第7話 霧中のキスカ島 撤退作戦 4

千島列島、幌筵島の気象台は、7月25日以降、キスカ島周辺で濃霧が発生するとの予報を出した。

第一水雷戦隊は再び、キスカ島に向けて出航した。

ただし、旗艦には第5艦隊司令部の将校たちも同乗した。

第一水雷戦隊の司令が再び、突入中止を行うかもしれないため、その督戦のためである。


さっそく、濃霧が発生した。

霧中標的すら見えないくらいの濃霧だ。

ついに、衝突事故が起きてしまう。

損傷がひどい艦艇は、引き返すことになった。


7月26日。

濃霧の中、米軍の戦艦のレーダーが、キスカ島周辺で日本軍の艦艇を捕捉。

米軍は攻撃を開始した。

米軍の戦艦や巡洋艦は、レーダーで捕捉した日本艦艇に向けて、36cm砲弾118発、20cm砲弾487発を発射。

レーダーからは日本軍艦艇の反応が消えた。


米軍の提督は、日本艦隊を撃滅したものと判断、キスカ島周辺で警戒に当たっていた全艦艇を、燃料や弾薬の補給のために、一時撤退させた。

日本軍は、この時の米軍の無線を傍受していたが、同士討ちをやっているのだろう、と思っていた。

米軍がレーダーで捕捉したものは誤認であった。つまり、そこに日本軍はいなかったのである。

米軍は、大量の弾薬を無駄遣いしたことも知らず、勝利を確信して海域から離れたのであった。


一方、日本軍の方では、Xデーは7月29日に決められた。

しかし、前日の28日に、またも霧が晴れてしまう。

司令官は決断を迫られた。


艦隊の燃料の問題もあり、延期することはできない。

予定通り、7月29日にキスカ湾に突入することが決定された。


7月29日午後0時。

艦隊はキスカ湾に突入。

運よく濃霧が発生していた。

旗艦は湾内に米軍艦艇を発見、濃霧の中、魚雷を発射した。

魚雷は全弾命中。

しかし、後になって分かったことだが、湾内に米軍艦艇は1隻もいなかった。

敵艦だと思っていたものは、ただの小島であった。

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