第6話 金貸し屋クロガネ

「それで? あのガキンチョのカネは、回収できたのかい」


 会社で堂々と煙草を吸っているレグレットには、もはやクロガネはツッコまなかった。ただ、デスク後ろの窓から、曇った空を見やっている。


「ええ。オーガ討伐の報酬で、ばっちりですよ」

「アイツらにオーガ5体も始末できたとは思えねえが……」

「そこは、ほら。こっちとしても、成功してもらわないと困りますし?」


 クロガネの明るい口調に、レグレットは察した。


「……お前さんらが相手だと、オーガどもが逆に可哀想だぜ」

「でも、ぎりぎりまでは頑張ってもらいましたよ? 僕らはあくまで、ちゃんとクエストクリアしてくれるかの監視役ですから」


 オーガ討伐クエストには、クロガネとアドも着いていった。もちろん手助けするのもあるが、第一は逃げないようにするためである。そもそも正規のパーティメンバーでもない。

 なので、本当に彼らが死ぬ寸前まで、クロガネたちは一切手を貸したりはしなかった。全員がボロ雑巾のようにされてから、「そろそろいいかな」と、オーガを始末した次第である。


「……そんで、連中は超が付くほどの重症。冒険者稼業は引退の上、医療費は……」

「とてもクエスト報酬だけじゃ賄えないんで、ウチから融資しましたよ」

「……オーガなんて目じゃねえな。鬼だよ、お前さんは」


 死にかけの人間からも搾り取るのか。とんだ奴に目をつけられたもんだ、例の3人も。


「……ルイ君の、お墓は?」

「故郷の村に立ててもらえるってよ。こないだ、お袋さんが遺骨取りに来た」


 お袋さんは、遺骨を見て泣き崩れてしまったらしい。本当に、愛されて育ったのだと、レグレットもさすがに感じたそうだ。


 冒険者なんて無頼漢が多い。死んだら無縁塚として、教会に埋葬される人の方が多いというのに、彼はとことん幸せ者である。


「……そういや、村行きの馬車に、ギルドの受付のお嬢さんがいたなぁ。なんでかね?」

「へえ。誰か、友人にでも会いに行くんじゃないですかね」

「……なあ、ホントに、ガキンチョのパーティ登録はされたままだったのか?」


 レグレットの頭の中では、ある推測が浮かび上がっていた。冒険者たるもの、パーティ変更はすぐさまやるものだ。やらないと、今回のような面倒ごとを引きずることになりかねない。


 だが、クロガネの答えはあっけらかんとしたものだった。


「さあ? 僕はあくまで、ギルドからの公的書類を取得しただけですし」

「……そーだな」


 もし、推測が当たっているとしたら……。いや、やめておこう。


どうせこの街で暮らす奴は、悪党ばかりなのだから。


 クロガネはうーん、と身体を伸ばすと、デスクに座った。窓の外では、見覚えのない若者が、またこの街を歩いている。


 悪党だらけの街だが、新しい冒険者は次から次へとやってくる。


 そんな若い新人にいつか出世払いをしてもらうために、彼は金を貸すのだ。


<第1話 金貸し屋クロガネ 完>

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