第5話 霧中のキスカ島 撤退作戦 2

霧の中の航海では、味方の艦同士での衝突事故が起こりやすい。

また、当時の日本海軍の巡洋艦や駆逐艦には、レーダーが付いていない。

有視界航行、つまりは肉眼で確認しながらの航海しか方法がなかったのである。

しかし、最新の駆逐艦「島風」にだけは、レーダーが搭載されていた。

これを艦隊に加えることで、濃霧の中の艦隊航行を行える見込みが立った。


では、レーダーがない他の艦艇は、どうすれば衝突せずに濃霧を航行できるだろうか。


各艦艇は、水に浮かぶ目印を艦尾から引きながら航海することとした。

後ろの艦艇は、前の艦艇が引く目印を見失わないように航海することで、はぐれたり衝突したりせずに、一定の間隔で縦列航海ができるというわけだ。


また、万が一、米軍に発見された場合に備え、煙突の偽装を行うこととした。

日本軍の駆逐艦は、煙突が3本立っている。

一方、米軍の駆逐艦の煙突は2本である。

出撃する日本軍の駆逐艦は、煙突のうち1本を白く塗り、霧に紛れて見えなくなるようにした。

こうすることで、煙突が2本の米軍駆逐艦だと敵に誤認させることができるかもしれない。


この作戦は、キスカ島周辺に濃霧が発生していることが条件となる。

まず、キスカ島周辺の天候調査を行うための潜水艦隊が出航した。

続いて、千島列島の北の端近くにある幌筵島から、救出作戦を行う第一水雷戦隊が出航した。


7月12日。

Xデー。作戦決行日である。

なんと、キスカ島周辺の海域は晴れているではないか!

これ以上近づくと、敵の航空機に発見され、空襲を受けてしまう。

第一水雷戦隊の司令は、これまでの戦いで、艦隊は空からの攻撃に弱いことを十分すぎるほど知っていた。

救出作戦は翌日に延期となった。


7月13日。

再びキスカ島に近づくも、こんな時に限って霧が晴れてしまう。

このまま突入するか、それとも、いったん下がって霧が発生するのを待つか。

決断しなくてはいけない。

司令は、翌日への延期を決定した。


7月14日。

やはり、霧が発生していない。

またも、キスカ島への突入を中止する。


7月15日。

霧が多いはずのアリューシャン列島に、どういうわけだか霧が発生しない。

さすがに艦隊の燃料の不安も出てきた。

霧がないまま救出作戦を行うのか、それとも、千島列島まで引き返すのか。

決断しなければならない。

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