第19話 アバロニ・ダイバー②

 グリルした日干し魚をパンに乗っけて、ワイルド・ライムを搾ってから、かぶりつく。

「ああ、リャンな。アバロニダイバーだろ。凄ェよな」

 もしゃもしゃと咀嚼しながら、もう片方の手で製図に書き込みをする。

「サク、もう一つ」

「それで終わり!」

「底無しじゃなあ」

 ワインとチーズをちびちび齧りながら、ピット爺さんが呆れて言う。俺は夕食を入れてきたバスケットを片付けた。夏は日が長くなり、船大工たちは夜遅くまで働いている。薄暮のなか、船台のランプに灯を入れる。

アバロニって……君たち食べるの?」

「俺は食ったことない。美味いか?」

「儂もないな。もっぱら本島のアジア移民や清が輸入しているらしい。高級食材だな」

「ジナたちは食べるっていってたぞ」

 ヨーロッパ人たちには食べる習慣が無いが、ジナたち先住民パラワにとっては割と身近な食べ物なのかもしれない。東アジア人には吉祥の食材だ。生でも蒸しても焼いても炒めても煮ても美味しい。


「そうじゃ、サク、お前泳ぎが得意なら、アバロニダイバーになればいいんじゃないか」

 ピット爺さんがぽんと膝を叩く。ルカは上げた顔を怪訝に顰めた。

「爺さん、手伝いができて助かったって言ってなかった」

「鮑んとこは儂の知り合いじゃもん。ほれ、一緒に飲みに来た奴だ。ミスターローランドも出資者だしな、気にせんと思うぞ」

「ここだって人手が必要だ」

「お前が必要なのはメシ炊きしてくれる奴だろ。早く結婚するこった」

 まあ、お前の場合は、相手の方が甲斐性が有りそうだが。ルカは黙った。ピット爺さんはニヤニヤ笑っている。困った人たちである。

「冗談じゃなくてだな、ここで一から造船を学ぶよりも、お前の技術を活かした方がいい。アバロニダイバーの方が儲かるんだ、サク」

 皺だらけの落ち窪んだ優しい目元が言う。真冬は流石に潜ることができないからな、その時手伝いに来てくれればいい。悪くない話だろう。それに、例の、“オルカ使い“にも会えるぞ。アバロニダイバーにつきまとう危険の一つは、サメに襲われることだ。“オルカ使い“は、その特殊な声でキラー・ウェール、またの名をオルカ、を呼んで、ダイバーたちをサメから守ることができるのだという。本当だろうか? 俺は、情けない顔をしているルカを盗み見ながら、彼らを知りたいという思いに、勝つことができなかった。

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