第5話 死神と笑う男
グランディアでの冒険者のたまり場なんて、大概限られる。
男だけのパーティなら酒場か娼館。女だけのパーティなら酒場か男娼館。そして男女混合のパーティだったら酒場か賭場である。
案の定、例のパーティも賭場にいた。アドに探らせたら、すぐに見つかった。
そして、パーティメンバーの3人である男2人、女1人は、クロガネの前に引きずり出されている。
かわいそうなことに、全員顔の形がすっかり変わっていた。おそらく、無駄だというのに、抵抗したのだろう。手足の何本かも、おそらくへし折られている。
デスクから彼らを見下ろすクロガネは、いつも通りの糸目である。
「……なんで、ここに連れてこられたかは、わかるよね?」
男たちはだんまりである。クロガネはアドに目配せすると、アドは男の小指に、鉄パイプを叩きつけた。
「うぎゃあああああああああああああああぁあぁぁあぁあああああっ!!」
もがき苦しむ男に、他のメンバーの顔色が真っ青になる。
「もっかい、聞かなきゃダメかな?」
「か、金ならねえよ!」
「ふうん、ないんだ。賭場に居たのに?」
クロガネの言葉に、叫んだ男ののどがひゅっと詰まる。先ほどの男の、別の指に、コツコツと鉄パイプが当てられていた。
「や、やめてくれ! やめてくれよぉ! ルイの借りた金だろ、俺らには関係ねえじゃねえか!」
「そういうわけにもいかないんだよー。彼の借金、本人が返せないなら、誰かに肩代わりしてもらわないといけないからね」
そして、冒険者の世界では、保証人はパーティがなるのが常だ。
「わ、私たちはもう、彼とはパーティを解散した身よ! 死んだ奴の借金のことなんて、面倒見切れないわ!」
「ふぅん。パーティの解散ねえ」
「そ、そうだ! 俺たちに返す義務なんざねえ!」
とってつけたような言い訳をピーチクパーチクと。まるでやかましい鳥のようにわめきだす。クロガネは不快な高音に眉間のしわを寄せた。
そして、取り出したるは1枚の資料。
「これ、さっき、ギルドに死亡報告した時にもらってきたんだけど」
ぴらりと開いて、3人の前に見せる。
「「「……はっ……!!?」」」
3人はそれを見て、目を丸くした。
それは、『冒険者パーティ登録証明書』。つまりは、このメンバーがパーティを組んでいる、と、冒険者ギルド、つまりは国が認めているよ、という書類である。こんな連中が口で言うよりも、はるかに効力がある代物だ。
そこには、3人の名前と、ルイ君の名前が、ばっちり入っていた。
「これ、今日付けの書類なんだよね。つまり……どういうことか、わかるね?」
「そ、そんな……っ!!」
「お、おい! 誰かパーティ更新してねえのかよ!?」
「わ、私はあんたらがやってるもんだと思って……!」
うろたえだす3人。無理もない。何せ、この書類があるということは、事実上パーティを解散していても、「ルイは彼らのパーティメンバーである」ことが証明されてしまう。
つまり、クロガネたちの取り立ては正当なもの(まあ金貸し自体違法だが)となってしまうのだ。
「……うっさい、さっきから」
「ぐええっ!!」
「あぎっ!」
「うごっ」
わめく3人の背中に、アドが鉄パイプを叩きこんで黙らせる。すっかり反論する力もなくなった冒険者の前に、クロガネはずい、とやってきた。
「じゃあ、何の障害もなくなったところで、本題に入ろうか。おたくのパーティのルイ君が、ウチから借りたお金は金貨5枚。4回分利息が延滞されていて、それを元本に足して、金貨8枚。それに、今回の利息を足して……しめて、金貨12枚だね」
「き、金貨12枚!?」
男はぎょっとした。1回の利息にしては、跳ね上がりすぎている。
「な、なんで……!?」
「あれ、知らなかった? うちの利息」
クロガネは、男の顔ににじり寄って微笑む。
「ウチの適正利息は、トゴ(10日で5割)だよ?」
ルイ君の場合は新人冒険者だから、特別サービスしてトイチ(10日で1割)。
レグレットはお得意様(あと役人)なので、仕方なくサービスしてトサン(10日で3割)。
そして、それらを除いた普通の債務者の利息は、トゴ(10日で5割)。それがクロガネローンの利息だ。
実際、それくらいの利息にしないとこんな奴ら相手に元が取れない、というのが実情ではあるのだが。
「ぼ、暴利だ! ぼったくりすぎるぜ!」
「そうは言っても、そういう価格設定だから仕方ない。……さて、どう払う?」
男たちは思わず後ずさった。クロガネのほほえみは変わらないが、その後ろに、はっきりと死神の姿が見える。
この瞬間3人ははっきりと理解した。暴力の化身であるアドではなく、この笑顔のクロガネこそが、真に『クロガネローン』で恐ろしい存在なのだということに。
「なあ、君たちは冒険者だろ? ちょうどいいもの、見繕っておいたよ」
そう言って、クロガネはもう1枚の書類を取り出す。
冒険者なら見慣れている、クエストのシートだ。
その報酬は、なんと金貨20枚。
だが……。
「……お、オーガの集落討伐……っ!?」
オーガとは、この世界ではかなり危険な部類の怪物である。少なくとも、ベテランの実力者がパーティを組んで、ようやっと1匹安定して狩れるかどうか。この依頼は、そんなオーガが推定5匹。
当然、チンピラまがいの冒険者3人に相手どれるような代物ではない。
クロガネはずい、と、クエストシートをパーティの頭目の男の顔に貼り付けた。そして、背後の死神とともに、柔和な笑みを浮かべる。
「やっぱり、冒険者だったら、クエストで稼いでなんぼだよね」
「「「……っ」」」
3人は引きつった顔のまま、声も出せなかった。
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