第5話 決闘宣言

「――――――そんな感じだったかな?」

「「「「「いや、汚っ!!!」」」」」


 ギルドにいる全員が、スタークの回想に同様のリアクションを示す。そりゃそうだ。


「……あれ以来、兄はナメクジに強いトラウマを抱えてしまって……! ナメクジを見るだけで、幼児退行してしまうんだぞ!!」

「へー、そうなんだ」

「植え付けた張本人が何言ってんだ!」


 スタークの態度に、怒りを隠しきれないレイチェルは、瞳に涙すら浮かべている。


「……と、とにかく! 私は貴様を倒し、兄の雪辱を晴らす!」

「そのために王都からこんな田舎まで来たの? 暇だねお前さん」

「なめるな、有休取ったわ!!」


 レイチェルは手袋を外すと、スタークの目の前に叩きつける。


「決闘だ! 明朝、貴様と一騎打ちで決着をつけてやる!」

「……今すぐじゃないんだ」

「不意打ちは騎士道にそぐわないからな、貴様のような奴が相手でも、私は正々堂々と戦うだけだ」


 彼女の堂々としたしぐさに、ギルドの面々は感心すら覚える。魔法騎士ってのは、こういうものなんだなあ。この街では珍しい部類の人間に、汚れた住人たちは目を見張っていた。


「卑怯な真似をしても結構。私はそんなものには負けんからな」

「……あ、そう。暇だしいいけどさあ。俺が勝ったらどうする? なんかもらえんの?」

「ふん。そんなことは万に一つもないが。なんだったら、私を好きにしていいぞ?」


 レイチェルはそう言い、豊かな胸を張った。


「……いや、身体より金がいいや。金貨40枚くらい」

「か、金!?」


 あっさり金貨に敗北した自分の身体に、レイチェルは若干ショックを覚える。いや、別に抱かせるつもりも毛頭ないのだが。


「いやー、俺、借金あってさあ。それくらいあれば利息込みで返せそうなんだわ」

「……仮にも賢者が、借金なんぞしてるんじゃない!」


 レイチェルの叫びに、その場にいた全員が、ほぼ押し黙る。この街の冒険者のほとんどは、経緯はどうあれ、この街の金貸し屋には「大変お世話になっております。」


「……ま、まあいい。じゃあ、お前が勝ったら金貨40枚! くれてやる!」

「おー、太っ腹」

「……どうせ、明日までの命だ。せいぜい悔いのないように生きるんだな。私の宝石魔法で、貴様を粉々にしてくれる」


 レイチェルはそう言い、踵を返してギルドから去っていく。ただスタークにケンカを売りに来ただけだったのだ。やっぱり暇じゃないか。


 一方のスタークは、頭をガシガシ搔きながら、ため息をついていた。


「……つくづくよそ者ってのは、この街は似合わねえなあ?」


 レイチェルがいなくなり、雰囲気の変わったギルドで、彼は呟いた。


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