第11話 患者❮1❯領主の姉

「危ないから、お止めなさい」

「姉ちゃん大丈夫だよ、ウサギ狩なんて子供でも出来るぞ!」

「アルは目を離すと、直ぐ無茶をするから私も監視に着いて行きます!」


 若き領主、アルフォンヌ13歳、姉ビクトリア15歳の時の事だった。


 次期領主の気紛れに、護衛3名が付けられ安全なはずのウサギ狩に出掛けた。


「姉ちゃん!見てくれ、凄いだろ!」

 順調にウサギ3羽を狩り、有頂天のアルだった。

「満足した?それじゃ帰りましょ?」


 満足して帰るつもりのアルだったが、姉の一言で「まだまだ狩るぞ!」と思わず言ってしまった。


 姉ビクトリアの何か言いたそうな顔を見て「もう1羽で終了する」と言い残し、ウサギを追って走った。


 三人の護衛も、後を追った。

 だがウサギは最悪な場所にアル達を導いた。


 冬眠前の、クレイジイベアがビッグボアを貪り喰う所に、ウサギは逃げ込み素早く立ち去った。

 凍り付くアル達を残して。


「アルフォンヌ様!お逃げ下さい!!」護衛が叫んだ。

 クレイジイベアはこちらを見るのみ、まだ行動には移って居ない。

 アルフォンヌは、両脇を護衛二人に抱えられ、クレイジイベアから目を離さず後退した。

 時間を稼ぐ為、護衛一人は決死的覚悟でその場に残った。


「ビクトリア様!クレイジイベアです!!我々が時間を稼ぎます、アルフォンヌ様をお連れして、逃げて下さい!」


 姉は驚きながらも、機敏に動いた。

 しかし、逃げる余裕は無かった。

 恐ろしい唸り声をあげ、クレイジイベアが現れた。

 クレイジイベアの右目には、深く短剣が刺さっていた。

 あの護衛が、命を掛けて負わせた傷だ。

「アルは私が守る!!」

 咄嗟にビクトリアは、弟アルフォンヌに覆い被さった。

 護衛二人は姉弟の前で剣を抜き、盾になった。


 手負いのクレイジイベアが突進、体重500㎏の巨体は4人を巻き込み大木にぶち当たり、動きを止めた。

 右目に刺さった短剣が、巨木に当たった事で深く脳まで達したようだ。

 盾になった護衛二人は即死、低い体勢が幸いしビクトリアとアルフォンヌは、命は助かった。

 しかし、巨木に打ち付けられたビクトリアの右顔面は、眼球と共に潰れ醜い傷痕になった。

 アルフォンヌは右腕がグチャグチャに潰れ、二度と動かぬ腕になった。



「姉ちゃんの顔は、どんな事をしても治す!!!」

 その日から、アル少年は全身全霊を傾け、姉ビクトリアの治療を最優先事項に掲げて励んだ。

 診療所は簡単に建設出来たが、肝心の医者が見付からず、虚しく5年の月日が経った時、奴隷商の売り込みから一筋の光が射し込んだ。





「姉ちゃん!凄く待たせたけど、ついに名医を見付けた!!この腕を見てくれ!動くだろ!!姉ちゃんの顔も綺麗に治せる!!」

「アル?まだそんな事に血眼になって、領主になった貴方はもっとやるべき事があるでしょ!!」


「姉ちゃん!これで最後!騙されたと思って俺に任せて!!」

「いつまでも子供みたいね」

 私に対しては、明るく振る舞う姉だが、日頃の生活は塞ぎ混み侍女も遠ざける毎日と言う事は知ってる。

「アル?歩けるよ!!」

 有無を言わさず、私は姉を抱き上げ『美容整形院』に向かった。



「エーアイ先生!私の姉ビクトリアだ!!姉の治療の為全てを投げ打った!完全に治してくれ!!」

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