第10話 呼び出し
呼び出しと云うものを初めて受けた。多分瑠璃関係。屋上のに続く階段の踊り場に呼び出された。クラスメートではない。他のクラスか先輩だろう。
「お前一船さんとどういう関係だ」
「親友だけど?」
「じゃあ、なんで俺が振られるんだ!」
「タイプじゃなかったんじゃない?」
「舐めてんのか!」
左手で胸倉を掴まれ、凄まれる。しかし、怖くはない。むしろ瑠璃グッジョブと思っていた。これで殴られでもしたら。コイツ停学や退学になるんじゃなかろうか?
「なんとか云え」
「ざまぁ」
「コイツ!」
右頬を殴られた。顔は止めてくれよ。普通はバレにくいボディーだろ。
「顔は止めてくれないかな」
「うっせぇ!」
また右頬を殴られた。どうせ喧嘩には勝てない。やり返せないなら煽り続けよう。
「停学になるよ?」
「もう、しゃべんな!」
鳩尾に膝蹴りが決まり、息が出来なくなる。どれだけ殴られ、蹴られ、踏まれただろう。ボロ雑巾の様になった俺を放り出してそいつは踊り場を後にした。
「DQNが……」
どうやらどこも折れてはいない様だが、体中痛い。なんとか立ち上がると保健室へ向かう。瑠璃に会わなければいいけど……。
「どうしたのその怪我!」
瑠璃に見つかった。どうやら探していたらしい。
「DQNにボコられた」
「喧嘩したの?」
「一方的にやられた」
「反撃しなかったの?」
「それだと相手を停学に出来ないだろ」
「それはそうだけど……」
「保健室に行くからどいて」
「肩貸そうか?」
「そこまでひどい怪我じゃないよ」
言いながら保健室を入ると先生はいなかった。しばらく待つことにする。
「誰にやられたの?」
少し怒気の滲む声で瑠璃が聞いてくる。
「知らない相手」
「知らない相手になんで暴力を振るわれるの!」
「瑠璃が振った相手みたいだったよ。いつの話かはしらないけど」
瑠璃に告白する人は多い。両手では足りないだろう。ことごとく振っているらしいが、呼び出しを受けたのはこれが初めてだ。全員にボコられてたらその内入院する事になりそうだ。
「最近で言うとバスケ部の三年の近藤先輩だけど……」
「ああ、そうなんだ。俺には関係ないけど」
ガラリと扉が開き保健の斎藤教諭が入ってきた。
「保健室で何やってるのかしら?」
「怪我をしたので待っていただけですが?」
「イチャイチャしていないならいいわ」
保健室でそういう事をしてみたい事実はあるがリスクの方が高いので取る気は無い。しかし、この先生なんで少し怒ってるんだろう。
「階段から落ちったてことはないわよね、誰にやられたの?」
「名前は知りません」
「名前も知らない人に付いて行くからよ」
「呼び出されたのは初めてなので知的好奇心が抑えられませんでした」
「バカなの?」
「バカなのかもしれません」
斎藤教諭はため息をついてから治療してくれた。消毒液が染みて痛い。
「今度から呼び出されても付いて行かない様に」
「分かりました」
「さ、用が済んだらさっさと帰りなさい」
「はい」
礼を言って保管室を後にする。なんか、素っ気ないというか、なんというか。
「なにあの先生」
「瑠璃さんも変だと思った?」
「当たり前でしょ」
「授業に出たくない不良たちを庇う先生だから。優等生には厳しいのかも」
「不公平よ!」
「まあまあ、落ち着いて」
「なんで誠一君は怒らないのよ」
「身から出た錆だからかな」
「私のせい、なんでしょ……」
「それでも俺は瑠璃さんと一緒に居たいからね」
「バカ」
二人で帰る帰り道。いつもより瑠璃の距離が近いように思えた。
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