走馬灯のように

あれはモモが小学生に上がる前の話だ。モモは母親と一緒にマルの散歩に出かけていた。マルはモモよりちょっと年上の5歳の雄のゴールデン・レトリバーだ。明るいクリーム色の毛並みをして、性格は人懐っこく、モモが赤ちゃんの頃から、お世話までしてくれる。

「あっ、チョウチョ!」

モモは白いモンシロチョウを夢中で追いかけた。

「モモ、モモ、走っちゃだめよ。」

ママが注意する声は、モンシロチョウに夢中なモモの耳には入って来なかった。

「モモっ、だめっ、危ないっ!」

前から黒い車が、細い路地を猛スピードで走り、モモの方に迫ってきた。どうやら、モモには気付かず、スピードを緩める気配はなかった。次の瞬間、マルがリードをママの右手から振り切り、モモに体当たりしてきた。モモは反対側に飛ばされ、気を失った。

「・・・、・モ、モモ、モモ。」

遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえた。

「モモ、モモ。」

(何か、頭がズキズキする。)

どうやらベッドの上で寝ているみたいだ。

「モモ、モモ。」

(私を呼ぶ声がする。その声はお母さん?)

「う、うーん。」

「モモ、モモ、気がついた?大丈夫?痛くない?」

重たい瞼を一生懸命に開けると、白い天井が揺れてぼやけて見えた。

「モモ、モモ。」

視点が少しずつ合ってきて、声のする方にゆっくり目を向けると、ママが泣きながら私の顔を見つめていた。

「良かった!モモ、気がついたのね!」

私は痛みに耐えながら、声を絞り出した。

「マ、ママ。ここはどこ?何で頭が痛いの?」

「モモ。覚えていないのね。モモは道で車に轢かれそうになったの。それをね、マルが助けてくれたの。その弾みで、あなたは壁にぶつかって気を失って。それで救急車で、ここの病院に運ばれたのよ。」

「えっ、そうなんだ、、、。で、マルは?マルはどこ?マルは元気なの?」

ママは首をゆっくり、横に振った。

「マルは?マルは?」

私は必死に問いかけた。

「いい、モモ。良く聞いて。マルはね、天国に行ったの。あなたを守ってくれたから、神様が天国にマルを連れていってくれたのよ。」

ママは悲しみに耐えながらも、私が傷つかないように微笑みながら言った。

「えっ、やだ!そんなのやだ!マルといたい!神様、マルを返して!」

私はひたすら泣きじゃくった。マルがいなくなった現実を受け入れられなかったのだ。

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