第2話 転校生
俺、甘城誠一はその名の誠の名に恥じるほどのドスケベだ。しかし、しかしだ。それを一切表に出さない優等生を演じきっていた。グラビアの載っている雑誌は持ち込まない。男子の下ネタで笑わない。女生徒を不躾に見ない。女性には興味ありません、でも男性にはもっと興味を持ちませんというスタンスを貫いていた。
自分でも女顔だなと思うほど中性的容姿に筋肉の付かない身体。運動神経は悪くないが球技よりも持久走が得意だ。
言ってしまえばボッチだ。弁当は一人で食べるし、友達と連れションなんて友達がいなければ関係ない。
ボッチにスクールカーストは存在しない。上位に睨まれなければ、だが。成績は上の中。他人に頼まれればノートを貸すことも有るが、今の時代タブレット端末で教師の書いた文字を撮影するのが主流の中、ノートとシャーペンでは無くボールペンで授業内容をはじめから清書している。几帳面で集中力の続く限り授業内容を覚えようとしている。
その為、中学時代はテスト前になるとノートが重宝された。今の高校に知り合いは一人も居ない。過去を知られたら徹底的に糾弾されカースト上位者によってカースト最底辺だ。今の状況は意図的に作り出したものだ。
毒にも薬にもならぬ、孤高ではなく孤独。自分の過去の蛮行はまだ若気の至りで説明が付くが、高校生となれば幼稚ないたずらがセクハラにまで跳ね上がる。それだけは避けねばならない。電車を乗り継ぎ遠方の進学校に進んだ。
電車代は家計には負担だったが、進学校に進んだこともあり両親は喜んだ。セクハラ魔人寸前で妹の評価を下げていたがなんとか回復の兆しが見えていた。ここで変わらなければいつ変わると一念発起した。
「転校生を紹介する」
「暁高校から来ました。
脳髄に電撃が走った。忘れていた風景を情景、感情を思い出した。一度限りの関係。その夢の少女瓜二つの美少女。濡れ羽色の腰まである黒髪。愛くるしい大きな瞳。明るい茶色の瞳は真っ直ぐ向いている。低身長で胸が大きいのも一緒だ。一つ違うと言えば眼鏡を掛けている事。
全身が戦慄くのを感じる。それは歓喜だ。だが、ここで喜べば騒いでいる男子たちと一緒になってしまう。
「では、奥の席に空いてるに……」
「先生。目が悪いので前の席の方が良いのですが……」
「そうか、この列一人ずつずれろ。それでいいか?」
「はい。ありがとうございます」
転校初日でクラスの中心に納まった。誰もが、彼女に魅了される。小悪魔ではなく蟲惑魔。全身から魅力が溢れていた。
「よろしく、えっと……」
「甘城誠一。出席番号一番」
「それは甘城だからね……。甘城君、私タブレット配布されてないの教科書見せてくれる? 他の人はタブレット持ってるみたいだし。甘城君、教科書持ってるし」
そう言われて隣の席と机をくっつける。クラスメイト中から嫉妬の視線を感じる。今日が命日になってしまうかもしれない。それでも良かった。もう一度会えた。それだけで今日死んでもいいと思えた。
「」
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