第六話 「Работа(作業)」
"ゴト....ゴトト...
「―――あ~」
"ガタッ! ガタタッ!
「Подождите! Эймой!
(ちょっと! エイモイ!)」
「レベデワ・・・」
"ウイイイイイイイイィィィィ―――――....
「На этой рыбе нет
надлежащей наклейки!?
(その魚、ちゃんとシールが
貼られてないんじゃない!?)」
「Ой ой...
(あ、ああ...)」
"Щ(シャー)-1849"
「Это нормально?
(こ、これでいいのか?)」
「... Абсолютно!
(・・・まったくもう...!)」
「(・・・何だって、マグロに
シールなんて貼り付けなきゃなきゃ
いけないんだ・・・)」
Абсолютная-Ø、
ポジショナー変電設備試験場。
「おっ、次はコイツか....!」
"ゴトっ.... ゴトト...."
隆和は、ポジショナー変電設備試験場の隅から
ベルトコンベアーの上に乗って、
自分の前に流れて来る冷凍マグロを確認すると
頭しかないマグロの口の部分に
手に持っていた鉤(かぎ)状のフックをあて、
閉じていた冷凍マグロの口をこじ開ける
「(・・・っ)」
"ガキッ!"
「С этим, это будет
какое-то время перед
отправкой!
(これで、出荷までもう少しね!)」
"ペタ ペタ"
「(レベデワ・・・・)」
自分の前を通り過ぎて行く、マグロが乗った
コンベアーの少し先にある
別のコンベアーに目を向けると、
そのコンベアーの前に、今自分が
身に着けている作業着と同じ服を着た
前掛け姿の金髪のロングヘアーを纏(まと)めた
一人の女性の姿が見える...
「Эймой!
――Сколько чисел ты
закончил? ?
(エイモイ!
―――そっちは何番まで終わった!?)」
「О, ах...!
(あ、ああ...!)」
レベデワの言葉を聞いて、隆和は
目の前のベルトコンベアーの上を流れる
マグロの目の部分に付いたシールを
目を細めながら見る
「Ах, "Щ-1877"...!
(あー "Щ(シャー)-1877"だ...!)」
「Щ-1877...
Тогда похоже, что
утренняя работа почти
закончена
(Щ(シャー)-1877...
それじゃ、もう少しで
午前中の作業も終わりみたいね)」
「Я-это так...
(そ、そうか...)」
「Ещё немного, Амой.
(もう少しよ、エイモイ。)」
「・・・・」
"ザッ ザッ"
この二カ月程の間で、ある程度喋れるようになった
辿々(たどたど)しいロシア語で返事を返すと、
レベデワは午前の作業のノルマの残りが
少ない事を確認したのか、
目の前を流れて行くマグロに笑顔で
シールを貼って行く....
「(・・・・)」
"ゴト... ゴト...."
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「Амои. Кажется,
ты немного узнал о
своей работе.
(エイモイ。 少しは仕事を
覚えてきたみたいじゃない)」
「Ах, ах. Так ли это?
(あ、ああ。そうか?)」
「вот, выпей это
(ほら、これ飲んで)」
「...Мне жаль
(・・・すまない)」
"プシッ"
午前中の作業が終わり、
ポジショナー変電設備試験場内の
座りの良さそうな場所から
停止したコンベアーを隆和が眺めていると、
何かよく分からない、ロシア語の文字が
書かれた缶ジュースを片手に先程まで隣で
作業をしていた
"ダリア・レベデワ"
(Дарья Лебедева)
が作業服姿のまま、側までやって来る
「Сначала меня немного
смутила работа здесь...
(最初は、ここでの作業も
少し戸惑ったけど...)」
「Ты уже привык?
(―――もう、慣れたのか?)」
「----Вот так.
(―――そうね。)」
「(・・・・)」
ブロンドの髪に、透き通る様な青い瞳の、
一般的にはかなり美人だと思われる
ロシア女性が自分に向かって
笑顔で缶ジュースを差し出して来るが、
現実の女性にはあまり興味が無い隆和は
無表情で流れて行く冷凍マグロを
そのマグロと同じ様な死んだ目付きで見ている
「128, 129, 130....
Кажется, утром было
отправлено более
130 тунцов.
(128、129、130....
午前中でマグロは130本以上
出荷されてったみたいね。)」
缶ジュースを飲みながら顔を上げると
何故かレベデワは満足気な表情で、
小さな笑顔を浮かべている....
「Ну, похоже, ты тоже
выучил русский язык.
(けっこう、アンタもロシア語、
覚えてきたみたいじゃない)」
「... Ну, я здесь
уже полгода...
(・・・まあ、半年も
こっち(ロシア)にいるからな...)」
「Ну, да
(まあ、そうね)」
「(このプラントに来てからもう二カ月か....)」
河野の指示によって、
このАбсолютная-Ø内で
働くようになってから二カ月程が経ち、
周りにロシア人しかいないせいもあってか
さすがに物覚えがあまり良くない隆和でも
多少はロシア語を喋れる様になって来た様だ
「С такими темпами
похоже, что сегодня
днем тунца не будет.
(この分だと、今日の午後は
マグロは無いみたいね)」
「・・・・」
"――――カンッ!"
「(レベデワ・・・)」
「Ну, нехорошо просто
прикасаться к
замороженной рыбе в
таком месте.
(ま、こんな場所で冷凍の魚ばかり触っていても
気分も良くないものね)」
「(・・・・)」
今、自分の横にいるこの "レベデワ"
「(レベデワも、俺と同じ時期にこの施設に
入って来たみたいだが...)」
「Думаю, мне следует
немного отдохнуть.
(―――少し休もうかしら)」
隆和が河野に告げられ、同じく
藻須区輪亜部新聞から出向した林と共に
このАбсолютная-Øの施設で
働く様になってから少しすると、
このレベデワが自分と同じ様に
このАбсолютная-Øの作業員として
この構内に派遣され、二人は同じ職場の
新人の作業員と言う関係性から
同じ作業現場に入る事が多い
「Интересно, что мне
съесть сегодня на
обед!
(今日は、昼食何にしようかしら...!)」
「... как насчет
китайской кухни?
(・・・中華なんかどうだ?)」
「Китайский не годится.
Я не китаец, как вы,
ребята, поэтому мне
не очень нравится
китайская еда
(中華はダメ。
アナタ達みたいな中国人じゃないから
私はあまり中華は好きじゃないのよね)」
「・・・・」
特に返事をせず、隆和は押し黙ると
目の前の動きが停まった
ベルトコンベアーに目を向ける....
「あ! エモイつぁん」
「Рин···!
(リン・・・!)」
「Что, Лебедева
тоже с вами?
(何ヨ、 レベデワも一緒?)」
「Сегодня так кажется.
(今日は、そうみたいね)」
"ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ"
隆和 レベデワが話し込んでいると、
工場(こうば)の隅にある入り口の方から
林がスタスタと歩きながらやって来る
「Судя по всему,
сегодня утром работа
будет закончена...
(どうやら、今日は午前で
作業終わりみたいよ...)」
「О верно?
(あ、そうでしょ?)」
レベデワが笑顔を向けながら林を見る
「Что, ты знал...
(何、分かってたね....)」
「...Ну, я считал тунца
на сегодня, и как-то
я думал, что утром я
закончу работу...
(・・・まあ、今日のマグロの数を数えてたら
何となく、今日は午前で
仕事終わりじゃないかなって...)」
「В яблочко
(その通りね)」
「Ура!
(ウラー...ッ!)」
"タンッ!"
背中を預けていたベルトコンベアーから
身を乗り出すと、レベデワはそのまま
入り口の方へと向かって軽く歩いて行く
「Тогда я вернусь в
свою комнату.
(それじゃ、私は部屋に戻るわ)」
「да нет
(そうネ)」
「どうしたんだ? 林さん?」
「イエ...」
レベデワの去っていく後姿を見ながら、
自分の側に来た林を隆和が見上げる
「今日は、ゴゼンで、サギョウはオワリよ...」
「・・・じゃあ、"心和"って事か?」
「・・・・」
"ニッ"
「・・・・」
意味ありげな表情を浮かべた林を
隆和は軽く見上げる...
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