第4話 シルヴィアの新しい日課
◇◇◇
シルヴィアは、体力を付ける為に、庭園を走ることにした。一人での行動が許されるのは庭園までだ。邸宅内を走るなどという愚行は、思い浮かびもしない令嬢シルヴィアではあったが、デイドレス姿で走っているところを、マリーに窘められた。今は、兄から譲ってもらった乗馬服を着ている。シルヴィアは自分で服を着ることも、靴を履くことも出来るようになった。
余談ではあるが、貴族は自分で着替えたりなどしない。顔を洗うことも、用を足した後の処理も人任せ。寧ろ、使用人の仕事を取り上げてはいけないのだ。
そのような環境で生まれ育ったシルヴィアだが、最低限の簡単な身の回りのことは自分で出来るようになりたいと努力している。ボタンを留めようとすれば掛け違え、リボンを結ぶのは高度な魔法を習得するよりも難解で苦戦を強いられた。服を着ることができる、靴を履くことができる、という我々には造作も無い行為が、シルヴィアにとっては、不屈の精神で勝ち取った栄冠なのだ。
ナイトレイ侯爵領は、大海に面した断崖絶壁と、神々が住まうと言い伝えられる深い聖なる森と険しい山脈を自然の要塞とする小さな城砦都市だ。
城は、丘の上にある。
番人の詰め所である大小三つの塔に囲まれた居館には、沢山の部屋がある。侯爵家の四人各々が、私的な部屋と公の部屋を所有し、領主夫妻の部屋は夫妻の寝室を中心にして、左右に各々のサニタリールーム、ドレッサールーム、公室を配している。
他には、礼拝堂、大広間、広間、客室、執務室、応接室、図書室、貴賓用と家人用の食堂、サニタリールーム、裏方の炊事場、洗濯場、貯蔵庫、使用人の個室などがある。
少し離れた場所には、私兵の訓練場と厩舎があり、更に離れた場所には、大浴場がある。天然温泉が
庭園は、庭師によって丁寧に整えられた前庭と、薬草や野菜、季節毎の花々や果樹が植えられた裏庭がある。
◇◇◇
夜明け間近の早朝
春の訪れが近いことを告げる庭。裏庭のガゼボの脇にあるバードバスで水浴びをする小鳥たち。
シルヴィアは、まだ冷たい風を受けながら、気持ちの良い汗を流している。
「トムじい、ごきげんよう。骨病みなさいませぬようにお願い致しますわ」
「ハル、いつもありがとう存じますわ」
白い息を吐きながら、立ち止まり、庭師や厩務員に労いの声を掛ける。家人たちは、愛らしいだけではないシルヴィアを、益々愛さずにはいられない。
馬が大好きなシルヴィアは、どうしても厩舎の前を素通り出来ない。驚かせないように、静かに厩舎へ立ち寄る。
この厩舎には、五頭の馬がいる。やんちゃな青毛のダークナイトは一歳の
「ダーク、いい子。すっかり食欲も戻ったのね。疝痛が直って本当に良かったわ」
シルヴィアは、一頭一頭、名を呼び、声をかけながら、そっと額を合わせ、抱きつく。馬たちは、悪夢に疲弊したシルヴィアの心を癒してくれた。
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牡馬?流星鼻梁鼻白??と思った読者様へ
馬用語豆知識
最も一般的な毛色。鹿の毛のような茶褐色。ただしタテガミ・尾・足首に黒い毛が混じる。
黒みがかった鹿毛。青鹿毛とは区別しづらいが、四肢や長毛の黒さに対して胴体がやや褐色を帯びている。英語では青鹿毛と区別しない場合が多い。
全身が黒で、大きく動く関節や、眼や鼻などに褐色がある毛色。
肌も体毛も黒く、全身が黒一色。
栗色(黄褐色)の毛色。細かく分ければ黒い順にBlack Chestnut(黒栗毛)、紅梅栗毛、紅栗毛、liver/dark chestnut(栃栗毛)、chestnut(栗毛)、Sorrel(
灰色の毛色。一般に白馬といえば年をとって白くなった芦毛馬のことを言う。排尿時にメラニン色素を排出し、年を重ねるにつれ白くなっていく。
牡馬(おうま、おすうま、ぼば、おま)、雄馬(おすうま、おうま)とも言う。
牝馬(めうま、めすうま、ひんば、めま)、雌馬(めすうま、めうま)とも言う。
ソックス:肢下部の白斑。四肢が長靴下を履いているかのように見える。
流星鼻梁鼻白:顔面白斑。額から鼻先まで連なった白く細い線状の斑。
体高:地面からき甲(肩の位置の最も高いところ)までの長さ
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