第4話 着せ替えゲームのニッキ!


 チヨコが可愛いお人形を見せた。


「見てくださいまし! これ! パパに買ってもらった最高級のお人形さんなんですのよ!」

「わぁ!」

「いいなぁー!」

「羨ましいー!」

「ふふーん! いいでしょー!」

(わあ……いいなぁ。お人形さんかわいいなぁー……。ふぐっ! サチコさんがすごい目で睨んでくる! こわい!)

「皆さんであちらで遊びましょう!」

「ぼくらも行こうよ! ハナコちゃん!」

「うん!」

「ちょっとまった! ハナコはだめよ! あんたお人形持ってないじゃない!」

「ふぇっ」

「そういうことだから! 行きましょう! 皆さん!」

「おっと、こいつはごめんね☆! ハナコちゃん!」

「あーん!」


 ハナコがさんぽセルを引きずらせながら家に帰った。


「ドジえもーん!」

「おう。セーレム。ハナコが戻ってきたからまたな。どうしやがった。ハナコ!」

「チヨコが新しいお人形さんをみんなに自慢してたんだけど、わたしだけお人形がないから、仲間はずれにされたの! わたし、くやしい! あーん! あーん!」

「そういうことならお安い御用! ふーふーふーふー! こいつを使いやがれ!」


 たららら、ららら、ごまだれー!


「着せ替えゲーム! ニッキ!!」

「着せ替えゲームニッキ? なぁーに? それ」

「好きに着せ替えが出来るスマホゲームだ! ほら、これなら一人で遊べんだろ。寂しかったら知らない人とも繋がれる通信機能もできるから」

「えー! すっごーい! これなら一人でも寂しくない! わー! いっぱいきせかえができちゃうー!」

「とりあえずそれで遊んでろ」

「わーい!」

「あたしは道具の整理でもしてるかね。はーあ。子守りは肩が凝るー」


 ドジえもんがデジタルPCでなんだかとても難しそうなことをしている間、その後ろではハナコが畳に寝転がり、着せ替えゲームニッキを始めるのだった。


(あ、しゅじんこうの女の子のおなまえ決められるんだ! じゃあー……そうだなぁー……うーん! ……あ! そうだ!)


 ハナコがなまえを入力した。サチコ。


(この子は、サチコって感じがする! ……あっ! サチコさんと同じなまえつけちゃった! ……まあいいや)


 ゲームスタート。いっぱいおきがえさせてね!


(わあー! かわいいー!)


 種類が豊富なきせかえゲームを楽しんでいると、通信してあそぼうというメッセージが流れた。


(あ! これで顔の知らないお友だちといっしょにできるんだ! やってみよう!)


 ハナコが通信をはじめる、というボタンをタップすると、通信がはじまった。


(どんな子とあたるかなぁー。わくわく。……あ! きた!)


 ほうもんしゃがきたよ! ユーザー名【ハナコ】。


(あ! すごい! わたしとおんなじおなまえだ!)


 テーマに沿ったお洋服をきせてね! テーマ、春!


(春かぁ。こんな感じかなぁ?)


 ぽちぽち着せ替えていくと、タイムオーバー。点数をつけるよ! じゃん! 相手の勝利!


(わあ! このハナコさんって人、すごくおしゃれなお洋服きせてる! すっごーい!)


 ハナコがチャットを打った。


 <お友だちになってください!

 >いいですよ。フレンド登録しましょう。


(わーい! やったー!)


 >いつからやってるんですか?

 <今はじめてやったんです! よかったらまた遊んでください!

 >いいですよ。もう一戦やりますか?

 <おねがいします!


「ドジえもーん! みてー! お友だちができたー!」

「ああ、ああ、よかったな。ハナコ。あたしは今、大事なことやってるからそのお友だちと遊んでな。あっ! 保存前のメモを消しちまった! ちくしょう! 最悪だ! ドジッちまったぜ! ほら、いいから向こう行ってろ」

「はぁーい」


(よーし! もう一戦だー!)


 その後もハナコはきせかえニッキにのめり込み、しばらくの間ドハマリするのだった。





 その夜、ご飯を食べ終えた後、ハナコがきせかえニッキのチャット欄にて、ユーザー名ハナコに向けてチャットを打っていた。


 <ハナコちゃんはここらへんの学校の人なの?

 >そうだよ。サチコちゃんは?

 <わたしもここらへんだよ! ばったり会えるかもね!

 >そうだね。

 <そっちの学校はたのしい?

 >たのしいよ。サチコちゃんは?

 <わたしのクラスの人ね、すごく意地悪な人がいて、いっぱい嫌がらせされちゃうの! でもね、すきな人がいるからへいきなんだ!

 >すきな人いるんだ。

 <うん! すごくかっこいい男の子なんだ! ハナコちゃんはいる?

 >いるよ。

 <そうなんだね! じゃあ、おたがいの恋が実るといいね!

 >うまくいくといいけどな。あたい、怖がられてるから。

 <えー、そうなの? ハナコちゃん、こんなに優しいのに! きっとハナコちゃんのことがちゃんと見えてないんだね! その人!

 >あたいもうまく喋れないから、自業自得なんだけどね。

 <いつからその人のことすきなの? わたしはね! ひとめぼれなの!

 >入学式の時に大事なもの落としちゃって、困ってたら一緒に探してくれたの。それで、その時に名前聞かれたから教えたんだけど、すごく綺麗ななまえだねって、言ってくれたんだ。

 <えー! そうなんだー! それから片想いなの?

 >うん。

(この子わたしより年下なのかな?)

 <そっかぁー! すごくいい話だね! それは惚れちゃうー!

 >サチコちゃんは好きな人と話す時、どうやって話す? あたいはね、心臓がドキドキして、うまく話せないの。

 <わたしはねぇー、テレビのおはなしとかするかなぁー。あ、そうだ! 宿題とか誘ってみたらどうかな?

 >宿題?

 <わたしね、宿題がでたらすきな人にいっしょにやろーって誘うんだ! そしたらいっしょにいる時間も増えるでしょう?

 >それ、すごくいいね。ありがとう。明日やってみる。


「おい、ハナコ。パパがアイス食べようだってさ」

「あ! 今いく!」


 <お父さんによばれたからいくねー!

 >うん。またあそぼうね。

 <うん!


(ハナコちゃんの恋、実るといいなぁ)

「ハナコ、何味にする? あたしはメロン」

「わたし、いちごがいい!」


 甘くて美味しいアイスを食べて、ぐっすり眠るハナコ。心からハナコちゃんの恋が実りますようにと祈ってあげる。


 翌日、なんてこと。算数の宿題が出た!


(うわ……さんすうだ……)

「提出できない生徒は鞭の刑だからな!」

(うわぁ! これはやらないとたいへんだ! ……あ、太郎くんとやろう! 太郎くん!)


 ハナコが振り返った。太郎くんが既に隣の席のエリート女子、エリコと話していた。


「太郎くん、放課後やらない?」

「いいよ! いっしょにやろう☆!」

(あーん! そんなー!)


 直後、ハナコの机に木刀が刺さった。青い顔でハナコが振り返ると、周りに煙が立ち込め、刺さった木刀に紙が貼られていた。


【放課後、教室で、一緒に宿題やるぞ】


 ハナコが黙り、そっと横を見る。にやにやするチヨコと、無言の圧で睨んでくるサチコがいて、ハナコが涙目で小さくなった。


(あーん! 助けて! ドジえもーん!)

「あっ! ハナコにスマホ貸してて充電してなかった! ちくしょう! ドジっちまったぜ!」


 ドジえもんがスマートフォンを充電した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る