怒れるモモ
沈黙のままフリーズしていた家臣たちであるが、吉保がようやく口を開いた。
「う、上さま、ど、どうなされたのですか。たかが子犬ごときに。」
「い、犬ごときですって?こんなにかわいい子犬を吹っ飛ばしておいて!」
モモは吉保に言い返すと、今度は大八車を引いていた町人を睨みつける。
「ちょっと、あなた!気をつけなさい!大けがするかもしれなかったのよ!謝って!」
「も、申し訳ございませんでした。」
町人は、おでこを地面スレスレまで下げてその場で土下座した。切腹させられてしまうのではないかと慄いている町人を見て、モモは冷静さを取り戻して、フォローする。
「いい、これからは、気をつけるようにね。」
モモの腕の中に抱かれていた子犬は落ち着きを取り戻し、ペロペロと手を舐めている。横を見ると、同じ茶色の犬が心配そうにモモに寄ってきた。母親だろう。母親犬も子犬を心配そうにペロペロ舐めている。モモは子犬をそっと地面に戻し、母親犬に子犬を返した。ぶつかった時に怪我をしたのか、右の後脚を引きずっている。モモはどうしたものかと悩んだが、とりあえず医者に治療をしてもらおうと思った。子犬を連れて行かなければならないので、モモは母親犬の頭を撫でながら安心させるように言った。
「いい、この子は私が責任もってちゃんと怪我を診てもらうから。少しの間、離れ離れになるけど、心配しないでね。」
モモの優しい言葉に安心し、母親犬は大事な子犬を託すように、モモの手を一生懸命に舐めている。
「ヨシヤス、この子を診てくれる者はいる?」
「はっ。お城に戻られましたら、とりあえず医師を呼んで診てもらいましょう。」
「じゃ、ヨシヤス、お願い。」
「はは、御意に。」
(やはり、上さまは心がお優しいお方だ。)
当時としては一種異様な光景に町人がいつの間にか集まっている。どうやら、将軍のお忍びに気づき始めたらしい。
「みなさん!いいですか!これからは、絶対にワンちゃんを大切にしてください。いや、しなさい!」
幼き頃の悲しい記憶がモモの感情を駆り立て、思うがままに言葉を叫んだのであった。 町人たちは将軍のあまりの剣幕に圧倒されている。次の瞬間、モモは平常心に戻り、見渡す限りにひれ伏している人々を見て、急に恥ずかしくなった。
(しまった、何でこんなこと叫んでしまったのだろう。とりあず、城に戻らなきゃ。)
町人たちは口々に感嘆の声をあげていた。
「いやぁ、あれぞ、将軍さまだね。」
「犬の命も大事にする。きっと、俺たち町人も大切にしてくれるに違えねえ。将軍は自分のことだけしか考えてねえかと思ってたぜ。」
「てやんでぃ、あたぼうよ。今度の将軍さまは、今まとは違えんだよ。」
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