元カノそっくりさんが部屋に

「お邪魔しまぁーす」

「あ、ごめん。本ばっかり散らばってて片付けもできてないけど……」

「うんん。全然奇麗だよ!突然本見たいなんか言ってごめんね」

「いえいえ」


 夕食を食べて少し落ち着いた頃。僕は本が散乱し、特に何もない部屋に美雨さんを招き入れた。この部屋に女性を招くのは元カノ以来なかったが、まさかこの部屋に元カノの実の妹が入るとは思わなかった。なんであんな女と付き合っていたのかと今でも後悔している。


 ――僕と元カノこと柚木由芽ゆずきゆめが出会ったのは今から一年と少し前の昼下がりの学校の廊下でのこと。


 中学三年生になったばかりの僕は友達と同じクラスになれて浮かれ、廊下をスキップしていた。すると右の通路から突然女の子が飛び出してきて避ける間もなく僕はその子に打つかった。とっさに僕は謝りその子も謝り。その子が持っていて落ちてしまった筆記用具や持ち物を二人で拾っていると、その中に僕が一番好きなミステリー小説が混じっていた。これが彼女と僕が避けてくても避けられなかった運命と後悔の始まりである。


 僕はこれをきっかけに柚木由芽という女性に興味を持ち始め、放課後は一緒に書店に行ったりカフェに行ったりと充実した青春をおくっていた。

 だがそれも、今となっては後悔であり黒歴史でしかない。


 そして出会ってからちょうど一ヶ月の休日。僕は一緒にショッピングに行ったり、図書館に行ったり。その帰り道に僕は夕焼けの奇麗なレインボーブリッジが見える場所で由芽に告白された。もちろん当時の僕は喜んで返事し、僕達の恋人としての交際が始まった。それからはお家デートもしたし、おしゃれなカフェにも二人で行ったし、外食も多くなった。度々喧嘩も倦怠期もあったがなんとか乗り越えお互いに理解が深まっていった。その時の僕は由芽への独占欲が強く大好きだったと思う。


 だがしかし、卒業間近になったある日。

 僕は提出期限が遅れた課題を社会準備室の先生がいるところに届けに行った時、自販機の横のベンチに知らない男とニコニコ笑いながら話をする由芽の姿が見えた。


『由芽、今日の放課後空いてる? よかったら会えないかな?』

『ごめん、今日部活があって会えない。ごめん』


 ――と断られてていたはずだったのに。彼女は部活ではなく、僕に嘘をついて他の男と浮気していたのだ。その時の僕は辛さの反面苛立ちを感じた。後から彼女に問いただすが『違う。あれは部活の先輩で、仲良くなたから話してただけだよ』と言う。当時の僕は、それが彼女の言い訳だとしか思えなかった。今思えばそれは僕の勘違いだったかもしれないし、勝手に浮気だと傷つけて聞く耳を持たなかった僕が原因だったと少し思うことがある。だけど当時の僕は自分の大好きな、自分だけの彼女が自分よりも顔の整った男子と楽しそうに会話する姿が許せなかった。


 そんなわけで話を戻すが僕は由芽の実の妹である美雨さんへの接し方にまだ慣れていない。美雨さんは全く悪くないのだが、美雨さんの顔や仕草を見ると由芽のことを思い出して少しイラッとしたり、辛くなったり。それともう一つ寂しくなったり。

 だけどそんなことはずっと言ってられない。だって今は美雨さんのお兄ちゃんだから。僕がもっとしっかりしないと……。


「おお!! これってラプラスの魔法だよね! 私この小説は全巻持ってるよ!」

「へぇー! それ知ってる人は今まで出会ったことないよ。結構、達人ですな」

「第5巻は犯人が白鳥ケンゴロウで……」

「ケンゴロウ!? まだ5巻読んでないからネタバレはダメ!!!!」

「あ!! ごめん。ゆ、裕理くんと本のお話してるとすごく楽しいなぁ」


 少し恥ずかしげに顔を赤らめて言う美雨は一瞬見惚れてそうになるくらい可愛かった。それと初めて名前で呼ばれたものだからすごく嬉しかった。


「僕も美雨さんと話してるとすごく楽しいよ」

「ありがとう……」


 会話が自然と終わったところで一階から玄関の開く音がし、誰かが帰ってきたことを認識したので降りることにした。


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