第3話 アッツ島の戦い 3

5月29日。

日本軍守備隊は、最期の突撃準備に入った。

隊長は、東京の大本営に宛て、最後の電報を打った。

内容は以下の通り。


「我が部隊はほぼ壊滅。生存者150名。陣地の大部分を喪失せり。これより、敵に最後の鉄槌を下し、これを殲滅し、皇軍の真価を発揮する。野戦病院に収容中の負傷者は、軽症者は自らを処理させる。重傷者は軍医をもって処理させる。非戦闘員は武装し、後方から支援させる。生きて捕虜となることのないよう覚悟させた。この後、無線機と暗号書を焼却す」


いよいよ、最期の突撃である。

この地域ならではの深い霧が今夜も辺りを覆っている。

弾薬を使い切っていた兵士も多い。夜霧に紛れての銃剣突撃である。

隊長は右手に軍刀、左手に国旗を持ち、先頭に立った。


「突撃!」


皆、どこかしら体を負傷しており、足を引きずりながら、膝をつきながらの突撃を行う者も多かった。

青ざめた表情の日本兵たちが集団で向かってくることに気が付いた米兵は、身の毛がよだつ思いだった。

米兵は隊長を狙撃する。しかし、また立ち上がって這うようにこちらに向かってくる。

米兵は、拡声器を用いて

「コーサンセイ! コーサンセイ!」

と呼びかけるも、日本兵に降参する様子は見られなかった。

米兵は機関銃を掃射。

次々に日本兵は倒れていった。


5月30日。

大本営発表。

「アッツ島守備隊は、極めて困難なる状況下において、優勢なる敵兵に対し、皇軍の神髄を発揮せんと決し、全力を挙げて壮烈なる攻撃を敢行せり。通信は途絶。全員玉砕せるものと認む。傷病にて攻撃参加し得ざる者は、これに先立ち自決せり」


大本営発表にて、初めて「玉砕」という表現が使われたのであった。


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