第6話 虜―トリコ―

そんなある日の事。



「石山さん」

「はい」



同じ会社の一コ上の男の人が声をかける。




「あの……今夜ちょっと、お付き合いしてくれませんか?」


「えっ?」


「あっ…良かったらで良いんですけど…」


「良いですよ。じゃあ…仕事終わり次第待ち合わせしませんか?」


「はい、ありがとうございます」




その日、仕事終了後、会う約束をした。


彼の名前は、

津基田 彰哉(つきだ しょうや)さん。21歳。



「すみません…お待たせして」と、私。


「いいえ」

「あのご用件は?」

「取り敢えず食事しましょう」

「あ、はい」



私達は食事をした。



「実は…あの…良かったら俺と、お付き合いしてくれませんか?」


「…えっ…?」


「突然こんな事を言うのもアレだけど…友達からで構わないので…」



「…津基田さん…」

「返事はすぐにとは言いません」


「ありがとうございます。だけど…友達から付き合って津基田さんに恋愛感情が生まれる自信ないですから」


「それでも大丈夫ですよ」




私は友達から付き合ってみる事にした。


出かけたりして仲良くしていき、津基田さんの良さが分かり、恋人として付き合ってみようかな?と思い始めるのだった。





ある日の仕事終了事。



「津基田さん、少し…時間いい?」

「ああ」



私達は近くの公園に移動する。




「あの…恋人として付き合って下さい」

「えっ?」


「津基田さんの色々な部分を見てきて、もっと色々と知りたいから」


「分かった。じゃあ、改めてよろしく」


「うん」




私達は正式に付き合う事にした。







ある日の日曜日、私達は待ち合わせをし出掛ける。




楽しい時間を過ごし、マンションの駐車場まで送ってもらい、その日の別れ際――――





「じゃあ、また」

「ああ」



別れ始める私達。



「砂耶香」

「ん?」




グイッと抱き寄せる彰哉。




ドキッ


顔を近付けてくる。



《えっ…?》



「ま、待って…!」

「えっ…?」

「あ…ごめん…ちょっと驚いちゃって…」

「あ…悪い…」

「ううん。私こそゴメン…そ、それじゃ」

「…あ、…ああ、それじゃ」

「うん」




私達は別れ彰哉は帰って行った。





「………………」



「…可哀想に…」



ビクッ



声がし振り返る視線の先には


煙草の火をつけ吹かす人影。



ドキッ


何故か胸が大きく跳ねた。




「りゅ、龍介っ!!やだ…!何して…」

「お前と同じデートの帰り」

「えっ…?」



「えっ!?違うの!?だってキスする寸前だったし。あれは…そう見えたのは気のせい?……まあ、拒まれた感じで男の俺としては同じ同性として可哀想な瞬間だったけど……あれは…相当…傷ついたかもな…」



「えっ…?あ…そう…なんだ…見て…たんだ…じゃあ…悪い事しちゃったかな…?」


「俺とはキス出来たのにな」


「…えっ?そ、それは…!りゅ、龍介は強引だし!拒む隙さえも一切与えないし!出来ないから!」




「………………」



「そっ!」



そう言うと横切る龍介。




「………………」



「あっ!待ってよ!」

「何だよ!ついてくんな!」


「隣人でしょう?仕方ないじゃん!あっ!それとも、本彼女(カノ)が来るとか?」



私は辺りを見渡す。



ドンッ


龍介にぶつかる私。




「痛っ!何!?急に止まるなっつーの!」



振り返る龍介。


私の目線に合わせるように顔をのぞき込むようにする。




ドキッ



「本カノだ!?お前、バカ?そんな奴いるわけねーだろ!?特定はつくらねーんだよ!そう言ったはずだけど?」



「そ、それは……」





前に向き直り、再び、帰り始める龍介。




「あっ!ねえ、どうして?特定つくらないの?龍介カッコイイんだし、楽しめば良いじゃん!」



「うるせーな!お前には関係ねーだろ!?」




ズキン…

何故か胸の奥が痛む。



「そ、そうだよね…ゴメン…私には関係ないよね…?」



私は足早に去るように横切る。




「………………」



グイッと引き止められた。



ドキン…



「…砂耶香…俺に深入りすんなっ!」

「えっ…?だ、誰があんたなんかっ!」

「だったらいいけどな」



引き止めた手を離すと、龍介は背を向ける。



「後悔すんのはお前なんだからな!俺は、女を悲しませる男なんだよ!その事、頭ん中によーく入れておけよなっ!」


「言われなくても絶っ対に好きにならないっ!あんたみたいな男は地獄行きだよ!」


「だろうなっ!」



そう言うと逆方向に向かい、マンションから離れていく




「ちょ、ちょっと!何処行くの?」

「用事思い出したんだよ!」

「また別の女の所に行くんでしょう!?」


「あのなーー、今、帰って来たばっかだぞ!勝手な思い込みしてんじゃねーよ!」


「だって!龍介は……」




歩み寄り、グイッと引き寄せる。




ドキッ



「俺が何?」


「……………」


「言えよ!」


「…な、何でもない…!」




私は押し退け背を向けマンションに向かい歩き始めるも、すぐに引き止められ、


グイッと後頭部が押されると同時に手を引き寄せられ、私の唇を一瞬にして奪った。


すぐに唇が離れるも、すぐに唇は塞がれ深いキスをされた私は無意識にそれに応えていた。


至近距離にある龍介の顔に早鐘のようにドキドキする私の胸はザワつく。




「彼氏いて彼氏とはしない。俺みたいな男から簡単に奪われてんじゃねーよ!砂耶香」




ドキン



「………………」



「俺とするキス、彼氏に教えてやれば?」

「えっ…?な、何言って…」


「この際、全部俺が奪って手取り足取り教えてやろうか?砂耶香」


「バ…バカっ…!」



私は押し離した。



「誰が!あんたになんか!」




私は足早に去った。




「クスクス…おもしれー奴…彼氏と別れるのも時間の問題かもな…」




そう言う龍介。


龍介は逆方向に向かう。




そして私は振り返り、背中を見つめる。




「…絶対に好きになんかならない…龍介なんか…」





あんなキス反則だ


本当に 隙―スキ―がない


押し離したくても


逃さないように


抱きしめられる


女の扱いが上手い証拠?


私は気付かないうちに


奴の虜―トリコ―になっていく




























































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