ライアル商会の航行記録

えでぃ

短編注意

 狭いコックピットの中には機器に赤い点滅の光が反射して警告音と機械的な声が鳴り響く。




「Warning. Lock on. Warning. Lock on.」




「うるせぇ。わかってんだよ、このぽんこつAIが」




 操縦桿を左手で握りしめ右手で多数あるスイッチを切りかえていた男が悪態を付きながらとあるスイッチを殴りつけると、警告音と機械音がなくなった。




 一瞬静かになったコックピットの内部にはしばらくの間スイッチの切り替えの音と、何かが電気に触れたような音だけしか聞こえなかった。




 コックピットの外は岩礁地帯となっており無数の岩石が漂っているが、時折いきなり光ったかと思ったら砕け散りほかの岩石に破片が当たり広がった隙間を縫うようにこの宇宙船が飛行しているようだった。




 宇宙船を先へ先へと進めていると岩礁地帯を突破した。


 岩礁地帯を突破して見えてきたのは大きな惑星で、白と茶色のマーブル模様に宇宙からいくつもの柱が刺さっていた。




「あ、しまった」




 男が、慌てて後ろを振り向き操縦桿を倒すと、強い衝撃が襲ってきた。




「ぽんこつIAめ。なんで教えないんだ」




 先ほど自分で音を消したのを忘れて怒鳴りつけ、殴りつけたスイッチをもう一度触る。




「Warning. Left wing左翼 engineエンジン dropout脱落. Warning. Left wing engine dropout.」




「嘘だろ?」




 計器を見てみると正常なら緑色に光る左側のエンジンのマークが黒くなっておりセンサーが感知できない状態となっていた。




 そして現状この飛行機を使いこの惑星の重力から片方のエンジンのみで逃げるのは不可能とであり、このまま惑星に落ち圧死するのを待つか、追っている敵に嬲り殺されるかの2択しかない状態だった。




「救難信号を。だめだこの状況で救難信号を出しても無視される」




 現在この惑星のメタンガス採掘権をめぐり戦闘になっており味方も敵も到底圧死する前に救出部隊を出せるほどの余裕はなかった。




『よお、逃げるだけしかない能無しもこれまでだな?助けてやろうか?』




 追ってきていた宇宙船が横付けしてきており、短波によるオープンチャンネルを使いから連絡が入った。




「っけ、おめぇに助けられるくらいなら。親父のケツにキスする方がましだ」




『ほうほう、そうかよ。それじゃ残り少ない命楽しめや』




 そう言うと回線を切り、宇宙船が離れていった。




 その間もスピーカーから聞こえてくる音を無言でスイッチを切ることで消し、操縦桿で角度を調整し始めた。




「もうちょい。もうちょい。よし」




 角度の調整が終わり、いくつかのスイッチを入れていく。


 すると衝撃が襲い、計器の翼の部分が黒くなった。




「翼のパージを確認」




 翼を切り離したことにより、角度が少しずれたのか、調整を行う。


 調整が終わると、次の衝撃が襲ってくる。


 計器には、後部の尾翼の部分が黒くなっていた。




「尾翼パージ確認」




 外を映すモニターは少しずつ赤く燃え上がっている。


 それにも動じず、計器の操作を続ける。




「スタブ翼展開。エンジンに燃料注入」




 計器をみると尾翼があった場所にスタブ翼とエンジンのマークが追加され緑色になっている。




「エンジン点火。このポンコツAI何とか言いやがれ」




 またもや自分で消したことを棚に上げ、悪態を付きながらスイッチをたたく。




「All green. Ignition」




 スピーカーから機械音が流れると同時に体が椅子に押し付けられるような感覚と大きな揺れが襲ってきた。




『・・・・ちょう・・・て』




 意識が持っていかれそうになりながら岩礁地帯をよけて翼を失くした宇宙船が飛んでいく。




『せ・・・う・・・・』




 何とか首を動かし外の光景を見るとそこには母艦が爆発する瞬間が映し出されていた。




『起きろって言ってるでしょうが』




「ぐっぼ」




 大声とともにおなかに強い衝撃を受け背中を壁に打ち付けた衝撃で目が覚めた。




「やっと起きた?こんな通路の真ん中で寝るなって何度言ったらわかるの?」




 上部の取っ手に両手をつけてスカートの中身が見えている状態でこちらを見下ろしていた。




「おいおいスカートの中身が見えてるぞお嬢さん。まだ若いんだから気を付けないと」




 スカートを抑えながら降りてきてそのまま膝で頭を踏みつけてきた。




「大きなお世話ですぅ。それに私は社長にお嫁にもらってもらうので、見たいならどうぞ見てください」




 そういいながらも今度は下の取っ手を握り膝で私の頭を押さえつけてくる。




「お嬢さんや、こんな左手が不自由な男と一緒になっても幸せになれないよ。それ以前にそのきれいなおみ足を顔の上からどかしてくれませんか?」




「どかしてほしいなら今後自分の部屋できちんと寝ることと、私と結婚することを誓いなさい」




「この船は船長の俺の俺の家なのどこで寝ようと勝手でしょ?それ結婚するならもっといい男見つけなさい」




「なら、少しの間あなたの好きなおみ足を眺めてなさい」




「そんなこと言ってもいいのかな?今回向かってる港の場所を覚えている?」




「グルーフェンでしょ?それだどうしたっていうのよ」




「その港はどこにあるのか覚えている」




「だから惑星グルーフェン。え?まさか」




「その通り。今回の仕事で資金がたまり船の購入資金が溜まりました拍手」




 俺が拍手をするのと同時に左手だけ取っ手から外して太ももをたたき、拍手に合わせてくれる。




「それで?新しく船を新調して私と結婚してくれるでしょ」




「だからもっといい男探しな。それより今は妹と同室でしょ?個室いらないのかい?」




 その言葉を言い終わらないうちに足がどかされ抱き着かれた。




「いる」




「今回は、重力調整区画もあるからすごしやすくなるよ」




 抱き着かれた反動で流れに任せていると扉に近づき自動に開かれる。




「あいちゃん聞いた?船新調だって」




 操舵室にたどり着くと抱き着く手を放して、手首をつかみ、操縦席で小説を端末で読んでいた妹に片手で抱きついている。




「お姉ちゃんうるさい。それを知らないのはお姉ちゃんだけだから」




 雑に手を払いのけて押し返してくる。


 その反動で船長席に着くと少女を抱えて席に着く。




「それで、グルーフェンに到着はいつになりそう?」




「半日後ですね。つなぎます?」




「よろしく」




 少女を残りの空いている席に押し出しながら、通信がつながるのを静かにまつ。




『こちら港社こうしゃのビンセルだ』




 映し出されたのは50歳くらいのスーツ姿の頭をそり上げた強面の男性だった。




「こちらライアル商会社長のライアルだ」




『なんだライアルかよ。まだ生きてやがったか』




「うるせぇ。この港の港社は人手不足かよ他ならカワイイ女性が対応してくれるのによ」




『っけ。お前みたいなおっさんの相手をしたがる物好きがいないだけだ。それより寄るのか?』




「あと半日で着くからよろしく。今回は船の購入だから」




『了解。それなら報告来てるぞ。13番デッキに新しい船が入ってるからそこに向かってくれ』




「ありがとうよ。今度寄ったときに連絡するから飲みに行くぞ」




『おう、楽しみだな』




「それじゃ、通信終わり」




 通信を切ろうとしたときに相手は手を挙げるだけで答えを返してきた。




「聞いての通り13番デッキに向かってくれ」




「はーい」




 少女たちが計器を触るのを眺めながら席に深く腰掛けてひと眠りするために目を閉じた。

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