ロシアにて 第三部～シベリアで、逢いましょう～

第十三話 「стратегия(戦略)」

"カタタタタタタタタ.....

「―――河野支局長、お先です」

「・・・・ん」

「・・・・」

～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～

"ガタッ"

「(・・・未だに紙の方の紙面に収益の大半を

　 依存してるみたいだな・・・)」

藻須区輪亜部新聞、２Ｆ。

第四編集局。

「(・・・ずさんだと思ってたが、

　 予想以上だな....)」

"カタタタタタタタタタタタタ....

「――――もう、全員帰ったのか？」

現在、隆和の代わりとしてこの第四編集局の

支局長兼、編集長へと就任した河野は、

室内の明かりがすべて消えた状態で

唯一この部屋にある明かりが灯っている

目の前のパソコンに目を向ける

「・・・経営的にも、当然の様に赤字経営だな」

"カタ"

「・・・・」

隆和達、東京日朝本社の社員たちが

この藻須区輪亜部新聞で働く様になってから

既に半年余り。

「(元々、このイスクラ・コムソモーレツ社は

　 Earth nEwsとの連携の関係で

　 日朝本社が買収しただけだからな・・・)」

当初、東京にある日朝新聞本社は

このロシアに新たに

支局を建てるつもりは無かったが、

世界でも有数の規模を誇る

"アラベスク"

と日朝本社がインターネットニュースサイト

"Earth nEws"

を共同で立ち上げる事になり、

その関係でヨーロッパ方面に日朝の社員が

仕事を出来る環境を作るため、

日朝本社はこのモスクワの地で

あまり経営状況が芳(かんば)しくない

この藻須区輪亜部新聞社の前身である

イクスラ・コムソモーレツ社を買収し、

現在の所、日朝の局員たちは

この支局で働く様になっている

「(まあ、多少は日朝の監査が入って

　　経営状況は上向いてるみたいだが...)」

"カタタタタタタタタタ...."

「(....それに...)」

"カチャ"

「(とりあえず、当面の目標として

　 今、この第四編集局が手掛けている

　 アロ！・コムソモーレツ紙を

　 このモスクワで閲覧数のトップにすると言う

　 目標を立ててはみたが....)」

"カタタタタタタタタタタ...."

「(ИЗВЕСТИЯ　Москва

　 [イズベスチア・モズコー

　 ＝モスクワ・ニュース]

　 ＢＮＣ

　 [ブリティッシュ・ニュース・

　 コーポレーション

　 ＝英国新聞]

　 великая россия

　 [ニェニカ・ルシア＝大ロシア]

　 Эконом

　 [イクァンノン＝経済]

　 Царь

　 [ツァーリ＝皇帝]

　 そして、上から...

　 八番目に藻須区輪亜部新聞.....

　 世界的な規模の上位二社は除くと、

　 藻須区輪亜部新聞のニュースサイトの規模は

　 このモスクワじゃ、八番目程度か....)」

"ピッ　ピッ"

「(・・・・・)」

河野は、暗い室内で自分のパソコンに

表示された、近日モスクワにおいて

ニュースサイトの閲覧数上位十社程を占める

企業のＰＶ数や、ＵＵ(訪問者数)

が書かれたインターネットページを見ながら、

視線を俯(うつむ)かせる

「(まあ、元々、"八位"だから、

　 "八位"な訳だからな...)

　・・・・」

"ギッ"

椅子から立ち上がると、部屋の隅にある

まばらに外のビルの照明の明かりに照らされた

窓の側へと向かって行く....

「(とりあえず、世界的規模の

　 ニュースサイトである

　 イズベスチア・モズコーや、ＢＮＣの

　 閲覧数を上回ろうとしても、

　 それは無理な話だ...)」

今自分が担当している二つの紙面の内、

世界規模のニュースサイトである

Earth nEws、

「(こっちの方は、今の所

　 順調に行ってるが...)」

そのEarth nEwsのサイト運営は、

他のスタッフ達の助力もあってか

業績的にはかなり良好な成績を残しているが、

今現在の当面の目標は、如何にして、

このモスクワにある言ってしまえば

会社の"負債"である

"藻須区輪亜部新聞"の経営を軌道に乗せ、

上手く運営するかが当面の課題となってくる

「(だが....)」

時折、光ったり消えたりする照明を見ながら、

現在の思わしくない

アロ！・コムソモーレツ紙のサイト運営に対して

深く考えを及ばせる....

「(一昔前の、あまり情報が詳細に

　 出回っていない時代ならともかく...

　 今はインターネットによって

　 どの局も同じ様な記事を

　 上げる様になってるからな...)」

アロ！・コムソモーレツ社の

閲覧数を増加させると言う目標を

この第四編集局の局員たちの前で掲げて見た物の、

今現在、この藻須区輪亜部新聞社が運営している

アロ！・コムソモーレツ紙は、

このモスクワに数多くある

あまり名前の知られていない、

規模の小さいニュースサイトの一つにしか過ぎない

「(・・・・)」

窓の外の夜景を一頻(しき)り眺めると

再び自分の席へと戻り、暗い室内に

うっすらと自分の影を浮かび上がらせている

パソコンの前に座り込む――――

「(今の時代で....)」

"カタタタタタタタタタタタ―――――