第5話 お出掛け楽々おつかいメモ!


 ハナコがのんびり漫画を読んでいると、お父さんがドアを開けた。


「ハナコ、夜ご飯のおつかいに行ってくれないかい?」

「えー、わたし漫画読んでたのにー!」

「お父さんは家事で忙しいから、頼んだからな」

「そんなー! あ! そうだ! そういう時は!」


 ハナコがリビングに下りていき、テレビを見ていたドジえもんにすがりついた。


「ドジえもーん!」

「なんだい、ハナコちゃん」

「お父さんからおつかいたのまれちゃったの! でも面倒くさいから、おつかいが楽になる道具出してー!」

「お前な、そんな道具あるわけないだろ。お使い頼まれたならさっさと行ってこい」

「でも面倒くさいんだもん! ねぇー! おねがーい! 道具出してよ! ドジえもーん!」

「お使いなんてパパッと行ってパパッと帰ってくればいい……あ、待てよ。楽になる道具、あったわ」

「なーんだ! もう! それならそうと早く言ってよ! ドジえもんったら、いけずぅー!」

「はあ。言わなきゃよかった。口がドジっちまったぜ」


 ドジえもんがショルダーポケットから道具を出した。


 たららら、ららら、ごまだれー!


「おつかいメモー!」

「おつかいメモー? なーに? それ」

「これさえあればお使いするものがどれだったのか確認ができるんだ。先に書かないとな。ほら、このペンで書くんだ」

「わー! このペンかわいいー!」

「パパは何買うって?」

「今夜のご飯はカレーだから、その材料を買ってきてって!」

「じゃあ上から書いてくぞ。じゃがいも。ほら、七色の色が出て綺麗だろ」

「ドジえもん! わたしにもやらせて!」

「おう。いいぞ。ほら、ペンを持って」

「やった!」

「にんじん」

「に、ん、じ、ん……」

「たまねぎ」

「た、ま、ね、ぎ……」

「豚肉」

「ぶたにく……」

「カレールー」

「カレールー……」

「ほら、どうだ」

「すごーい! これなら頭で覚えなくてもいいね! やばい! 画期的!」

「そうだろ。そうだろー。ほら、これ持って行ってこーい」

「はーい!」


 ハナコがかわいい鞄を肩から下げて、玄関で大きな声を出した。


「いってきまーす!」


 メモを持って家を飛び出せば、なんだかいつもより空が澄んで見える。冒険に行くみたいな気分! ランラン!


「あれ、お財布がここにあるけど、ドジえもん、ハナコはでかけたのかい?」

「うわっ! メモ持たせて油断してた! ドジっちまったぜ! パパ、届けてくるよ!」

「いつもすまないね。ドジえもん」


 その頃一方、商店街にやってきたハナコ。たくさんのお店をながめる。


(野菜は八百屋さんだから、サチコさんのお家だな。今日はチヨコがサチコさんを遊びに誘ってたから、弟の二郎くんが店番をやってるはず! あ、誰もいない!)


「ごめんくださーい! 野菜くださーい!」

「はい。いらっしゃ」

「あ、さようなら」


 店の中からサチコが出てきたのでハナコが青い顔で逃げ出した。しかし飛んできた木刀が壁にめり込み、それがハナコのスカートに引っかかり、ウサギさんおぱんつがまる見え状態で逃げられなくなってしまった。


「あーん! 助けて! ドジえもーん!」

「おう! ハナコぉ! 買い物に来たのかぁ……!」

「ぴゃああああ!!」


 木刀を抜いたサチコがハナコを壁に閉じ込め、殺意の眼差しで見下ろしてくる。


「買ってくんだろ? おら、なに買ってくんだ」

「あ……あの……えっと……あのね……」


 あ! こんな時はドジえもんに貰ったおつかいメモの出番だ! ハナコはおつかいメモを鞄から取り出し、サチコに渡した。


「これ……」

「……カレーか」

「う、うん……」


 サチコが袋に野菜を入れた。


「300円」

「えっとねー……あっ!」


 ようやく気付いたハナコが思い出した。


(たいへん! おサイフをテーブルの上に置いてきちゃった!)

「おら、ハナコ。金は?」

「あ、あの、それが……家に忘れちゃったみたいで……」

「ああん!?」

「ひいっ! と、取りに行ってくる!」


 しかし、走り出したハナコの首根っこをサチコが捕まえた。


「あん!」

「本来なら売れるはずだったこの野菜達が、あんたに渡す袋にあったから売れなかったら、その分の売上費、どうしてくれるんだ。てめぇ」

「だ、だから、ちゃんと、あの、買うから……!」

「あんたが買わない可能性だってあるからなぁ!」

「そ、そんなっ! ちゃんと買うもん!」

「サイフだってわざと置いていったんだろ!? ハナコぉ!」

「ち、ちがうよぉ! ほんとうに置き忘れちゃったんだもん! あっ!」


 サチコに顎を掴まれ、むりやり顔を上げさせられる。


「こうなったら……体で払ってもらうしかねぇなぁ……?」

「そ、そんな……」

「金を持ってこなかったあんたが悪いんだ。ハナコ。だろ?」

「か……体って……なにするの……?」

「あんたが知る権利はない」


 サチコの顔が近づく。


「あたいの好きにさせてもらうだけだ」

「こ、こわいよぉ……」

「おら、こっち見やがれ」

「んん……!」

「……ハナコ……」

「あ、いたいた。おーい! ハナコー」

「っ!」

「あっ! この声は!」


 サチコとハナコが振り返った。


「怪獣の被り物を被ったふしぎな女の子! ドジえもーん!」

「お前、ドジってんなー。お使い行くなら財布を忘れんなよ」

「あっ! おさいふ届けてくれたの!? ありがとう! ドジえもんは命の恩人だよ!」

「ん?」


 松コプターで地面に下りたドジえもんが顔を上げると――サチコから、とんでもない敵意の眼差しで睨まれていた。ドジえもんが顔をしかめさせた。


「なに。どうした」

「ドジえもん! すごく丁度いいタイミングだよ! おサイフがなかったもんだから、もう少しで体で支払うことになってたんだよ!」

「お前らいくつだよ」

「これでお買い物ができるね! やった!」


 ハナコがサチコに振り返った。


「はい! サチコさん! 300円!」


 サチコが木刀を地面に叩きつけた。ひいっ!


「た、た、たいへんだよぉ! ドジえもん! サチコさんがめちゃくちゃ怒ってるよぉ!」

「これに関してはあたし、何も悪くねえし、ドジってねえぞ」

「あ! 木刀もって走ってきた!」

「ドジえもんんんんんんん!!!」

「あーん! どうしよう! ドジえもん!」

「えーと、あれでもない。これでもない。あ、こいつはどうだ。たららら、ららら、ごまだれー! ハナコの寝顔写真集ー!」

「っっっっっ!!!!」


 サチコの木刀がドジえもんの顔寸前で止まった。


「こいつがあれば寂しい夜、辛い夜、悲しい夜、ハナコのボケた寝顔を何枚も見れる、あたしがプロデュースした画期的な無料写真集」


 ドジえもんがサチコに手渡し、肩を軽く叩く。


「ちょっくらアドバイス。キスしたいからって何かと理由つけて脅かすな。びびってんのわかるだろ」

「……」

「とりあえずこれやるから、声をかける練習から始めろ。いいな。今度はドジるなよ」


 ドジえもんがサチコから離れ、ハナコに振り返った。


「ハナコ、帰ぇーるぞ」

「はーい! ……またねー。サチコさん!」


 サチコがハナコの寝顔写真集を持って、なんとも言えない顔で二人の背中を見届ける。ふと、ハナコ寝顔写真集を開いてみた。そこには色んなパジャマを着たハナコがただ寝てるだけの写真が並んでいた。しかしどの写真のハナコも違う顔をしている……のをサチコは見分けることができた。ぎろりと、写真集を睨み付ける。


 その心はただただ歓喜している。

 早く部屋で見たいという欲望が駆け走る。

 サチコはもう一度顔を上げた。


 ドジえもんとハナコが手を繋いで歩いていた。


 ――サチコが木刀を構えて再び走り出した。気付いたドジえもんとハナコが逃げ出した。


「ドジえもーん! サチコさんが追いかけてくるよぉー!」

「手繋ぐぐらい大目に見ろよ! ガキかよ! ……あ、ガキだったか……」


 二人が松コプターを頭につけて、空を飛んでいくのだった。






「あ! ドジえもん、どうしよう! 野菜は買ったけど、ぶた肉とカレールーを買い忘れちゃった!」

「あー、忘れてた! お前、なんでもっと早く言わないんだ! くぅー! ドジっちまったぜ!」




 途中で二人はスーパー、あえおんに向かって飛んでいった。

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