第06話 木の実がほしい

 その後も、わたしは十数件の依頼を週末助手としてハトリトさんの依頼に同行した。

 ハトリトさんのお客さんはというと、大人ばかりだった。それも、うちの父さんと同じくらいか、少し上ぐらい人である。だいたいはお金持ちだった。一緒に、依頼内容を聞く場にも同行したことがある。すごく立派な家に住んでいて、本をたくさん持っている人、持ってない人が多い。おそろしく豪華な大広間で話を聞いたこともあった。そして、ハトリトさんへ依頼する人の多くが、若いときに読んだ本の続きが出ないままになっている、なので、どうしても続きが読みたいので、書いてもらえるようにしてほしいという内容だった。

 この物語の続きを知るまで死ねない。と、言い出す人もいた。大げさでなく、きっと本気だった。

 気持ちはわかるし、それに、ああ、やっぱりそうなのか、と思うこともあった。大人になっても、まだ続きが読みたいままになってしまうものなのか、と。

わたしひとりじゃなかった。知りたい物語の続きが、この世界のどこにもない、というのは、やっぱり、みんな、なかなかこたえるんだ。

 この物語のつづきが知りたい、その依頼を受けて、ハトリトさんとわたしはつづきを頼みに様々な作家さんのもとへ向かった。

 基本的には、まずひねりを入れず、作家さんが書いてくれるように頼んだ。真っ向勝負だった。

 そして案外、ちゃんとした報酬を約束して頼めば、すんなり続きを書いてくれる作家の人は多かった。喜んでやってくれる人もいたし、しばらく考えた末、後日やりますと回答してくれる人もいた。報酬も、初版だとして、一冊の本で得られる金額とり、かなり多いらしい。もちろん、断られることも、当然あった。その場合は、時間をあけて、また頼みに入ったりして、でも、断られて、でも、また行って、けっきょく、書いてくれる気になったこともある。ねばりが必要だとハトリトさんはいった。

 そして作家さんのなかには、時々特殊な事情があって、書きたいけど、どうしても続きを書けない人がいた。

 その場合はあれである。

 この仕事の冒険編に突入する。

 休日の朝、いつものように町の広場に集合した。

「今日は山に行く」ハトリトさんがそういってくる。「かなり険しい山」

「険しい山」

 と、言いながら見返す。いつものように、青い背広だった。とても、山登りとして、ふさわしく見えない。むしろ、山の精霊たちの怒りをかいかねない扮装だった。おおい、山を汚すなぁ、このやろうぅ、と。

 ちなみに、今回はハトリトさんがひとりで事前に作家さんに頼みに行っていた。平日、わたしはがっこうだし、こういう場合もある。

「なにしに行くんですか、山へ」

「木の実が欲しいそうだ」

「木の実」

「今回の作者さんは、食を主題にした小説を書いていた。しかし、最後の決めとなる、香辛料になるある木の実が最後まで手に入らず、続きを書くことをあきらめてしまった人だ」

「わあ」と、わたしはどう反応すべきか考慮し「んん」と、そのまま、なし崩しに喉を濁してならすにとどめた。

 今回はまだ読んでない本だし、きっと、そこに強い何かがるんだろう。

「というわけで、出発」ハトリトさんがべったりという。

「山ってどこの山ですか」

「ここから以外と近い。ちなみに、ケルルくん、きみが助手をやる日は、わたしはなるべく、君の住処から近い場所の依頼をこなしているよ」

「恩着せがましいな、ありがとうございます」

 眉間にしわを寄せながら言い返す。

「あらためて、出発」

 言ってハトリトさんは遠くを見た。

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