。だが、四歳のこの身体は、あまりに幼すぎて出来ないことが多い。精霊の補助を必要とする魔法は使えない。
(神の御慈悲なのかしら?ならば、与えられた二度目の人生の全ての瞬間を全力で楽しみますわ)
最早、シルヴィアに焦燥はない。四歳の自分を鍛え上げ、磨き上げる。どれ程の高見を目指せるのか。自身を治験にした人体実験ともいえる考えに、シルヴィアは高揚していた。
今にも高笑いしそうなシルヴィアの表情は、悪役令嬢というよりは、まるでマッドサイエンティストのようだった。
◇◇◇
全快したシルヴィアは、力を身に付けるべく、こっそりと鍛錬を始めた。
(努力で身付く力は、全て手に入れてみせますわ。魔力、体力、知力、胆力、財力、魅力、人脈。要の【運】を味方に付けるには、どうすれば良いのかしら?)
全てを失った記憶は壮絶なものだった。愛する家族や民を殲滅され、肥沃な大地は、紅蓮の炎に包まれ焦土と化した。再びその光景を目にすることなど、耐えられない。
(幼いこの身体では、初歩魔法すら使えないわ。毎日、魔力を限界まで使い、少しずつ許容量を増やすしかありませんわ)
魔力を枯渇するまで使い切ると、身体への悪影響が出るので危険だ。時間をかけ、過度な負担をかけないように、徐々に許容量を増やしていくしかない。
(それに、疲れ切って眠らないと、あの悪夢を見てしまうもの)
シルヴィアは、倦まず弛まず、鍛錬に明け暮れた。
◇◇◇
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