Report.3: 幼女?は大きくなりました




「死の 天使?」

「うむ!」


 ふよふよと宙に浮かぶ大きくなった幼女アズリィルもとい、自称『天使』アズラエル。その背中では羽の形をした4枚の光が時折ひらひらと空を切る。


 天使ってあれだよな。人間の背中に真っ白な鳥の翼が生えていて頭に輪っかがあるって言う———幻の生物の図鑑とかだと意外とグロい姿みたいな記述もあるけど———確かに 羽は生えてる・・・って、言えるのか アレ。背中に浮かんだ輪っかから、羽の形のエネルギー体が出ているって言った方がしっくり来る。いやでも頭に輪っかあるし。円盤だけど。

 いやそれよりも———何か不穏な感じの単語が出たぞ。『死』って何だ。そこはもっとファンタジーっぽい二つ名の奴が来るんじゃないのか。背が伸びて相応の長さになった袖や裾から見える手足は確かにほっそりしてるけど、不吉なイメージに結びつくような不健康そうな骨って感じじゃない。どっちかって言うと・・・ん?


 そこで違和感に気が付いて女性アズリィルに歩み寄った。「なんじゃ?」と聞こえたのも構わず、自分の背より高い位置にある彼女の肩に手を置き——— そのままゆっくりと力を込める。

 すると随分上にあった目線は同じになり、その目線の高さのマリオンを過ぎ・・・ストンと彼女の足が地面に着く頃には ちょっと腰が折れた。


「小さいな」


 言動は尊大で昔話に出てきそうな貴族然としているが、身長は僕より頭一つ分くらい低い。いやもっとか。僕の身長が177cmだから、おおよそ150cm前半かそれ位だろうか。

 口調から大人の女性かと思ったが、何か みるみる顔が赤くなってるし、どっちかと言うと少じょ———


「うがぁああああああっ!!」


 見事なハイキックだった。

 ただし身長差のせいで蹴られたのは横っ腹だったが。


 そのまま横にある本棚に激突。大げさに吹っ飛んでしまったが、これは電空内の重力設定のせいだ。「良かった、キックの強さは普通だった」とかどうでもいい事を確認した所で、さらに追い打ちとばかりに何冊もの本が落ちて来た。本来ならば『痛覚を感じる程の衝撃』は『柔らかく弾む』ように設定されていた筈だったけど、その変数は現在絶賛バグり中だ。本当に文字通り追い打ちを掛けられる羽目になった———何でこう言う所は大丈夫なんだ普通に痛い。

 そして悲しいかなこの『本の落下』はバグではなく造り込みだ。『相応の衝撃があったのに何も起きないのは不自然だから』と手を加えた当時の自分をどつきたい。


「何なんじゃもう! 昨今の人界には無礼な者しかおらんのか!」

「じ、じんかい・・・?」

 少女の盛大な悪態をBGMにして体を起こすと乗っていた本がずり落ちていく。本が直撃した箇所も痛いけど、一番痛いのは蹴られた横っ腹だ。ズキズキする。うぅぅ 後が怖いな・・・。

 咳払いと「イカン 冷静にならねば」との呟きが聞こえて顔を上げると、目の前に差し出される小さな手———仏頂面のアズリィルが立っていた。

 既にその背や頭上には羽も光輪も無く、手を取れば思いの外強い力で引かれてよろける。立ち上がった僕を見上げて眉間にシワを寄せた彼女はくるりと反転した。


「人界と云うのは 其方らのような地球の民を始め、低次元世界の住人たちが暮らす『物理法則の支配する次元世界』の事じゃ」

 そう言って彼女はさっきまで座っていた大きなクッションに腰を下ろした。ちょいちょいと手招きで座るように指示されたので、僕はライブラリから適当なスツールを出してそこに座る。それでようやく僕の目線がアズリィルより低くなると、目に見えて少女の顔が上機嫌に変化した。気にしてるのか。


「そして妾は其方らが『天使』と呼ばう天界の住人『エルティアン』が一翼。当然今のこの姿も仮初じゃ。人界では人界にふさわしい姿で顕現するのが習わしなのでな———本来の妾は凄いのじゃぞ!」

 そう言って胸を張る少女。幼女から多少大きくなったけど、さっき出したビーズクッションは目の前の彼女にはまだ大きめだ。どっからどう見ても少女である。

「幼女と少女じゃあんまり変わってない気がするけど」

「貴様さっきから失敬じゃぞ!」

「でも女の子って小さい方が好いって言うじゃないか」

「それは地球の民の話じゃろう。エルティアンは巨大なほど良いのじゃ。例えばそう———かの大天使、金剛石のメタトロン! かの御方の天にも届く巨躯など・・・とても好いぞ」

 ほんのりと頬を染めるアズリィル。その周囲にキラキラしたエフェクトが見える。一方の僕は引き気味だ。まあ確かに背の高いモデル身長に憧れるって話も聞くけど・・・。いやでも天にも届くまでとかは流石に分かり合えそうにない。


 ———これがカルチャーショックって奴かぁ・・・


 そこまで考えてはたと気付いた。

「待てよ。ひょっとしてアズリィルって地球人じゃないのか? エルティアンって異星人!?」

 もしかしてこれって一種の異星人との交流!?

 某記念日に宇宙船墜としたり宇宙船内に寄生型の怪物が現れたり架空のビルの上にワームホール開けられたり———っていやいや何でこんな時に出てくるSF映画は物騒な奴ばっかなんだ。もっとハートフルな例えはどうした。

「今更な気もするが……まあ似たような物じゃ」

 当人が肯定した。

 異星人確定。

 ならば俄然テンションが上がって来———る訳が無い。


「その異星人がどうして僕のポッドに潜り込んで来てるんだ!」


 確かに異星人と遭遇なんて、できたら良いな〜とか思ったりはしていた。

 した、けれどもだ。

 もっと『これぞ宇宙人!』的な衝撃的な出遭いとかあったって———いや侵略もグロいのもキャトられるのも嫌だけど!


『目が覚めたら幼女と一緒』

『トラブルで電空にバグ』

『何故かめっちゃ嫌われてる』


 こんなドタバタな未知との遭遇ファースト・コンタクトは嫌だ。


「妾だって予想外なんじゃ!」

 僕の一言でピシリと固まっていたアズリィルが再起動して詰め寄ってきた。襟元を両手で掴まれがっくんがっくんと思いっきり揺らされる。揺れる視界の端で捉えた彼女の両足は完全に宙に浮いていた。さすが天使。弱・重力状態とはいえ宙に浮き慣れている。

「貴様に解るかっ。目が覚めたら想定していた女子おなごではなく、知らない男の子おのこにしがみ付いておった時の妾の気持ちが!」

 さらに強く揺らされながら『そうか、本来は誰か別の女子の所だったんだ』と冷静な自分がいた。


 でもいくら吃驚したからってロケット頭突きとか仕掛けてくるのは良くないと思う。


「本来なら波長を合わせた者の所に顕現する筈だったんじゃ。それなのに、それなのに———今は何故か 貴様と波長が合っておる……!」

 苦渋の決断をしたかのように、がっくりと肩を落とすアズリィル。僕はガクガクと揺すり続ける彼女の腕が弱まった隙を見て、逆に捕まえた。

「いや全っ然合ってないだろ。どう考えても相性最悪じゃないか」


 蘇るのはこれまでの暴力の数々。しかも目が覚めて碌に話もしてない内からのデフォルト。いくら想定外の事とはいえ理不尽この上無い。

 アズリィルの頰が膨れた。

「事実なんじゃから仕方がなかろう! やり直してさらに悪化する恐れもあるんじゃ。 仕様が無いから・・・貴様に助力を求める事にした」

「そんなの理不尽だよ」

 ついに不満が口を突いて出た。

「お互い様じゃ。諦めい」

 そこでようやく彼女の手が離れて行き、軽く襟元を整えた。れたりはしない筈だけど、そうなってしまいそうな程の勢いだった。離れていった彼女も渋々といった態度が隠れきれていない。


 いや隠そうともしていないのか。

 確かに起きたら知らないヒトの所にいたって言うのは気の毒だと思うけど、それなら僕にだって充分すぎる程に迷惑だ。


 ———だいたい助力って言ったって。


「さっきマリオンも言ってたと思うけど、僕———いや僕らだけど、明日から任務なんだ。何をするか知らないけど手伝えないよ」

 僕らはこの未開惑星の調査を目的とする探査団だ。

 この星には任務でやってきた。

 初任務だけど、僕だってれっきとした調査隊員なんだ。

 任務期間中にはちゃんと休息日が設けられてはいるけれど、外はまだよく分からない未開の土地。任務以外での外出許可は下りないだろう。


「そこは問題無い。妾の用事はヒトの世事のついでで良いからの」

 腕を組んであっけらかんと頷くアズリィルの答えに、いつの間にか入っていた肩の力が抜ける。


 ついで。

 ついでかぁ。

 ならそんなに深刻なものじゃないのかな。


 ほうっと息を吐く間にもアズリィルの話は続く。

「人界には人界の在り方があるじゃろ? 過去には己の暮らしを削ってまで我らに協力しようとしてくれた者もおったがの。そのような者ほど魔に魅入られ、文字通り身を崩していった———人界の歴史に登場する『魔女狩り』を知っておるか?」

 おおよそは知ってる。たしか、欧州にある中世の頃の記録だ。えっと西暦では・・・何世紀頃だっけ?

「あれは我らにとっても苦い記録じゃった……。あれで人界の進化は我らから大きく離れる路を採ってしまったからの」

 空中で脚を組んで座るように漂うアズリィル。どうせ座るならクッションに戻ってくれないかなぁ。なんか見ちゃいけないって言われる場所が見えそうで嫌なんだけど……。スキニーなのかな。

「特に此度のはガブリエルの時代への移行期における最終盤期じゃ。何としても天秤の安寧を勝ち取らねばならん」

「天秤?」

 声の調子が低く聞こえて顔を上げると、いつの間にか彼女は険しい顔をしていた。釣られて背筋が伸びる。


「正しくは『正義イュスティーティアの天秤』———我らエルティアンが人界を訪れる理由よ」

「ゆすてぃてぃあ?」

 オウム返しに聞き返しながら、話の雲行きが怪しくなってきたように思えてきた。やっぱり深刻なんじゃないかと。

「時代の潮目に顕れる、次の数十年の『正義』の在り方を決める天秤じゃ。秤にかけられるのは、天秤が顕れる宙域の『混沌』と『秩序』。我らエルティアンは、『秩序』を護る為にこの天秤を安定させねばならん」

「天秤なら『秩序』の方に傾けるんじゃないのか?」

 天秤は重い方に傾く。

『重い方』=『大事な方』———もしくはその逆だとしても、『混沌』と『秩序』を天秤にかけるのなら『秩序』を良い方に傾けるのが正解のような気がした。


「普通の天秤とは違い、この『正義の天秤』は何方かに傾くのではなく、両腕が釣り合う事で『秩序』の力を発揮するのじゃ。『秩序』が正義となればあらゆる物が善き方へと発展しよう———今 貴様らが、この地ような外ツ星とつほしの調査に出て来れておれるようにな」

「つまり、天秤が釣り合っていれば平和って事?」

「うむ」

「・・・ゆらゆら動いていたら?」

「その場合は『混沌』が正義となり、戦乱や病などが世を席巻するじゃろう」

 口が開いた。

 同時に息も止まったかもしれない。


 今、さらっと恐ろしい言葉を聞いてしまった気がした。


「そうならぬ為にはどうしても人界の者の助力が必要じゃ。そこで此度の試練では、前回の試練より数十年の間で最も大きな変化であった『人の手に為り創られし石の仔ら』の助力を求める運びとなったと云う訳よ」

 アズリィルと目が合う。

「つまり、貴様らの事じゃな」

 金色は自信に満ちていた。弧を描いたその口元も誇らしそうだ。


 僕はスッと手を上げる。

 ただ 言わねばならないと思った。


「そう言うのは! 他人ヒトを巻き込んじゃいけないと思います!」


 傍から見たら僕の目は絶対に座っているだろう。

 でもそんな大変な物が関わってくるのなら必死にならざるを得ないじゃないか。

 とても『ついで』なんかで済ませられる話じゃない。

 全身全霊をもって取り組まないとヤバい。


 なのに彼女のこの気楽そうな顔である。

 アズリィルと僕との間に、とても深い溝がある感じがする。

 必死さが絶対違う気がする。


「主らのこの先数十年を左右するんじゃ。当事者として己の行く末は己の手で掴み獲ってみせよと云う話じゃろう」

 そしてこの、さも『当然の話じゃろう?』という感じの態度である。

 さっき話に出てきた『魔女狩りに遭った昔のヒトたち』って、天使との間に えも言われぬ溝があったせいで疑われたんじゃないだろうか。今の僕とアズリィルみたいに———そりゃあキョドるよ。疑われるよっ。


「責任重大すぎるよ! 何でそんな物騒なモノが存在するんだよ! そもそも『正義』って正しい物の代名詞だろ!?何をどうしたらそんな物騒な代物の代名詞として使われるようになるんだよ!」

 勢いよく立ち上がって今度は僕がアズリィルに詰め寄った。しかし当の本人は未だ宙に浮いていて、詰め寄った分だけ彼女は空中へフワフワと飛んで遠ざかる。くそっ あれじゃあ捕まえられない。

「ふむ その辺りの事は妾は当事者ではないのじゃが……。古のエルティアンによれば、かの天秤はその昔 魔に魅入られし者によって創られた、強力な呪物と云う噺じゃ。出現にはあの忌々しい———いや、今はよい」

 今度は呪物!

 つまり呪いの何とやらか。


 確かにファンタジーだ!

 ファンタジーだけど・・・っ!


 天使が扱う物じゃないだろそれっ!


 僕が焦る程にアズリィルが冷静になっていく。本当にさっきまでとはまるで正反対———こっちは『魔女狩り』の挿絵を思い出してしまって必死になってるって言うのに。しかも今 何を言いかけたんだよ逆に気になる。


「まあそう気負う事は無いと言うのは本当じゃ。貴様のペースで協力してくれ。それでもどうにもならん時の為に、妾がおる」

 トン、と彼女は自分の胸を叩く。さっきから変わらない自信に満ちた顔だった。

 対する僕はがっくりと肩を落とす。完全に天使のペースだ。


 ———こっちを落ち着かせようとしているって事は 解るんだけど、なぁ……。


 要は『秩序を保ちたい』って言うのは分かるよ。誰でも平和が良いに決まってる。利害は一致してるって言えるんだろう。ヒト全体と僕個人とに当て嵌めるには大雑把すぎるけど。でも・・・。

 じっとアズリィルの顔を半眼で睨む。

 まだ肝心な事を聞いていない。


 それを確かめない事には何を言われても快く手伝うなんて出来そうにない。

 多分ここで聞いても聞かなくても請けるしか無いんだろうけど。

 むしろ『聞かなきゃ良かった』って後悔しそうだけど。


 僕はゴクリと唾を飲み込んだ。慎重に口を開く。

「その試練、失敗したらどう———」


 ポーン


 響き渡るピアノの音に肩が跳ねる。メールだ。


 未開惑星に到着したばかりの今、諸々の事情もあって未だ地球とのネットは繋がっていない筈———つまりこれは隊内連絡。

 僕は目線でメール用のモニターを開いた。



 ===


 調査第4班(生態班)

 ジュスト・S.アウイン

 ラガー・デュモン

 ラキシー・マリオン

 スコッチ・レッド


 以上の四名は司令部へ来るように



 惑星探査隊 総隊長

 ヴィルヘルム・C.ガスパール


 ===


「呼び出しだ……」

 これに応えるには、電空から出なければならない。

 この空間は僕の所有物なので、僕が出るという事は必然的にアズリィルも一緒にここを出るという事になる。

 僕は話を切り上げる意味も込めて未だ宙にいる彼女を見上げた。徐々に高度を落とし、地上に足が着くのを自然と眼で追いかける。

 話の途中———それも僕から切り出しかけていた。

 ちょっと ためらう。


「構わぬ。言ったであろう? 貴様の暮らしを優先せよ」


 くるりと向けられた小さな背中に、僕は口を引き結んだ。

 モニターを叩いて覚醒準備に入る。


「ピッ」という電子音を最後に、視界は白く反転した。



   # # #



 目を覚ますと、ぼうっと此方を見る幼女と目が合った。


「・・・おはよう?」


 とろんとしたハニーイエローが鷹の目に以下略痛い!

 何だこれデジャヴか。

 直前までの雰囲気はどこに行ったんだ。やっぱ途中で切り上げるのダメだったんじゃないのかもうっ。

 ポッドから転がり落ちた先でやれやれと起き上がろうと力を入れた瞬間———


「いっ痛!?」

 ほとばしる痛み。

 触れるとズキンと痛い、気がする。いや痛い。

 場所はちょうどさっきアズリィルに蹴り飛ばされた横っ腹———幻痛が出た。


「ッ痛ぅ…… 思いっきり蹴られてたの忘れてた・・・」

話の内容がもうそれ所じゃなくなってたもんなぁ。痛みはすぐに消えてくれるとは思うけど、それまではずっと続く。遅れて尻まで痛い。こっちは最初のヤツだなもう。軽いから良いなんて事は無いんだぞまったく。


「どうしたにょじゃ」

「さっきの横っ腹の一撃が現実リアルに反映されてって……?」

 ぐるっと未だポッドにいるアズリィルを見上げる。そこには口元を折れた袖で押さえる幼女の姿があった。幼い眉間にはシワが寄っている。

 じっと見ていると、見られている事に気づいたアズリィルが口を押さえたままそっぽを向いた。


「まぃやこの ぶっちつたいのかやだ に なぃえておらぬんじゃ。口が うまくうごかぬ」

 まるで一音一音をしっかり発音しようとしているようだ。


 そういや大人(?)アズリィルは随分 古風な喋り方だった。

 たいへんペラペラ喋っていた。

 そして幼女が喋るのを直接聞いたのは今が初めてであると思い至る。同時にマリオンが幼女と喋っている姿も。


「マリオンに聞き間違えられたのって その舌足らずのせいじゃない?」

 どこかからゴングの音が鳴る錯覚が聞こえた。


 ポカポカポカポカ!

「いたたたた痛い痛い!」

 幼女に滅茶苦茶叩かれた。

 地味に痛い。

 普通に喋る方はダメでも暴力で訴える方は雄弁・・・って言うか、やりすぎだろこれ。


 シュンッと空気の抜ける音。


 その音でアズリィルの手が止まる。

 僕は部屋のドアを見た———入口に第三者だ。

「う〜い メール見たかぁ・・・あ?」

 デジャヴだ。


 ただし今回は別のヒト。メールにあった第4班の一人、防衛部隊所属ラガー・デュモンだ。僕とマリオンの調査を護衛する役目を負う人物のひとり。防衛部隊の一部は任務中の僕ら調査班の周囲を一対一マンツーマンで警戒してくれる予定なのだ。

 どうでもいいけどデュモンもプラシオも、いくら許可があるとはいえ何で前触れも無く入ってくるんだ。ベルくらい鳴らしてくれ。


「あー…… 仲がよろしくて結構だが ———今は呼び出しが掛かってるから、その辺で切り上げろよ? じゃっ」

 デュモンもまた無慈悲だった……。

 入ってきた時と同じく『しゅんっ』という音とともに再び閉じられた扉。心なしか違う音に聞こえた気がする。いやいや違うだろ今は。


「誤解だから! 待ってぇえええ!」

 僕はアズリィルを小脇に抱えてデュモンを追いかけた。



   * * *



 同———地球。


 その存在を認めた瞬間、銀糸の少女は自然と膝を折った。

 明らかなる超常の存在。

 本来は『存在しないモノ』として定義付けられる筈のそれに、普段あまり動かさぬ心が今『畏敬』を訴えている。


「其方の力を借りたい」



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