手始めに
「そうと決まれば、何処に行くか決めなきゃな!」
ジャケットとスマホ、大事な5万円を入れた財布を持ち、駅に向かう。通信回線の存在しない我が家では、情報収集も儘ならない。駅でWi-Fiを借りる必要がある。
今年の梅雨明けは早かったのか、外は気持ちの良い晴れ空が広がっていた。中天に差し掛かった太陽は、地上の我々に力強い陽射しを浴びせる。
駅までの道は、日光の照り返しからかそれとも別の要因によるものか、光輝いているようにすら感じられた。
通勤ラッシュが過ぎて閑散とした平日昼前の駅は、陽射しを遮って空調が回っている分外よりも随分と涼しかった。ジャケットを羽織り、一先ず併設されたコンビニへ。
コンビニの中は駅構内に輪をかけて涼しく、肌寒く感じられる程だ。
5本入りのチョコスティックパンと烏龍茶、馴染みのセットを持ち、レジへ向かう。惣菜パンの中でもつまみやすく、それでいて安いチョコスティックパンは、作業しながら食事を摂る時にはよくお世話になったものだ。
会計待ちの列に並んでいると、レジ横のホットスナックが目に入る。スーパーの惣菜なんかと比べると割高に感じられ、最近はめっきり食べていない。……だが、今の私には5万円がある。買っても良いんじゃないか……?
5本入りのチョコスティックパン、烏龍茶にからあげ棒を持ってコンビニを出る。欲しい物を我慢せず買った時のこの感覚は久しぶりだ。早くも心が踊っている。
改札の前にあるベンチの隅に座り、からあげ棒片手に何処へ行くか考え始める。
テーマパークは一つの選択肢になるだろう。ただ、熱烈に推してるキャラクターやアトラクションは無く、一人で行って楽しめるとは思えない。
パチスロ・競馬・競艇他、公営賭博もありだろうか? もしかしたら所持金を増やせるかも知れないというのは魅力だ。まあ、これまで賭け事で収支プラスにできた試しがないが。
……やはり、旅をしたい。北海道や沖縄とまで行かずとも、どこか遠くへ行って、知らない風景、知らない人々の営みを見たい。
そういえば東北で、友人の一人が親の跡目を継いで農業をやっている筈だ。確か宮城だったかな?
卒業して以来、LINEで年に数回近況報告するくらいしかやり取りしかできていない。久しぶりに会いに行こうか。
『町田、今週中どこかで会えるか? 東北行くから、久しぶりに飯でも行こうぜ』
東北で就農した友人、町田にLINEでメッセージを送る。昼頃には返信があるだろう。
旅先で何を食べるかも重要だろう。チョコスティックパンを食べながら考える。
東北方面に行くなら、やっぱり仙台の牛タンを食べてみたいな。海沿いに行けば海産物も美味しそうだ。
東北に行くとして、どこまで行こうか。町田に会うだけであれば宮城まで行けば十分だが、それだけというのも勿体ない気がする。予算はともかく、時間はそれなりにあるんだ。
……津軽海峡、見に行こうか。あまり行きたい観光地も思い付かない。それなら、本州の端でも見に行った方が楽しめるかもしれない。
気付けばコンビニで買った食糧はすっかり無くなっていた。大まかな方針も決まったことだし、早速準備して出発しよう!
◇◆◇
家に戻り出発の準備を済ませ、床に散らばった色とりどりの書類を尻目に家を出る。駅に戻る頃には昼過ぎになっていた。
高速バスの発着場がある新宿まで鉄道で移動する。今回は交通費の節約とゆったりとした旅を実現する為に、高速バスを利用して移動する予定だ。
今日は福島あたりまで行って、市内散策した後適当な所で一泊しよう。ネカフェを使えたら最高なのだが、どこにあるのだろうか。
『ご利用ありがとうございました』
自動券売機があると便利だが、どうにも味気ないと思うのは爺臭いだろうか? ともあれ、福島行きの乗車券を購入。平日の昼間はやはり利用者が少ないと見えて、15分後に発車するバスの乗車券を購入できた。
停留中のバスに乗り込み一息つくと、どこのWi-Fiを拾ったのか、スマホの振動が通知を伝える。
開けば、丁度町田からの返信が来ていた。
『おお、こっち来るのか。明日、仙台でどうだ?』
好都合なことに、明日仙台で会えるようだ。福島から仙台ならば余裕を持って移動できるだろうし、旅程の半ばで引き返す必要がないのは有難い。
『OK。何時頃、どの辺に行けばいい?』
『午後5時頃、仙台駅の西口あたりでどうだ?』
『了解! 食事は牛タンを希望する!』
時刻や場所など詳細を詰めると、最後に町田から、了承を伝えるやや懐かしいアニメキャラのスタンプが送られてくる。大学生の頃、友人達と上映会なんかもした思い出深いアニメだ。
記憶の中で光輝く大学時代、そのエピソードの1つが喚起され、私は思わず微笑んでいた。
町田との再開が楽しみだ。
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