第9話 パパの家族への想い

サラは仕事があるので、戻って行った。

結局おじさんはサラのママの名前を聞き出すことはできなかった。

でも上出来だ。

サラという本当に健気で、可愛い娘がパパに会いたいと涙を流す。

その状況目の当たりにして、このあとそれがフィリピンに置いてきた自分の本当の娘だと知った時。

それでもなお名乗り出たくないというなら、そんなパパなんかとは再会しないほうが良い。

とあたしは強く思った。

「智」

「うん」

「あたしちょっと売店いってくるね。」

「ああ、」

「なんかいるものある」

「いや別に」

「なんか、買ってきましょうか」

と今度はおじさんに尋ねた。おじさんは少し驚いたように。

「いや特には。でも若い娘さんに、優しい言葉をかけられると、本当にうれしいな」

「何言っているんですか、可愛い娘さんがいるじゃないですか」

「いやいや。もう会話は成り立たないし、どう接して良いのか分からないし、なんだかんだで汚い物でも見るような感じだし、さっきのサラちゃんみたいに、パパに会いたい。何て言ってくれるような娘だったらどんなにいいか」

「仕方ないですよ、私も経験があります。父親に対する対応がそうなることが、でも本人もどう接触して良いか分からないのだと思いますよ」

「そうだといいんだけれどね」

「じゃあ行ってきますね」とあたしはおじさんとも、聡ともつかないという感じで声をかけて、病室をでた。

売店に行くというのは口実のようなもので、あたしはサラの様子を見に行った。

サラはいつものように忙しそうに働いていた。

まるでさっきのことなど無かったように。

それだけにサラが可哀想に感じた。

サラはパパに会いたいという気持ちを押し殺していた。

その気持ちを開放してまったら、

そして、もしパパがサラに会いたくないという人だったら、

サラは自分心を解放してしまった分傷つく、きっとサラの中では、会えても、会えなくてもどっちでも良いと自分の心を押し殺し、コントロールしていた。

それがさっきのことで、自分はパパに会いたいんだ、抱き締めて欲しいんだと認識してしまった。

おじさんがサラに、名乗り出たくない、ということになればサラが可哀想だ。

パパには会えなかったという状態の何倍もサラは傷つく

結局あたしはサラの様子を見ようとしたのに、声もかけられず売店に寄って、病室に戻った。


最近の智は、本当に良い仕事をしてくれれる。

病室では智がおじさんとなにやら話し込んでいる。

何を聴き出してくれたんだろうと思う。

あたしと智はいいペアーだ。

タッグを組んでサラのため、画策をしている、さすがにピアノとサックスでセッションした仲だ。

わたしは外堀から埋めることにした。

「娘さんとはどんな感じなんですか」

「なんでそんなことを聞くのかな」明らかにおじさんは訝しんでする。

「いえ、うちも父との関係が、自分ではいい関係とは思っているんですけれど、本当のところはどうなんだろうかなって、こういうのは友達のお父さんとか、知り合いには中々聞けないし」

「そうか、何のしがらみもないからってことだね」おじさんは変に腑に落ちたように明るく答えた。

「見透かされている感じですね」

「でも自分の娘くらいの子がどう思っているのか、興味があるな。なんだかんだでよくわからない、なんか父親なんかいなくても良いみたいな感じを受けるんだ」

「私も父とはなんとなく接触したくないと言う時期はありましたよ、でも私の場合は母がフィリピン人でこれが不思議なんですけれど、こんな顔で、絶対に流れている血は母の方が多いはずなんですが、日本で育ったせいか心は日本寄りですね。

母の言葉が分からない時もあるし。

母が作ったご飯がどうしても口があっわなくて、食べられなかったこともあります。そうなるとどしても父に遺存してしまう時もあります。なのに父と口きかない時とか、そういう時が存在しましたから。普通にお母さんが日本人であれば母と娘、対父親という構図になりますよね。そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」

「そうなのかな」

「どこでもそうです」

本来なら本当の娘はもうあなたと融合することはないから、と突き放してサラのかわいらしさを全面に押し出せば、このおじさんは自分の本当の娘に幻滅してサラに会ってくれて、サラに優しくしてくれる。

そう言う構図を画策すればいいんだろうけれど。

あたしは本当の娘をフォローしてしまった。

すでにどっちの味方かわからなくなっていた。

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