第7話 ブッシュ・レンジャー④

 馬に乗るようになったのは、こちらへ来てからだ。幸いにしてミスターウィリアムズの馬は人懐っこく大人しい。慣れるまでは横っ腹から太腿が痛くなって仕方なかった。しかし今はシノゴノ言っている場合ではない。マットたちの集落の位置を正確に知っている訳ではない。いつもミスターが送ってくれているからだ。信用されていないのだろう、それは構わないし、マットたちは家族を守らなくてはならないのだから当然だと思う。テマ川の船着場は地図を見れば場所が分かる。しかし、船着場で合流を待つのでは間に合わない。ローセスタン市街を外れてテマ川へ向かって降りていく。土塊つちくれの多い山肌の低木の間を縫い、下草を分けて転がってくるような小さな影が見えた。

「マイク!」

 馬を寄せていくと、小さな影が大きな目を見開いて、息を切らしたまま振り向いた。マットの長男、マイクだ。

「サク、兵がいる」

 羊を追って草場を渡り歩いているマイクだから、傭兵たちを見つけられたのだろう。

「うん、マットたちどこにいるか知ってる?」

「ロイラの方から迂回して、もうすぐブラックウォールに着くはずだ。サク、オレも連れてって」

 手綱を掴んで離そうとしないマイクに、俺は首を振った。

「マイク、マットもサリーも君をブッシュ・レンジャーにするつもりはないって言っていた。巻き込まれてはいけない」

 本当は学校に行かせてやりたい。技術を身につけて、暴力に頼らなくても一人で生きていけるようになって欲しい。ブッシュ・レンジャーの親たちは皆そう思っている。親がブッシュ・レンジャーであったがために、他の子どもたちから蔑まれ、警察に目を付けられ、卑屈に生きていかねばならないような苦しみに囚われてほしくない。

「けど、父さんが」

「マットには俺が知らせる。マイクはミスターウィリアムズに知らせてくれ」

 あぶみの上から汗で湿った癖っ毛を撫ぜてやり、馬首を返す。マイクが指差した、北東に伸びる山道を駆け上る。煽られた木々の枝葉がばちばちと鳴り、鳥がけたたましく騒ぎ立てる。しばらく行くと、多数のひづめの音が林の向こうから湧き上がってきた。

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