第3話 嗚呼無情也冒険者

 冒険者ギルドでは新人冒険者に、期間内であれば低金利で融資する制度がある。冒険者に成功してもらわなければ冒険者ギルドも儲からないので、そういったサポートは手厚い。

 その金利は、なんと月5%。こっちの利息が10日で10%と言えば、利息の差がいかにあるかがお分かりだろう。


 まあ、これでもかなりサービスしているので勘弁してほしいのだが。一般的に冒険者に金を貸すとなると、返ってこないと考えた方がいいのだ。クエストで死んだり、そもそも飛んだりする確率が著しく高いのである。


 そして、一番肝心なのが、この冒険者ギルドの融資制度。


 民間の金融からお金を借りていると、使えない。


 クロガネローンも例に漏れず、王国では民間の金融業は認められていない。金融業が認められているのは、あくまで公的機関のみ。つまりは国営の冒険者ギルドだったり、あとは銀行だったりだけ。


 つまりは、違法で金を借りたやつに貸す金なんぞない、ということ。


 あの新人冒険者の少年はそれを知らなかった。ゆえに、ここで金を借りてしまった。

 なんで金を借りに来たのかは知らない。ギルドの審査すら通らなかったか、それとも単純に制度自体を知らなかったのか。


 いずれにせよ、少年に待っている冒険者としての道のりは、険しいものになること間違いなしだろう。


(……それでも、夢をかなえてくれるといいねえ)


 そして、夢を叶えて、「クロガネさんのおかげでここまで成功しました!」とか言いながら、美味しいご飯をおごってくれる。


 それが、冒険者に優しい金貸し屋クロガネの些細な夢なのである。


********


「あ、あの! 今回の利息分です!」

「はいはい、どうも」


 例の冒険者の少年は、こまめに利息を返しに来ていた。あくまで利息だけだから、元金は全然減らないのだけど。

 一度来た時にアドと出くわして、「あの怖いお姉さんは、君が返しに来なくなったら集金に行く人だよ」と言ったのもあるのかもしれない。震えあがってたし。


 そんなわけで、想定以上に長い付き合いになっていたのだ。名前もすっかり憶えて、彼の名はルイという。村の農家の三男坊で、近くの街がここだった。そんな話も、ちょくちょくとするようになった。


「パーティとか組んでないのかい? いっつも来るときは一人だけど」

「いえ、組んでますよ。ただ、他のパーティの人たち、ここに来るのは嫌がっていて」

「ふうん……」

「ほんと、よかったですよ。クロガネさんと話すの、楽しいし」

「そいつはよかった。じゃあ、また、冒険の話聞かせてね」

「はい!」


 手を振って去っていくルイ君の笑顔が、印象的だった。


 ――――――それから、彼の姿はめっきり見えなくなったわけだが。


********


「駄目だね。見つかんない」

「うーん、そっかあ」


 集金に行ってもらったアドに様子を聞いてみたが、捕まることはなかったそうだ。「とりあえず今日の分」と、クロガネの机に金貨の袋を置く。なんで血まみれなのかは、わかっているので聞かない。


「やっぱり死んじゃったかなあ」

「かもね」


 冒険者の世界では、命は随分と軽いものだ。街の外で魔物と戦うというのは、それほどまでに危険なことなのである。やってるやつがならず者過ぎて、街で暮らす連中には感謝の気持ちが足りていない。


「どうするの? ほっとくわけにもいかないでしょ」

「だよねえ」


 お金を返してこないのであれば、返してもらいに行かなければ。

 気は進まないが、仕方ない。


 出かけようとしてドアを開けると、ノッポな人影が現れた。汚職憲兵のレグレットさん。


「おう、金貸し屋」

「なんですか? ちょっと出かけるんで、融資の件なら後で――――――」


「お前のトコに来てたガキの遺体が見つかったぞ」


 レグレットは、表情も変えずにそう言った。

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