Report:4: 幼女の笑顔を掴み隊



 司令室の前にたどり着いた僕とデュモンは、マリオンと再会した。


「ちょっとレッド。ダメじゃない小さい子をそんな抱き方しちゃ」

「うぐっ」

 そして再会早々叱られ心が痛む。

 僕はここまで来るのにずっとアズリィル(幼女形態)を小脇に抱えてきていた。


 細胞の耐久持続能力の低いシリカノイドでも、体格や身体能力はすでに日常生活をするに困らない充分な状態で培養槽から生まれる。

 特に今回惑星探査の為に編成された僕らみたいなタイプは、フィールドワークを必要とするから一般のシリカロイドより丈夫にできている。僕だって普通のシリカノイドよりも体幹や持続稼働能力が優れてデザインされている・・・らしい。生まれた時からこう在る物だから知識だけで あんまり実感はない。

 だから小さな子は気をつけて接してあげなければならないとまず習うのだ。情緒を育てる為に行われる、小動物に触れる経験もそのカリキュラムの一環だったりする。

 そう習ったけれどもだ。


 中身が『傲岸不遜な女王天使アレ』だと思うと扱いもぞんざいになろうと言うもの。


「でも良かった。ちょっと仲良くなれたのね」

「ウン 天使が妥協してくれたから……」

 マリオンの言う『仲良くできた対価』はアズリィルの盛大なカミングアウトだったのは間違い無いと思う。いや仲良くなったって言えるのかこれ。今だって抱えられたままちょっとどついてきたぞ。

 これ以上抱えていて蹴られるのも嫌なので地面に下ろしてやれば、急いでマリオンの足元に駆けて行った。いや睨むなよ。


 そこで大音量で朗らかな笑い声が司令室に響いた。部屋の中央に設置された円形型の立体投影機の手前に立つ、三人の人物たちの真ん中に彼がいる。


「シリカノイドでも冗談が言えるのだなぁ!」

 彼の名はヴィルヘルム・『C.キャプテン』ガスパール。

 この第一次恒星エデン第四惑星探査隊の総隊長だ。元警官らしい彼の体格の良さは、短く刈り込んだ頭髪を獅子のたてがみのようにも見せている。なのにカツカツと爽快に笑窪まで浮かべて笑う様が、彼から威圧感を感じさせない。相変わらず凄いヒトだ。

 むしろそれを感じさせるのは彼の背後に控える男女二人の副官たち。ガスパール総隊長を超える体格の黒鎧の彼は、デュモンたち防衛部隊の隊長も兼任しているカール・『DF.ディフェンスフォース』ハロルド。

 秘書然とした女の人は総隊長の補佐官で、この探査隊の実質No.2でもあるルネ・『VC.ヴァイスキャプテン』クローディアだ。咳払いした彼女に「おっと、さっさと本題に入ろう」と総隊長は笑いを引っ込めてキリッと居住まいを正した。

 僕らはマリオンに促されてデュモンと一緒にその隣に立つ。呼び出された僕ら4人が横一列に並んだのを確認して、ガスパール総隊長が改まる。背筋が伸びてまっすぐに此方を見据える目はさすが元警官。こちらも釣られて背筋が伸びていく。


「調理システムが故障した」


 ・・・・・・はい?


 真面目な顔で切り出された内容に呆けてしまう。

 えっ 調理 システム?

 それが故障?

 いや確かに一大事だけど。

 それと呼び出しに何の関係が?


「数十分ほど前にあった医務室からのアクセスが原因だ。エドワード隊員に確認をとったところ、どうやらその時間ちょうど例のシュトゥルム隊員が施設医療ポッドの操作を行っていたようだな」


 ———あの連続ビープ以外にもやらかしていたのかラドン。


 もしかしなくても僕のメディカルチェックの時にやらかしてたって事だよな。セキュリティどころかエラーを潜り抜けたとか——— 一体どうやったんだ。


「初日であるなら、まあトラブルはまだ無いだろうと思っていたんだが……いや 噂以上だな、彼は」

 このヒトが遠い目をするの レアなんじゃないだろうか。

 そして現実逃避なら僕もしたい。この星に着いてからずっとトラブルばっかだ。


「で、今回の隊員の中では、君らの班が最も調理上手だと聞いている。なので、代わりに隊員たちの食事を賄ってくれ」

 今回の調査隊の内訳はこの司令部や各種調査班の他、護衛部と守衛部から成る防衛部隊、医療担当の衛生部、そして設備装備および生活確保のための各種施設を管理する整備部で構成されている。人数にしておよそ60人。デュモン曰く小規模中隊くらいの人数だとか。


 約60人分の食事準備。

 それを。

 ヒトの手でやれと。


「恐れながら総隊長」

 ニコニコと笑顔を向ける彼に、僕ら四人の一番右側にに立つ凛とした冷水のような雰囲気の女性が声を上げる。

「不具合が実際に起こった時を想定したシフトは、事前に決まっていた筈です。それを曲げてまで我らに任せる経緯をご説明願います」

 ブロンドの髪を三つ編みで一つにまとめた彼女は、僕ら第4班のリーダー、ジュスト・『S.セントリィ』アウイン。防衛部隊の哨兵のひとりだ。僕らの身の安全は彼女とデュモンの手にかかっている。

「うん、それなんだがな」

 総隊長が深刻に頷く。僕は息を呑んだ。いったいどんな理由が———


「本日の当番には、シュトゥルム隊員がいる!」

 うわぁ・・・。

 それで僕らは察した。その中でアウインだけ表情を変えなかったのは流石である。上官って感じで明日からも頼りになりそうだ。つーかどこまで知れ渡ってんのラドン。

「それでもこんな任務だ。むしろ進んでやらせて整備班の士気を上げる事も考えたんだが———」

 ガスパール総隊長が僕の足元に目を移す。そこには、幼女に擬態した少女がいる訳で———ってまたいつの間に僕の足元に……。

「こんな小さい子に、いきなり劇物を食わせるのもなぁ」


 うん、確かに幼女なら危ない。

 確かに危ないけれども。


 ここにいるのは幼女(笑)である。


 別に気を使わなくてもいいのでは・・・。

 いや待てよ。食い物の恨みは恐ろしいって話があったぞ。

 アズリィルとはまだ話の途中だったけど、こんな事で彼女の言う『いざとなった時』とやらに見捨てられたら困るな。


「そう言う事だ。1日目くらい休息を、と思ったのだが———すまないな」

「かしこまりました」

 あれこれ考えている間に話がまとまってしまった。気が遠くなった所にアウインとはまた違ったタイプの冷んやりした声。クローディアだ。

「そういう事ならモニター越しでも良かったのではありませんか? なぜわざわざ直接ご指示を出したのです?」


 そう言えば確かに。モニター越しどころかメールで済む用事だった。何でだろうと考え込んでしまいかけた所に、ガスパール総隊長の豪快な笑い声が再び上がって肩がちょっと揺れる。心臓に悪いな。

「件の子どもがどんな子なのか実際に見てみたくてな。俺にはちょうどこれくらいの娘が地球にいるんだ。この前5歳になってな。下の子は男の子なんだがそろそろイヤイヤ期が」

「私情を挟むのはご遠慮ください、ヴィルヘルム総隊長」

「ハイ……」

 彼女の鋭い一声でしゅんと肩を落とすガスパール総隊長。いざという時に総隊長代理も務める『VC.ヴァイスキャプテン』の名は伊達じゃないみたいだ。


「まあまあいいじゃねーか———俺は楽しみにしてるからよ。頑張れよお前ら」

 一方ハロルドは『熊をヒトに変えたらこんな感じ』を地で行くタイプだ。いや雰囲気は大型の猫って言った方が良いかな。どっちにしろでかい。サムズアップを向けて笑う姿は、その気は無いだろうけど目の前にいるだけで何か恐怖だ。申し訳ないけど一刻も早く去りたい。ガスパール総隊長が下がるように言い渡してくれて正直ホッとしたくらいだ。


 回れ右して先頭のアウインが扉の前に立つより早く シュンッと空気が抜ける音がして入り口にヒトが現れた。お互いに少し怯んだ後に僕は誰が指令室の扉を開けたのか知って「あれ?」と瞬きする。

「ドクター?」

「おうお前らか また会ったな」

 さっきまで医務室で僕を診てくれていたノーマンだった。

 あれからあんまり時間は経っていない筈だけど、随分前の事のような感じがする。それだけこの短時間にあった事が衝撃的だった訳だけど。


 正面に立つアウインの氷のような視線が飛んだ。

「エドワード殿、総隊長に何か?」

「ん〜 ちょっと野暮用でなぁ」

 ガリガリと頭をかいて返答を濁すノーマンに、後ろから吠えるような声が飛んできた。ガスパール総隊長だ。


「ようノーマン。来てくれたのか俺のために」

「誤解を招くような言い方は感心しないねぇ———と言うか、部下の前だけどいいのかぁ?」

 ノーマンが嗜めると「おっとそうだった」と悪びれもなく笑うガスパール総隊長。どうやら親しい間柄らしい。意外だ。


「失礼しました———行くぞ」

 アウインに続いて僕らは司令室を後にした。

 扉が閉まる瞬間の呟きが幽かに聞こえる。


「慕われてるねぇ」



   * * *



 食堂に併設された厨房に着いた僕らは、山となった大量の野菜を目の前にしていた。流石は60人分。見た事ない量だ。


「いやぁ〜 ほんとごめんねぇ」

 彼女はテキーラ・ラグナ。今回の探査隊員中のシリカノイド最年長にして整備班主任。他のシリカノイドよりも一足先にコールドスリープから目覚めて、惑星到着直後の施設建造物設営を担った1人らしい。彼女率いる整備部は、惑星滞在中の設備メンテはもちろん個人装備のメンテや食料、倉庫管理などを手広く担う。人数は少ない部署だが、彼女らがいなければ探査隊は回らない。重要な役職だ。

「一回作ってるとこ見せてあげれば量が分かるっしょぉ? 覚えればこの子らもまた出来るようになるからさぁ」

 当人はのんびりした性格のようだけど。


 だがそんなラグナの雰囲気では掻き消せない難題が目の前に文字通り山となっている訳で———これご飯時までに終わるのかなぁ……。

 完全に怯む僕らの空気を吹き飛ばすように柏手が一つ。アウインだ。


「量はあるが、幸い今日のメニューはカレーだ。我々で何とかして総隊長の期待に応えよう」

「ひょっとして金曜日ですか?」

 アウインが頷くとマリオンが手を叩いて喜ぶ。意味が分からず首を傾げる僕にデュモンが説明してくれた。

「軍隊じゃあ曜日感覚を失わない為に金曜日のメニューはカレーって習慣があんだよ。それが外惑星調査任務でも採用されてんだ。ほら 献立」

 そう言ってデュモンがエア・モニターを展開して見せてくれる。確かに他の曜日の日はバラバラなのに金曜日だけカレーの文字が連なっていた。付け合わせは毎週違うのか。タップするとレシピが出てきた。


「でもさすがに全員分の料理を手でやるには辛いですね」

「そこは付け合わせを変えて対応しよう。プラントに行けばサラダ用の野菜が見繕える筈だ。シンプルに果物でもいい。組み分けは———」

 そこで首に腕を回され思いっきり引き寄せられた。デュモンだ。

「じゃあ俺とこいつで玉ねぎ刻みます」

「げっ!?」

 レシピの通りならまず最初に大量の玉ねぎを切る所から始めるようになっている。その後生姜とにんにくの微塵切りだ。どっちにしろツラい。

 しかしデュモンに小声で「バカお前 女性を泣かせる気か」と言われてしまえば観念するしかなかった。

「では私たちで米や小麦粉の用意をしようか」

「アズリィルちゃんも手伝ってくれる?」


 僕は固まった———あの女王天使に料理をさせるだと!?

 なんて無茶な事を言うんだマリオン!

「こらこらまだ早いよ〜。キミはボクとこっちで見てよっか〜」

 ラグナがのんびり止めてくれて肩の力が抜ける。危機は脱した。たぶん。


 そこからは怒涛の玉ねぎタイムだった。

 それはもう2人して涙と鼻水を出しながら鍋いっぱいに玉ねぎを満たした。しかも三つ。玉ねぎでいっぱいになったら今度は生姜とにんにくだ。これも刻みきったら鍋へ。加熱を始めれば効率良く火が通ってみるみる飴色になっていく———簡単な加熱システムは無事でよかった。でなければとても終わらない。

 マリオンたちが他の野菜を茹で上げてそこで鍋が合流する。


「ちなみに聞くが、好みの辛さは」

 かろうじて無事だった自動おろし金マシンで林檎を摩り下ろしているとアウインが鍋にスープを足しながら話題を振って来た。

「私は甘口です」

「無難に中辛ッスね」

「ボク辛口〜」

「僕は激辛です」

 マリオンを皮切りに、次はデュモン、何故かラグナも加わって答えていく。

「綺麗に分かれたな———というか激辛? 意外だな」

 思わずといった感じでアウインの手が止まる。

「あはははは よく言われます」

「あ〜じゃあ君かぁ。好みアンケの辛党君」

 うん? そういえば選抜された時にそんなアンケも取られたか。「お仕事の合間に好きなもの食べたいじゃん?」とか言われたような。

「残念だけど激辛は作ってあげられないから〜 自分の皿だけ何とかしてね〜」

 乾いた笑いで返すしかなかった。実は今僕が前にしている鍋は辛口用である。

 香辛料を加える時にうっかり好みの量まで入れ続けそうになった事は誰にも言わないでおこう。

 そこでラグナの隣に座るアズリィルが目に入り心臓が跳ねた。


 その表情は、とても幼女ができる顔ではなかった。


 彼女はほんとうに、ほんとうに優しげな目でこちらを見ていたのだ。

 嫌な感じは一切無い。

 あれこそまさに———

 僕は眩しくて思わず目を逸らした。


 まるで何かを誤魔化すような気持ちで次の林檎を手に取る———そこで閃いた。

「どうした」

「ああいや、ちょっとね」

 手を止めた僕に、隣で別の鍋に取り掛かっていたデュモンが首を傾げる。何でも無いと軽く返して、手に持った林檎をマシンへ放り込むのを止め、代わりにナイフを手に取った。まな板をまだ片付けてなくてよかった。

 ナイフを入れるとさくんと小気味好い音がして縦半分に割れる。さらに八等分にして中の部分をくり抜き皮にV字の切り込みを入れて反対側から半分だけ皮を剥くと うさぎさんの出来上がりだ。

 頭越しにデュモンが褒めてくれた。

「器用だな」

「一個くらいバレないかなって」

「何がバレないの?」

 急に声が降ってきて慌てて顔を上げる。マリオンが上から覗き込んで来ていた。彼女は肉を焼いていた筈だけど・・・ああ 焼けたのか。


「あら、うさぎさんね」

 僕の手元や皿に乗ったモノに気付いた彼女が愛らしげに目を細める。

「あっはは……アズリィルにと思って———えっと マリオンが持ってってくれる?」

 やってしまってから、自分でもどうかと思うけど、僕からだと拒否られそうな気がした。金色の前髪の下の眉間に皺を寄せる姿がすごく容易に想像できてしまう。

 だから、彼女に懐いているマリオンに行ってもらった方が良いと思ったんだ。

 半ば言い訳じみた事を考えながら マリオンにうさぎの乗った皿を手渡した。



   * * *



 ようやく食堂を解放できるようになってぞろぞろと隊員たちが集まってくる。片付けがあるから僕とデュモンは厨房側で食事だ。


「お前なぁ。呼び出し食らってんなら連絡よこせよ」

 カレーを装った皿を受け取ったプラシオが開口一番。

 カウンターを挟んで3人で座る形になった。

「ごめん忘れてた」

 そういえば後で電空で会う約束をしてたっけ。メールくらいするんだった。


「まあいいけどよ。電空どうなってた?」

「あちこちバグってた……」

「マジか・・・」

 ガックリと肩を落とす僕と同じように肩を落としてくれるプラシオ。そんな僕らの様子に、デュモンが口の中のものを飲み込んで首を傾げた。

「何だ 電空にバグって」


 ———そう言えばデュモンにはまだ言ってなかったっけ。


「アズリィルと僕のメディカルチェックをドクターがやってくれたんだけど、その助手に・・・ラドンが」

「ああさっきの うん———まあ・・・良い事あるよ」

 良い事。

 良い事かぁ。

 僕はマリオンの方を見た。その隣にはアズリィルが美味しそうにカレーを食べる姿。


 ———ああやってると、普通の女の子だよなぁ


 さっきの眼差しが瞼の裏にチラつく。

 あんな態度でも。

 あんな性格でも。


 彼女は歴とした天使なのだと識らされたみたいだった。でもできれば あんな姿はもう———


「おんどりりぃああああワレ覚悟極めて来たんだろうなァァァア”ア”ン!!」

「わわわわざとととじゃなななぃぃぃんですすぅううう!!」


 食堂に響き渡る突然の大音量。音の元は———入り口付近のあの2人か。

 組み敷かれてるのはラドンだって分かるけど……あれ、誰あれ?


 いやあの茶色と白の房が混ざった独特な髪の色は———まさかラグナか!?


「何本じゃあ! おどれの指ィ何本で落とし前ェつけちゃろかゴラァァァ!?」

 ただでさえ爆発を模したような髪型がさらに燃え上がったように見える。ドスが効きすぎて最早男の声のように聞こえる。シリカノイドで性不一致おカマさんとかあったっけ?———いやあったらとっとと変えてる筈だよな。じゃあ素かぁアレェ!?


 呆気に取られていると次の瞬間 彼女はがっくりと肩を落とした。そしてさめざめと泣き始める。

「グスッ 本当ならっ ヒック 本当なら幼女の笑顔はっ わしらが掴んじょった筈じゃったんじゃ……! それを。 それを・・・!!」


 一人称まで変わった!?

 というかそこ!? 悲しむとこそこなのか!?

 そこで彼女の後ろからさりげなく黒炭が乗った皿を渡す人物の姿。何か見覚えあるぞ。あれ確か整備部の誰だったか———


「くらぇええ! 貴様きさんが駄目ンした試食第一号じゃぁあああ!!」


 勢いそのまま。後ろへ倒れていくラドン。

 おそらく整備班の連中と思われるヒトたちからやんやと喝采を受けるラグナ。

 それをドン引きで眺める僕ら含めたその他隊員たち。


 うわぁぁ


 僕らは ラグナを怒らせるのは絶対にやめようと誓った。


「あ」

 声を漏らしたデュモンにつられて騒動の向こう側に焦点を当てる。

 そこにはたった今食堂に入って来たらしいガスパール総隊長の姿が。

 ラグナ以下整備部の皆さんも気付いたようでピタッと静止した。


「元気良いのは結構だがお前ら」


 えっ怖い。ガスパール総隊長が怖い。

 笑顔が怖いという状況に、僕は初めて遭遇した。怖すぎてその後ろの「あちゃあ」という顔のノーマンに現実味がない。と言うかいたのかドクター。気付かなかった……。


「明日からは本来のシフトで回す。今日はイレギュラーだったから、本来初日に入る予定だった衛生班第1班が当番だ」

 衛生班第1班とは、整備班の二人と衛生班主任のタッグ———すなわちノーマン、そしてラドンである。

 ラグナの顔が面白いくらいみるみる青ざめて行く。


 総隊長の見開かれた目に『カッ』と音が付いた。

「幼女の明日は! お前らにかかっている!」


 整備部連中の士気が上がった。



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