第8話 ブッシュ・レンジャー⑤
もうもうと土煙が巻き上がる中を、血走った目をしたブッシュ・レンジャーたちが駆けてくる。襲撃の現場に居合わせたのは初めてだった。
「マット!!」
しかし怯んでいるわけにはいかない。烟った先頭にマットがいることを確認して、俺は大声で名を呼んだ。脇道に逸れようとしている一群を追って、馬を馴らす。
「マット、傭兵が取り囲んでる!」
併走して近寄りながら、声を張り上げる。マットの側で駆っていたゲイルとジョーがこちらに気付いて少し後退し、マットの隣りへ押し込んでくれる。
「お前なんで来た」
マットもがなり声を上げる。取り敢えずまだ捕縛されていなかったことに安心する。
「船着場までの道に警察と傭兵が待ち伏せしてる」
マットは前を見たまま舌打ちをしたが、馬の速度は落とさない。
「ここまで下っちまったら、もう引き戻せねえ。相手の数は分かるか」
「そこまでは……」
「ゲイル、一発鳴らせ。残ってる奴らに応援を頼むんだ」
ぼろ布のスカーフを巻いたゲイルが傍らで頷き、銃を空に向けて撃つ。と、馬が駆ける速度で後ろに流れていっているはずの木々が、奇妙に歪んだ気がした。緊迫が冷たい針のように肌を撫ぜて、ぞわりと怖気が立つ。狙われている、-聴覚が銃声と理解する前に、すぐ後ろを駆けていたジョーの馬が、脚から血飛沫を上げてよろけた。下敷きになる寸前に飛び降り、後続に踏み潰されないように、薮の方へ身体を転がす。
「ジョー! ジェシカ……」
「阿呆、止まるな!!」
はすっぱで雀斑の残るジョーは、レンジャーの中でも若く陽気で器用なのだが、酒が入ると泣き上戸になるのが玉に傷だ。愛馬をジェシカと名付けていて、こちらもかなりのお転婆である。馴染みの一人と一頭が土埃の向こうに紛れてしまうのに気を取られそうになった俺に、マットの怒声が飛んだ。
「あいつは運がいい、自分をどうにかしろ!」
蹄の脇を銃弾が掠っていく。前傾姿勢で固く握った手綱に冷たい汗がじっとりと浮いている。八方の山道から官服と傭兵たちが駆け出してくるのが見えた。
「川に追い込むつもりだな」
マットが呻く。ばたばたと風に煽られる木々の間から、テマ川が見えてきた。滔々と流れる川面は、砂鉄を塗したように黒く陽光を弾いて輝いている。マットたちは川に並走して後続を振り払おうとするが、すぐに荷馬車の一群に道を塞がれることになった。今回の強奪の相手だが、今は構っていられない。
「貨車を盾にしろ、撃ってくるぞ」
三々五々逃げ出した御者たちに代わり、レンジャーたちが荷馬車の影に滑り込むと同時に、銃撃が始まった。こちらもそれなりの武装をしているのだが、敵軍はどんどん数を増していく。俺は蒼くなって、マットの側に縮こまっているしかできない。情けなくも、腰が抜けて動けないのだ。マットの般若のような瞳がこちらを
「泳げ、それがお前の武器だろう」
怒鳴るが早いが馬車の影から川原に蹴り出された。ゲイルが援護射撃をしてくれる下を這いつくばって何とか水辺に辿り着く。
「川を渡れ、生き延びろ!」
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