一肌脱ぐ
今朝も彼はいつものように朝食のカップ麺食べ、最低限の身だしなみを整えて出社のために家を出た。
そこで、一人の女性と出会った。女性は二十代後半のOL風だった。道端でさめざめと泣いていたので、蒲田喜造は声をかけた。
「どうかしましたか?」
蒲田喜造の言葉に女性ははっと顔を上げた。可愛らしい顔だったが、涙で化粧が崩れてひどい有様だった。
「なんでもないです」
女性はそう言ったが、泣き止むどころか一層泣き始めた。蒲田喜造はこういうのをほっとけない性質だ。
「もしよろしかったらお話聞かせてくれませんか? 何かお力になれるかもしれません」
女性は頷いた。蒲田喜造はうらびれたおっさんだが無害な見た目だから、女性も心を許す気になったらしい。二人は近所の公園へと移動した。そこで、
「私、婚約者に二股かけられてたんです。それで捨てられたんです。同棲までしてたのに、相手がいいところのお嬢さんだからって、そっちに乗り換えたんです」
言って、また大泣きした。蒲田喜造は心底同情した無害な表情で、女性の話に相槌を打ち、ときには理解を示したように頷いた。うらびれたおっさんだが、意外に聞き上手なのだ。
それが余計に女性の感情を焚き付けた。話し始めると口も感情も止まらなくなったのだろう、大泣きしながらこんなことを言い出した。
「私、もう死んでしまいたい! こんな人生嫌だ! こんな人生さっさと終わらせて、次はもっと幸せな人生を送りたい!」
大げさな、そう思う方もおられるだろうが、このぐらいの年齢にはよくあることでもある。若い頃はとかく周りが見えないものだし、たかが恋愛がこの世の全てだと勘違いしがちである。
蒲田喜造は大きく頷いた。そして己の締りのない胸をドンと大きく叩いた。
「この蒲田喜造が一肌脱ぎましょう」
女性がキョトンとしている間に、蒲田喜造は文字通り肌を脱ぎ始めた。蛇が脱皮するように蒲田喜造の皮がつるんと向けた。中から緑色のグレイタイプのエイリアンが現れた。
あっという間のことだった。エイリアンは女性に蒲田喜造の皮を素早く着せた。すると、女性は蒲田喜造になった。
「これにて一件落着!」
蒲田喜造改め、エイリアンは満足げに言った。エイリアンが空に向かって指をふると、どこからともなくアダムスキー円盤型宇宙船がやってきて、エイリアンはそれに乗り込んでどこかへ去っていった。
女性改め蒲田喜造は別れた家族に養育費を払うため、今日も元気に出社すべく、駅へと歩いていった。
ありがとう、エイリアン!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます