第6話 ブッシュ・レンジャー③
夕日の中、林の道をミスターウィリアムズの馬を引いて帰る。俺はかねてより尋ねてみたかったことを口にした。
「ミスターは、どうしてマットたちと親交があるんですか」
熟練の仕立て屋で敬虔な新教徒、街の住民たちからの信頼も厚く、子どもたちの先生代わりであるミスターウィリアムズが、鷹揚であるが荒くれ者の多いブッシュ・レンジャーたちに、公安から隠れていろいろと便宜を図ってやっているのは、どういう経緯からなのだろうか。黄昏の柔らかな光を受けて、馬の背に揺られながら、ミスターウィリアムズはいつもの人好きのする微笑みを零した。
「私こそ前科者だからね。“あちら”の事情はよく知っているつもりだ」
驚いて鞍の上を仰ぎ、手綱を取り落としそうになる。穏やかさの鎧を纏っているようなミスターウィリアムズに前科が有るなど、誰が想像できようか。俺の様子を見て、ミスターは笑い皺を深めた。
「
現代では、組合への加入は労働者の権利だ。しかしこの時代この国では、政治犯罪なのである。
「21年の刑期を宣告されてこの地に送られたが、3年で恩赦になった。けれど私は、この土地の人々の役に立つことに決めたのだ。この土地に来ることになった、全ての人々のね」
低く、晩鐘のようによく響く声を聞きながら、俺はミスターと一緒に家路を歩んでいることが、なんとも奇跡的なような気がしたのだった。
風の強い濁り空の午後だった。店の勝手口を開けて、預かっている衣服や仕入れ布を整理していた俺は、軽い足音がこちらへ向かってくるのを聞いた。
「サク! ああ、よかった」
洗濯婦のなかでも一番若いあの少女が、髪を乱し息せきって駆けてくる。俺の姿を視界に認めると、腕に飛び込んできた。
「マシューさんたちに伝えて、地主たちは傭兵を雇って、丘陵の影に潜ませている」
何のことだか分からない。落ち着くように肩をさすってやり、腰を屈めて視線を合わせると、上気した頬が一層染まった。
マットたちは、地主たちが穀物と羊毛を汽船に積む前に強奪する計画であるらしい。だが地主たちの方も、今度こそブッシュ・レンジャーたちを一網打尽にしてやろうと、街道からテマ川の船着場に沿って丘陵の後背に傭兵たちを配備した。地主の家で下働きをしている少女は、主人と公安のお偉方が話しているのを耳にして、知らせに来てくれたのだった。ミスターウィリアムズは外出中だ。少女に礼を言い、俺は馬小屋へ駆け出した。
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