第7話 省吾のマンション
ガチャっ!
中野五丁目にある、十階建てマンションの最上階。広めの玄関が、歩の瞳に映っていた。想像以上の出来事。歩は、玄関に入るのに躊躇してしまう。
「どうした、入って…」
そんな省吾が発した言葉で、玄関に、足を踏み入れられた。
「歩、鍵と、チェーン、しといてや。」
そんな言葉を残して、省吾は、スタスタと、奥に足を進めていく。歩は、緊張しているのか、鍵とチェーンをかけるのに、戸惑っていた。
<しつれいします>か細い小声で、そんな言葉を発しながら、ゆったりと、リビングに顔を出すと、十畳以上ある空間の先に、東京の夜景が輝いていた。
「あっ、歩、寝室のベッド、使ってや。」
しわくちゃにしたシーツを手にして、姿を現す省吾。そして、いつの間にか、どこかへ消えていた。
「省吾さん、私、こっちでいいです。」
歩は、そんな言葉を言いながら、リビングのでっかいソファーに、近づいていく。
「ふん、なんか、ゆうたか。」
そんな言葉を発しながら、また、姿を現す。忙しなく動いている省吾。
「ここで、いいです。」
歩のそんな言葉も、言い切らない内に、新しいシーツを持って、出てきた部屋に入っていく。そして、ノートパソコンを持って、三度、姿を見せる。
「シーツと枕カバー、変えたし、いつでも、寝られるで…」
省吾が、三度、現れる間、歩は、改めて部屋を見渡してみると、思いのほか、片付いている。もっと、散らかっているのを想像していた。
「わ・私、こっちで、いいんですけど…」
<あかん!>省吾は、叫び声に近い声を上げた。ちょっと、驚いた表情を見せる歩。
「あっ、ごめん。これから、仕事もせなぁあかんし、こっちで、寝ていたら、気を使うやろ。」
「はい、分りました。」
まだ、少し、怯えている様にも見える。
「あっ、そうや。風呂は、どうする。お湯を、溜めるんやったら、時間かかるけど、シャワーだけなら…」
そんな省吾の言葉が、届く。考えてみれば、丸二日、お風呂に入っていない。汗でベタベタ、気持ちが悪い。
「は、入ろうかな。」
「そうか、じゃあ、ちょっと、来て…」
そんな言葉を口にして、寝室に消えていく。歩は、省吾の言葉に従い、足を進めた。
これもまた、十畳以上ある寝室。セミダブルのベッドに、据え置きのパソコン…そんな部屋に、またまた、驚いてしまう。
「パジャマないわぁ…あっ、ワイシャツあった。」
クリーニングのビニール袋に入ったワイシャツを手に取る。
「買い置きのパンツもあったなぁ…あった。あった。もう、暖かいから、これでいいやろ、歩。」
「は、はい。」
省吾の姿よりも、部屋の方に、目が行ってしまう。歩は、カラ返事をしてしまう。
「洗うものは、洗濯機の中にな。バスタオルは、脱衣所あるから…じゃぁ、入っておいで…」
かなり広い、2LDK。(省吾さん、結構、金持ちやん!)そんな言葉を、心の中で、叫んでしまう。
「あっ、チョイ、待ち。ブレザー、クリーニングに、出すとくさかい、このハンガーに、掛けとき。」
そんな言葉と一緒に、ハンガーを手渡される。恐縮しながら、風呂場に向かう。数時間前には、想像していなかった展開。おいしい食事を食べ、ホテルみたいな部屋に泊まろうとしている。こんな展開で、いいのだろうか、考えてしまう。
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