隆光との初対面
モモは吉保を従えて、城中の廊下を隆光の待つ部屋へとゆっくりと向かう。普段は短めのスカートで過ごしているJKにとって、着物は重く、歩きにくい。歩幅に気を付けないとつまずいて転んでしまいそうだ。根本的な問題として、モモの頭の中には江戸城の見取り図はない。どこに進めばいいかが分からないの問題だ。ちらちらと振り返り、二、三歩後ろを歩く吉保の様子をモモは確認する。
「上さま、こちらでお待ちでございます。」
タイミングよく吉保が声を掛ける。モモはドキドキしながら、上座へ向かう。両脇には頭を畳スレスレまで下げた家臣たちがいる。その姿を見ると、緊張を忘れ、何だか可笑しくなる。上座近くの見事に禿げ上がった、いや剃り込まれた頭に目を奪われた。部屋に差し込む太陽の光が、まばゆいばかりにその頭で反射している。この人が、リュウコウに違いないとモモは確信した。ゆっくり、モモは上座に座った。しばしの沈黙の時間が流れた。
(えっ、なになに?)
モモはその沈黙に耐えられず、部屋を見回す。吉保が軽くコホンと軽く咳払いをした。
(そうか。)
「お、面をあげぃ。」
ようやく、皆の顔があがる。
「リュウコウ、待たせたな。」
「上さま、とんでもございません。私も只今参上したところでございます。」
僧の隆光は、綱吉よりも歳は三つ下であるが、結構偉い僧である。隆光は真言宗の一派、新義真言宗の僧で、綱吉の生母である桂昌院に重用され、今は知足院の住職となっている。
「ときにリュウコウ。何か急用か?」
「はっ。先ほど、桂昌院さまに呼ばれまして、、、」
「ケイショウインさま?それは誰じゃ?」
吉保と隆光は見つめ合い、そして苦虫をつぶしたような顔でモモを見つめる。そしてまたかという呆れた感じで吉保が口を開く。
「う、上さま。いい加減にお戯れはお止めくだされ。桂昌院さま相手にお戯れなさりますとは。いかに上さまであっても、ご母堂さまでございますぞ。」
(ケイショウインは要するにお母さんか。)
「すまん、すまん、ヨシヤス。冗談じゃ。それで、ヨシヤス。ママ、いやケイショウインさまは何と?」
「はっ。桂昌院さまが御台所さまと、ちょいといさかいがございまして。」
(オンダイドコロ?誰だぁ、それ。)
とりあえず、ここでまた質問が出来るような場の空気ではなかったので話を流す。
「それでどうした?」
「はっ。御台所さまが城を出ていかれてしまいました。」
「えっ、家出したの?」
「はっ。いつもは仲がよろしいのですが、今回ばかりは。まぁ、よくあるお姑さんとお嫁さんの諍い事だとは察するのですが。」
(嫁姑?そうか、御台所は嫁。えっ、つまり私の奥さん?か弱き乙女である女子高生の自分が女性と結婚しているの?)
モモは現実を受け入れられず、頭がクラクラして卒倒しそうになる。
「それで桂昌院さまが御台所さまを探してきて欲しいとおっしゃっております。」
「そ、そうか。分かった。では、参ろうか。」
モモはドキドキした。家臣はともかく、実の母親にはバレないだろうかという不安でいっぱいだ。桂昌院の部屋に向かう道のりの間、モモの心臓は高鳴り、今にも口から飛び出しそうになっている。そしていよいよ桂昌院の部屋の前に着き、ひざまずいた二人の家臣がふすまを厳かに左右両側に開く。
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