第五話 「Цель на текущий срок(当期目標)」

"ガタッ!"


「七番ッ!


 中根ェッ、 学ッ!!


 ――――"点呼"ッ 願いますッ!」


「"点呼"ッッ


 ヨシッッ!!」


"ザッ!"


三咲が、朝礼で第四編集局の入り口の前に


整列した局員たちの右端に立っている


中根に大声で点呼を呼び掛けると、


中根はその巨体を揺らしながら、


目の前の三咲に向かって大声を張り上げる!


「―――スサセイっッ


 ....すわッ!!


 ――――すわわっ、


 ....点呼確認、終了ォォッ 終了ォッ!?


 ――――願いマスッ!!」


「.....ん」


第四編集局内の全員が


"点呼"を終えた事を確認すると、


三咲はまるで高等警察官の様な


屹立(きつりつ)とした足取りで


後ろに立っていた河野の元まで小走りし、


点呼の終了を伝える


「―――お前ら....」


「注目ッッ!!」


「・・・・!」


朝の点呼が終了し、河野が


整列している第四編集局の局員たちに向かって


静かに声を上げると、その隣にいた三咲が


聞き洩(も)らさぬ様、逃さぬ様、


整列している局員たちに向かって


注視する様大声を張り上げる!


「....礼文。」


「あ、は、ハイ」


"ガララララララララララ...."


「――――?」


「(ホワイトボード....)」


「―――編集長代理。」


「・・・・」


「(・・・・)」


"ガララララララララ...."


列の一番左端に並んでいる太田が、


列から離れ部屋の隅の方に目を向けると、そこに


小さなタイヤが付いた黒板大のホワイトボードを


転がして河野、そして第四編集局の


局員たちの間に立った礼文の姿が見える.....


「Как дела?

(な、何だい?)」


「"当期購読者数目標"....」


"パンッ!"


「"!"」


「いいか、お前ら―――...


礼文が自分の隣に持って来た何か、


一面に数字や文字が書き込まれた


ホワイトボードに目を向けると、


河野はそのホワイトボードを軽く手で叩く


「現在、我々、藻須区輪亜部新聞....


 そして、第四編集局....!」


「(・・・・!)」


Абсолютная-Øから


この第四編集局まで戻って来た中根が、


隙は無いかとポケットに片手を突っ込みながら


ボードの脇に立っている河野に目を向けるが


「いいか、お前らァ....!」


「(――――!)」


場の雰囲気に何か


重苦しさの様な物を感じ取ったのか、


ポケットの中で掴んでいた


サヴァルノイ(麦芽パン)から手を外すと、中根は


忠実な部下と言う自分の役割を見せつけるように


真剣な表情で河野と向き合う


"パンッ!"


「・・・・!」


「我々、東京の日朝の職員が


 この藻須区輪亜部新聞で業務を行う様になって


 半年程経ったが....!」


「――――ありがとうゴザイマスッッ!」


「・・・三咲...」


「・・・・!」


"スッ"


この第四編集局内において、


ガラリとその風紀を一変させた


ヨーロッパ管区統括部長河野ではあったが、


あまりにもその"薬"が効き過ぎたのか


逐一自分の言葉に何か大声で叫び声を上げてくる


三咲を見て、思わず複雑な表情を浮かべる


「我々、日朝の局員が


 このモスクワで働く様になって


 すでに半年――――....」


"コッ コッ コッ コッ――――....


「・・・・!」


ホワイトボードの側を離れ、河野が


自分の前を通り過ぎて行くのを見て


太田は僅かに顔を強張(こわば)らせる


「君達、第四編集局の局員が


 この藻須区輪亜部新聞で成し遂げた仕事は、


 日朝本社でも、それなりに評価している...」


"コッ コッ コッ コッ――――....


「(・・・・!)」


"隙が無い"


「だが――――っ!」


入り口の前に整列している局員たちの前を


左から順に右端まで通り過ぎ、


再びホワイトボードの前に立つと、河野は


ホワイトボードに向けていた顔を


局員たちの方に向ける


「(・・・・サヴァルノイ...)」


「君たちが、あくまで、この藻須区輪亜部新聞、


 第四編集局で成し遂げた事は、あくまで、


 "及第点"であるだけで、


 それがイコール、"評価対象"と言う事には


 ならない―――――!」


「(・・・ぶ、ブっ)」


"ガサッ"


「現在、我々第四編集局が担当している


 アロ!・コムソモーレツ紙は、


 このモスクワのニュースサイトにおいては


 所詮、5番手、6番手の


 インターネットニュースサイトにしか


 過ぎない...!」


「(・・・・!)」


"ガサッ ガササッ!"


「(・・・編集長代理...!)」


"ガササッ!"


熱弁を奮(ふる)っている


河野の様子を伺いながら、ピストルを出す


タイミングを伺う様に中根が


ポケットの中にあるサヴァルノイへ手を伸ばすが


「中根ェ・・・・!」


「――――ッ!? は、ハイ!」


「お前は、この半年間の、


 自分の仕事をどう思う...?」


「(・・・・!)


 い、いえ、この半年間の仕事は、


 アロ!・コムソモーレツの紙面における


 PVの獲得、それに、Earth nEwsに対する


 ツベフォフ氏の論説員としての


 招聘(しょうへい)...


 その他、記事の掲載による広告収入の増加等、


 業務的には、多大な成果を


 達成できたと思います...! ―――ぶフっ」


「・・・・」


"コッ コッ コッ コッ―――――


「(す、隙が....)」


自分の返事に満足したのか、河野が


ホワイトボードの方に振り返ったのを見て、中根は


"隙"を狙いピストルを出す様にポケットの


サヴァルノイに手を伸ばそうとするが、


その後姿から発せられる圧倒的な


"気"の様な物にどうしてもポケットの中のパンを


取り出す事が出来ない


「とりあえず、当面の我々、第四編集局の目標は、


 このモスクワにおいて


 今我々が紙面を扱っている


 アロ!・コムソモーレツ紙の紙面の購読者数を


 このモスクワで1位に押し上げる事...」


「――――1位でありマスッッ!」


「そして、更に、Earth nEws、


 この紙面に価値のある記事を掲載し、


 その評価を上げる事だ....!」


「―――価値のある記事でありマスッッ」


「アロ!・コムソモーレツを


 モスクワのインターネットニュースサイトで


 一位に・・・?」


「Earth nEwsに記事を掲載・・・・」


「それでは、諸君、今日一日も


 頑張って行きましょう


 ・・・三咲。」


「ッ・・・! 


 ――――河野第四編集局局長によるッッ


 朝礼における訓示ッッ


 誠にありがとうゴサイマスッッ!」


「―――ありがとうございますっ」


「ありがとうごさいます!」


「ありがとうございます!」

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