お笑いネタ見つからへんわ

岩田へいきち

第1話

「なんか浮かない顔してるな。だうしたん?」


「いやな、見つからへんねん」


「何がやねん?」


「お笑いネタ、ここんとこ、ず〜っと捜してんのやけどな、見つからへんねん」


「そら、お笑いネタ、そう簡単には、落ちてへんな」


「そやろ、初めな、簡単に考えてたん。そんなもん、なんぼでも書いたるで思うてたん。20個でも30個でもな。偉そうに、お笑い芸人さんから連絡来るまでなんぼでも書いたるわ言うてな」


「そう言えばそんなこと言うとったな、お前」


「間違ごうとったわ。書けへんわ。落ちてへんわ。そら、最初はな、『サラリーマン川柳』『スナックの女の子「ゆま」』『インターンシップ「磯山さん」』ってこれまで実際あったことをそのまま書いただけであんまり考えてへんやったんやけどな。順調やったんや。何れも週間順位、6位、5位、14位や。他の作品では、100位以内にもよう入らん俺にしては上出来やがな」


「まあ、他の作品はな……微妙ちゅうか、なあ、文学的にはな……? てな感じやからな」


「えっ、お前俺の作品、読んでくれとったん?」


「まあな、一応、非正規やけど相方やからな。チェックしとったわ」


「お前、好きやわ〜、愛してるわ」


「止めてくれや。俺にそんな気ないわ」


「お笑いネタって言うてもな、誰もが知ってるような話題じゃないといかんしな。10人中8人は知っとるような話題な。言い換えればお前でも知ってるような話題な。でもな、例えば、戦争の話題なんてお笑いには使えんな。人が亡くなってるからな。笑える話と違う。だからと言って、エンタメ話題選んでもな、大御所の失態なんて使えへんな。難しいわ~。無理やわ。お笑い芸人さん、どうしてんのやろな? 甘く見とったわ。お笑い芸人さん、ごめんなさいやわ。そんな中、毎回、毎回面白いネタ出してくる芸人さん偉いわ」


「そらぁ、芸人さんは凄いわな」


「そう言えばお前も芸人さんやったな。凄いわ、舐めとったわ。許してくれ。芸人一本でやってるんやもんな。そんな毎回毎回、お笑いネタ見つからへんわ。お前のこと尊敬するわ。そんな芸人さんに代わってお笑いネタ書こうなんて俺には無理やったわ」


「いや、そんな褒めんでもええで」


「褒めさせてくれ、なんなら弟子にしてくれ、勉強させてくれ」


「いいんやて、そんで一つくらいは、お笑いネ見つけて来たんか?」


「いや、つまらい話やで。田舎のコンビニの話や」


「おお、見つけてきてるやんかい。コンビニか、コンビニなら俺にも分かるわ。そんで?」


「田舎のコンビニやで、都会のコンビニとイメージ違う思うで、大丈夫か?」


「ああ、ええで」


「田舎のコンビニな、店員さんの数、少ないからな。店員さんの顔もシフトもだいたい覚えてしまうねん」


「うん、そんで?」


「特に可愛い女の子は直ぐに覚えるし、だいたい、何曜日の何時頃行ったら会えるかも分かるわな」


「ちょっと待て、お前、ストーカー癖出てへんか?」


「よしてくれ、そんな人聞きの悪い。俺は記憶力良いから覚えてまうだけやがな」


「そんで、それ覚えてどうすんねん?」


「まあ、行くわな。可愛い女の子がいる時間にな。可愛い女の子に会計してもらうのにテーブルチャージ料や指名料取られへんからな」


「なんか変な方向行ってへんか?」


「いや、普通に牛乳持って並ぶんやで、その可愛い子が会計やってる列にな」


「ちゃんと順番に並ぶんやな。いいやないかい」


「それがな、俺の順番があと1人になった時な、前の客がもたもたし始めるねん。そしたらな、さすが世界にも誇れる日本のコンビニやがな。待たせへんねん。

『次にお待ちのお客様どうぞ』って隣りの男の店員さんが俺を呼ぶねん。『いや、俺は、ここでええねん。呼ばんでくれ』って言いたいけどな、可愛い店員さんを眺めながらサヨナラやねん。移動してしまうんやわ」


「なんで、『俺はここがええんやわ、動かへん』って言わんのやねん。お前だったらそのくらいのこと言えるやろ?」


「だってな、その男の店員さん、俺のこと好きかもしれへんやんか。もし、俺が、『嫌や、動かへん』とか言うたらな、その男の子、傷つくかも知れへんやんか。毎日、毎日やって来る俺に惚れてるかもしれへんやんか」


「毎日、行っとるんかいな?」


「おお、牛乳一本買ったら、指名料免除やしな。ついつい、行ってまうわ。そんで、上手くいけば、可愛い子と話せるしな。『袋要りません』『はい』とか『ソース要りません』『はい』とかな。ちゃんと会話成立してるやろ?」


「そら業務上の普通の会話やろ。お前のことやから、『名前は?』とか『何処に住んでるの?』とか訊いてるんちゃうんかいな?」


「何で分かるん?」


「ほんまに訊いてるんかいな」


「ほんでな、田舎のコンビニやからな。名前も家も教えてくれるん。まあ、1年、毎日通ってやけどな。都会ではそんなことないと思うで。都会のコンビニは、指名料取られるって聞いてるしな」


「そんなん、コンビニで取られるわけないやろ。そら、田舎も都会も一緒やわ」


「そうなんか、良かったわ。都会に住んだらどうしよう? 思うとったわ」


「そんで、名前も住所も教えてもろうて、お前、どうしてん?」


「毎日通ってるで、牛乳買いにな。喋れるチャンスは、会計している間のわずか30秒足らずや。その30秒で訊きたいことや言いたいことを言うんや。1日1質問までや。もたもたしとったら後ろの客が、『こいつ、何もたもたしてんねん』って俺みたいに思うからな」


「1日1回しか行かへんのやな? そら、名前教えてもらうのに1年くらい掛かるかもしれんな。それでその名前も住所も教えてくれたって子、名前なんて言うねん?」


「山北よしおくん」


「男かいな」


「まあ、田舎やからな」


「田舎関係あるんかいな? まあ、とりあえず落ちたな。やるやないかい。俺でも分かるコンビニネタで笑わすとは。やつぱり、俺、お前を非正規相方に選んで良かったわ。またお笑いネタに困った時出てきてくれ」


「お前もネタ見つからへんやったんかいな。 もうええわ」


「ありがとうございました」



終わり

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お笑いネタ見つからへんわ 岩田へいきち @iwatahei

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