第4話 汚職憲兵レグレット

「……失態です、ええ、失態ですよ! 本当に!」


 兵士長は、それもうご機嫌斜めのご様子。まあ、無理もない。

 なにしろ、人さらいの犯人たちは、仲間割れで全員死んでしまっていたのだから。


 裏取りしたところ、さほど大きな後ろ盾でもない。違法な奴隷商人にやとわれて、使えそうな子供を片っ端から捕まえているだけだったのだ。もちろんこの件で、奴隷商人自体は逮捕されたが。


「せっかく実行犯も捕まえて、手柄を上げるチャンスだったのに……! あなた方、捜査力が足りませんよ! 大体ね……」


 くどくど、くどくど。説教が止まらない兵士長に、レグレットは思わず欠伸を掻く。


「……聞いてるんですか、レグレットさ――――――ん!」


 兵士長の雷が、レグレットに一気に向く。それだけで、詰所の憲兵たちはほっとするのだった。


「まあまあ、子供もみんな無事だったし、よかったじゃありませんか」

「……ええ、事件になるような子供はいなかったので、よかったですけどね!」


 変わらずぷんすかとしている兵士長を尻目に、レグレットは「警邏に行ってきま~す」とさっさと抜けて出てしまう。

 詰所を出ると、黒い服を着た男女が待っていた。女の方は、物々しく鉄パイプを構えている。金貸し屋クロガネと、その腹心アドレーヌだった。


「おお、もう回収の時間?」

「はい。お金、ありますよね?」

「これから用意するから、ちょっと待ってくれよ」


 余裕のありげに指で着いてくるよう促すレグレットの様子に、男女は首をかしげる。

 着いていくと、そこはレグレットの家の前。そして、親子であろう2人が揉み合っている。


「……あ、このクソオヤジ! よくも、よくもバラしやがって!」

「それが、憲兵の仕事だもんでな」


 父親らしき男に手を捕まれ、自分を睨むネリアに、レグレットはしれっと言う。


「あ、あの。娘を見つけてくださったそうで、ありがとうございます……」

「いえいえ。とんでもない。憲兵として当然のことをしたまでですよ」

「……あの……これ、よろしければ」


 ネリアの母親らしき女性が、何かをレグレットに手渡す。満足そうにレグレットはそれを受け取り、「お気持ちだけで結構ですよ」とにこやかに答えた。


「……あんた、金で私を売ったのか!」

「売ったなんて人聞きの悪いこと言うな。お前は俺の売り物でもないだろう」


 そう言い、ネリアの頭を、ぽんと撫でる。ちょうどいい、撫でやすい位置だ。


「……覚えとけ。ケンカするのは構わん。家出も別に構わん。だが、この街だけはやめとけ。ここはな、お前みたいなガキが、一番食い物にされる街なんだよ」


 泣きそうな顔のネリアが、きっとレグレットをにらむ。だが、レグレットの表情は変わらない。冷たく、厳しく、そしてどこか切ない――――――そんな表情だ。


「あの、大変、お世話になりました」

「たった一晩だけですからな。そんなでもありませんとも」

「嘘だ! 私を丸裸にして、自分もチ●コ丸出しにして、迫ってきたくせに!」


 叫ぶネリアの頬を、彼女の父が叩いた。


「助けてくださった憲兵さんに、なんて事言うんだ! 謝りなさい!」

「放せ! 放せよ! このっ……クソジジイイイイイイイイイ!!」


 結局、両親に引きずられ、ネリアは街から去っていった。

 レグレットは先ほどもらった袖の下を、ごそごそとあさる。中には、金貨3枚。


「ほい。銀貨7枚、お釣りでくれな」

「……ホントですか、さっきあの子が言ってたの?」


 金貨をしまいながら、クロガネは尋ねる。


「ん? ああ、大体はな」


 ほとんど嘘ではないので、レグレットも特に何も言わなかった。


「……サイッテー」


 アドは反射に近く、レグレットの足元に唾を吐いた。

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