番外編 未来のハナコとサチコ!
そこは、キラキラ輝く高級タワーマンションの中。至るところにロボットがいて、マンション内を掃除している。
ハナコが優雅に紅茶を飲み、ふう、と一息をつくと、執事ロボットが部屋にやってきた。
「奥様、ご主人さまが帰ってきました」
「え!? 今月帰ってこないんじゃ!?」
「予定が変わられたそうです」
「うわっ! やばい! 仕事の連絡……きてない! おっけー! 通知オフ! ドジえもん……は、いない! おっけー! よーし! ふーう! 気合を入れてー!」
ハナコが廊下を走っていき、寝室の前で待つ。その時、勢い良く両扉が左右に開かれ、マフラーやらコートやらを脱いで大股でサチコが歩いてきた。その瞳は獲物を狩るが如く。
「お、お帰りなさい! サチコさ……!」
サチコが無言でハナコをしっかりと抱きしめた。
「はぶっ!」
そのまま寝室へ運ばれていく。
「あだっ!」
ベッドの上に体を倒せば、その上にサチコが乗り込み、ジャケットやらパンツやらネクタイやらを脱いでいく。
「あっ! ちょ、ちょっと待って! サチコさん!」
「待たない」
「わたし! さっきまで仕事やら何やらしていたから、汗臭いと思うの!」
「上等」
「一度シャワーに! あっ、サチコさん! だめっ……あっ……!」
ハナコが目を覚ますと、既に夕食の時間であった。さっきまでお昼だったのに。
(腰痛い……)
クッション椅子に座り、二人用のテーブルに並ぶ食事を見つめる。あ、寝てたから料理用ロボットが作ってくれたのか。
「サチコさん、あの、ごめんね。ご飯作れなくて……」
「気にすんな。無理させたのはこっちだから」
(あ……)
頬に優しいキス。
(サチコさんったら……ぽっ……♡)
「食べて。ハナコ」
「う、うん。いただきます……」
正直、自分が作るよりもロボットに作らせたほうが美味しいので、ロボットに頼りがちになるが、結婚する時にサチコに釘を刺されたのだ。あたいは人間の手料理が好きだ。ハナコ、わかってるな?
(きょ、今日くらいは大丈夫だよね? だって、腰痛いんだもん!)
「あの……今月……予定変わったの?」
「ああ」
「えっと……どのくらい居られるの?」
「とりあえず一週間はいる」
「一週間? 本当に?」
サチコの目に映るハナコは、頬を赤らめて、とても嬉しそうに微笑んでいる。
「そんなに、一緒に居られるの?」
「……」
「じゃあ、あの、明日から、ご飯もちゃんと作るね! わたしね、最近覚えたレシピがあってね! 美味しいから、きっとサチコさんも気に入ると思う!」
「……」
「あとね、最近ね、新しい案件が入ってね、ずっとSNSでお仕事探してたんだけど、企業さんから声かけてもらえるようになったりしてね、収入がね、これくらいいったの! 頑張ったでしょ!」
「……」
「それとね、こんなことがあって、そしたらドジえもんったらこんなこと言うんだよ? ひどくなーい?」
「……」
「あ、またわたしの話ばかりしちゃった! ドジえもんに良くないよって言われてるのに! サチコさんのお話も聞かせて? 最近どんなことがあったの?」
サチコの手がハナコの頭を撫でた。ハナコがきょとんとする。サチコはいつものように、自分だけを見つめている。
「あたいの事は良いから、ハナコの話を聞かせてくれよ」
「……でも、わたしも……サチコさんの話ききたい……」
「……」
「ひい! なんで睨んでくるの!? わたしなにかいけないこと言った!? どうしよう! ごめんなさい! はぶっ!」
強く抱きしめられたら、サチコの豊満な胸にハナコの顔が埋まった。
「……サ、サチコさん?」
「……明日の予定、全部キャンセルしろよ」
「……サチコさん、わたし、お友だちに聞いたの。性欲が増すのは疲れてる証拠なんだって」
「じゃあ、ハナコで発散させてもらおうか」
「あっ、待って! まだ食事の時間……あっ……!」
浴室。
「あんっ! サチコさん! そんなのだめ! わたし、こわれちゃうよぉ!」
更衣室。
「お風呂上がったばかりなのに! あんっ! だめぇ! あん!」
寝室。
「もうイけないのぉ……! イけないからぁ……! あっ! らめぇ! イくぅー!」
朝。
「やっ! 朝起きてすぐなんて、そんなの無理だよぉ! 無理なのにぃ! 感じちゃうぅ!」
昼。
「サチコさん! 今はエッチの時間じゃなくて、ランチの時間だよぉ! あっ! そんな! キッチンで、だめぇー!」
夜。
留守番電話サービスに接続します。ぴー。
「もしもしドジえもん……。どうなってるの……。全然変わってないじゃん……。サチコさんの偏愛ぶりは日々激しくなってて……このままじゃ、わたし、本当に死んじゃうよぉ……。早くなんとかしてぇ……」
録音しました。ぷー。
「はぁ……。今夜も気絶するまであんなことやこんなことをさせられちゃうのかなぁ?」
「ハナコ」
「きゃっ! サチコさん! ちょっと待って! わたし、心の準備が!」
「ドジえもんは?」
ハナコが目を逸らした。
「………………………あー、なんか…………旅行に行くとか言ってたかなー? しばらく帰ってこないらしいよー?」
「……ふーん」
「それよりサチコさん、一緒に映画でも見ない? チヨコが俳優と知り合いだからって自慢してきた映画なの」
「今日は寝ようかな。明日は仕事の連絡とか確認しないといけないし」
「ああ、そうよね。今日もお疲れ様。サチコさん。ゆっくり休んでね」
ハナコが夜の挨拶代わりにサチコの頬にキスをしてあげると――10秒後にはサチコがハナコを抱えて寝室に向かっていた。
(ああ! 結局こうなるのね!)
サチコがハナコをふかふかのベッドに押し倒し、その上に覆いかぶさり、いやらしい手つきでそのえっちで敏感な肌に触れていく。
「あん! サチコさん! 今日はもう寝るって! あん! そんなとこ触ったら……らめぇー! あっはーん!」
(*'ω'*)
それは小学校の入学式の時、庭でうろうろしている女の子がいたので、ハナコは声をかけた。その女の子は、どうやら落とし物をしてしまったらしく、涙を流していた。
「どうしよう。母ちゃんに叱られる」
「わたしもさがすよ!」
その落とし物は防犯ブザーであった。花壇に落ちていたのを、ハナコが見つけて女の子に渡した。
「見つかってよかったね!」
「ありがとう。あんたは心の友だ。なまえなんていうの?」
「わたしハナコ! あなたは?」
「あたいはサチコ。未来の女番長のサチコっていうのは、あたいのことさ」
「へー! サチコさんっていうんだー!」
ハナコが微笑んだ。
「とってもキレイななまえだね! おんなのこらしくて、うらやましいや!」
桜の花が舞い、ハナコの笑顔に色味を付け足す。その可愛い笑顔に、サチコは釘付けになった。
小学校時代はチヨコと二人でハナコをイジメていた。イジメる時しか、ハナコに声をかけることができなかったから。
中学時代は、やっぱり変わらず、チヨコと二人でハナコをからかっていた。そうしないとハナコが他の人達に虐められるから。受験生になったら、怯えるハナコの家に行き、サチコとチヨコが付きっきりで勉強を見た。
高校時代は三人で同じ学校に行った。相変わらず関係は変わらなかった。しかし事あるごとにハナコが太郎に告白しようとするから、全力でサチコが妨害した。その頃には、暴走族総長兼女番長の名前がつけられていた。高校3年生の春、サチコがビジネスに手を出した。半年で結果を出した。卒業式。サチコがハナコを迎えに来た。
「必ず幸せにします。ハナコさんをあたいに下さい」
「ぷえ?」
その後、ハナコはウェブデザインの学校に行って、ウェブデザインのクリエイターとして働き、サチコは会社を拡大させていき、どんなに景気が悪くても黒字続きの結果を残している。
家に帰るとハナコがいる。幸せな日々だったが、サチコは仕事で家にいないことが多く、時折、そのせいでハナコが寂しそうな顔をしていたものだから、サチコは人造人間の開発グループを立ち上げた。結果、研究グループが人造人間の開発に成功。第一号をハナコの誕生日にプレゼントした。
「ハナコ、この子はあたいたちの娘さ。名前はあんたが決めやがれ」
「えー、それじゃあ……ドジっ子だからぁー……」
(*'ω'*)
ハナコが目を覚ました。
サチコがハナコを見ていた。
ハナコがあくびをした。
サチコは暗闇の中、猫のようにじっと動かず、ハナコの顔だけを見つめている。
「今何時……?」
「まだ寝てろ」
「サチコさん、ずっと起きてたの?」
「いや、……さっきちょっと寝て……起きちまった」
「睡眠薬飲む?」
「いや……いい」
サチコがハナコの手を握ると、ハナコもサチコの手を握り返した。互いの胸が温まる。
「……ね、サチコさん。わたしね、別に、住むところが、高級マンションじゃなくても、平屋でもいいし、壁の薄い寿命の切れたアパートだって平気よ?」
「なんだ。急に」
「サチコさんが心配。だって、いっつも無理してるんだもん」
「従業員全員、食わせないといけないからな」
「でも、それでサチコさん一人だけが頑張るのは違うと思うの。休める時は……休んでほしい」
「……ハナコ……」
「サチコさんが眠るまで、わたし、今日は寝ないから」
ハナコがむふっ、と頬をふくらませる。
「絶対寝ないから!」
さん、に、いち。
「すぴー」
「……」
「はっ! い、今のは、目を瞑っただけだから!」
「……ふん」
「本当よ。サチコさん! 別に、寝ちゃってなんかないんだから!」
「わかった。ちゃんと休むから」
サチコがハナコをしっかり抱きしめて、目を閉じる。
「おやすみ。ハナコ」
「……うん。おやすみなさい。サチコさん」
「愛してる」
「……うん。ありがとう……」
サチコが安堵の表情を浮かべ、次第に深く眠っていく。後にも先にも、サチコがこの表情を見せるのはハナコにだけだ。
だからこそ、ハナコは未来を変えなければいけなかった。
(少しでもサチコさんが幸せになる未来にするために)
それがたとえ、自分たちが結婚しない未来だとしても。
「……サチコさん」
既にサチコは眠っている。だからこそ、彼女の耳に囁いた。
「わたしもね、いっぱい愛してる。サチコさん」
ハナコがサチコの頬に、愛おしそうにキスを送った。
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