第5章

 二階建ての小さな校舎から、校庭を挟んで鎮座する体育館もまた小さかった。

 避難したアツヒメチームが寝床に選んだ場所だ。

 板の床に雑魚寝で転がっただけでも身体は休まるものだ。夕刻はもう先ほど過ぎ、静かな夜闇が体育館を包んでいた。小さな寝息が聞こえる。少なからぬ戦士が眠っているのだ。

 マサムネは彼女たちを起こさぬよう、静かに外へと出た。

 校庭で周りを見回していると、後ろからアツヒメに声を掛けられた。

「どこへ行く気だ。皆同席を許したのだから、いても良いんだぞ」

「トラ男がいないんだ」

 ここに入った時点で姿を消している。

 レイローズとアウラも出てきた。

「彼は――超人――の生き残りですよね」

 アウラが気遣うように言った。異形の戦士は、英雄であると同時に脅威であった。人目を避ける癖がついているのかもしれない――そんな意味が言葉に詰まっている。

「超人なら信用できるのでは?」

「あんまり心を許さないほうがいいぞ」

 レイローズにマサムネは声を低くして答えた。

「何故だ?」

 アツヒメが代表して訊いた。

「だって顔がトラだぞ」

 これには皆が苦笑していた。

 マサムネはお構い無しで、手を周囲に向けた。

「それにここもおかしいだろ」

「うちも少し思ってた」

「なんでこの小学校はこんなに綺麗なのに誰もいない?」

 土像兵が徘徊している様子もない。ならばもっと人がいていいはず。

「校舎探検といくか」

 アツヒメはウキウキした声で言った。

「あたしも――」

 ロキシーが出てきた。

 マサムネとしてはもう少し休んでいればいいのにと思ったが、戦士が自分で大丈夫だというのであれば、他人が口を挟めるものではないからだ。

 アツヒメは、レイローズを体育館の護衛として残し、二人一組で、二手に別れて調査することにした。

 マサムネはもちろんロキシーを選ぶが、彼女に拒否され、アツヒメとペアになった。

「あからさまにがっかりするなよ。うちがハズレみたいじゃないか」

 アツヒメは憤りながら、肩を落とすマサムネと共に校庭を縦断した。

 校舎は二階建てなので、南と北の窓から侵入し、ロキシーたちは一階、マサムネたちは二階を調査し、そのまま互いが壊した窓から出て合流する計画とした。

 中央玄関から入るとすぐに階段がある。両端にも階段があるシンメトリー構造で、一、二、三年生が下、後半の四、五、六年生が上に分けられている。

 一学年二クラスで、特別教室を含めて八部屋ずつあるようだ。

 アツヒメを肩車で先に入れ、手を借りてマサムネも潜入。真っ直ぐの廊下の向こうに、二つの影が見えた。ロキシーとアウラだ。彼女たちが動き出したのを確認して、マサムネとアツヒメはすぐ側の階段から二階へ進んだ。

 まず一番手前の教室へ。『六年二組』とプラスチック板に掲示されている。がらんとした部屋は闇に沈み、ひんやりとしていた。

「さすがに机とか椅子はないな」

 学校として機能はしていないので当たり前といえば当たり前だ。

「しかし使われていないにしては――」

「綺麗過ぎる」

 マサムネとアツヒメは中を歩き、壁などを触りながら確かめてみた。

 窓の外は中庭だ。フェンスと樹木に周囲は覆われ、隣接する民家は見えない。

 アツヒメがマサムネを呼んだ。

「まだ校舎が続いてるぞ」

 彼女が指差すほうを覗きこむと、中央玄関から渡り廊下で繋がる建物の影に気付いた。

 図書室や音楽室など大きな部屋を必要とする特別教室があるのだろうと想像できた。

 校庭側からでは分からなかったが、凸型をしているらしい。

「あの建物の向こう側にも中庭があるような気がする」

 設計思想からいえば、アツヒメの考え方が正しい。むしろマサムネはそうあって欲しいと考えていた。

 次の教室へ移動する。調査しながら、マサムネはアツヒメに質問を投げかけた。

「アツヒメさんは、ロキシーが頑なに仲間を作らない理由を知ってるか?」

「もちろん」

「やはり直接訊くしかないのか」

「だから知ってるって」

 マサムネは調べる手を止め、アツヒメの真意を測ろうと彼女を見た。

「冗談? それともジョーク」

「どちらも同じ意味じゃないか」

 次の教室は視聴覚室だった。

「雇う相手くらい調べるさ」

「いや。無理しないでも……」

「うちをそんな残念な女に見ていたのか」

「え……と……」

 アツヒメは咳払い一つで、話し始めた。

「意外と有名な話だからな」

 ロキシーが戦士になったばかりの頃――彼女はモーレスとホルスという姉妹戦士と出会う。特にモーレスは、ロキシーをもう一人の妹のように優しく接し、自分のチームに入れた。

 一緒にたくさんのミッションをこなした。しかし、不運なことに作戦中に《ドグウ》と遭遇してしまったのだ。

 初めての巨大な土像兵に浮き足立ち、想像を超えた攻撃力にチームは次々と沈黙していく。そんな中で、ロキシーはモーレスを含む数人を守り、良くやっていた。

「不運が重なったのだろうな」

 アツヒメは慮るような声色で言った。

 圧倒的に不利な状況なら『見捨てて撤退」のセオリーを無視し、偶然近くにいたホルスのチームが救助に来た。熱光線の飛び交う中、駆けてくる妹を遠ざけようと、モーレスはロキシーから離れてしまう。そうなるとチーム全員が飛び出てしまう。

「結果――生き残ったのはロクサリーヌ殿だけだった」

 さすがに《ドグウ》も長時間の戦闘はできなかったようで、両腕の発射口を焼き切り、撤退していった。バラバラに千切れ、焼け焦げた仲間の死体の中で、ロキシーは耐え切った。

 戦士なのだ。死とは常に背中合わせでいる覚悟はある。仲間の死も見てきた。

 しかし二チームが全滅。しかも、親しい者を二人も同時に失った経験は初めてだった。

「涙も出なかったらしい」

「人はモロ過ぎる……か」

 暗い廊下で二人分の足音がキュッキュ、キュッキュと鳴る。

「自分が疫病神だとロキシーが思っているのもそのせいか?」

「いや。まだあるんだ」

 全滅は誰にも非はない。むしろ生き残ったロキシーの力は認められた。その防御力を買われ、あるチームに独占契約を申し込まれた。

 疲弊していたロキシーは、心の拠り所を仲間に求め、その申し出を受けた。

 初めはちやほやされていた。

「ミッションは簡単にクリアでき、生還率も高くなったのだから」

 ところがである。優秀さが認められれば、それだけ依頼も増える。同時に依頼の難易度も上がる。より激しい戦場が彼らを待っていたのだ。息も絶え絶えで生還するミッションが続き、精神は疲弊していく。

 結果、その責任の所在を彼らはロキシーへ向けた。

「お荷物になってきた彼女を――作戦遂行中に置き去りにすることで縁を切ったのだ」

 マサムネは言葉にならず、ただ眉を顰めた。

 一人戻ったロキシーは契約を解除されていたことを知る。

「自分が疫病神だと思い込んでしまったんだ」

「でも違うんだろ」

 アツヒメは頷いた。

「皮肉なもので、契約を解除した次のミッションで、彼らは全滅している」

 ロキシーが守っていたのだ。それを忘れた結果の全滅を、自業自得と片付けるのも間抜けすぎた。

「それ以来、ロクサリーヌ殿は契約は短期に、親しい間柄を避けるようになったのだ」

「言ってもダメなんだな」

「うちも彼女の能力は買ってる。ずっといて欲しいくらいだ。でも説得はできてない」

 アツヒメがマサムネを横目で見た。凛々しい目に迷いはない。

「マサムネがやるんだよ」

「説得はできないんだろ」

「身体で示すしかないだろうな」

 アツヒメの言葉は正論であった。方法は分からないが、手探りでも見つけ出すしかないと、マサムネはそう考えた。

 二階に奥の建物への入口はなかったのでそのまま進んだ。二学年分の教室を一通り見て、ロキシーたちが空けた窓から外へ出た。

 校庭で待っていると、ロキシーたちが合流してきた。

「アツヒメさん、奥の校舎への通路は二階にありましたか?」

「一階だと思ってた」

「下になかった」

 アツヒメは奥側の建物を調査するため、今度は四人で正面玄関から入ることにした。

「まず入口探しか」

 昇降口に差し掛かった時、向かってくる影を見つけた。かなり速い。

 トラ男だ。一瞬ですれ違う。

「後は任せた」

 にやけた声が耳に残った。彼の手に十字架らしきものが握られているのも見えた。

 既にいない背中を顔で追うと、ロキシーも同じほうを向いていた。

「今のは――ネコ……」

 ロキシーにも見えていたようだ。

「どうした?」

 アツヒメがマサムネたちの様子に気付いて訊いてきた。

「あいつ、何かしでかしたな……」

 マサムネの言葉を待っていたかのように校庭が胎動した。

 地面の一部が開いて、土像兵がせり出てきた。ゆっくりと頭部から全体まで姿を見せた。

 四足で、鼻先が長く、たてがみと尻尾がある。

 馬の形をした土像兵であった。

「こんな土像兵、見たことありませんよ」

 レイローズが音に気付いて合流してきた。

 《ウマ》はマサムネたちには目もくれず、浮遊すると動き出した。

「トラ男を追ってるのか」

「このままやり過ごそう――」

 言ったレイローズが息を呑んだ。

 ロキシーが《ウマ》の前へ出て行ったのだ。盾をかざし、正面からぶつかっていった。

 マサムネがロキシーの名前を呼んだ。

 体重差で押されていく。つぶらな瞳を持つキュートな見た目に反し、力はあるようだ。

「この先、民家。危険!」

 確かに進行方向には眠りについた家々が並んでいる。

「ロキシーがやるなら私も出るしかないだろう」

「そうだな。エリアの皆を守らねば」

 マサムネたちの同時攻撃が《ウマ》を怯ませ、ロキシーが押し返した。

 《ウマ》がマサムネたちから距離を取った所で、浮遊したまま止まった。どうやらトラ男を追いかけるのは止めたようだ。

 体育館で休んでいた女戦士たちが外へ出てきた。

 《武人ハニワ》より大きく、《ドグウ》よりは小さい。だが四つ足の分、体積的な圧力はあるが、愚鈍そうな印象から強敵には見えないのだ。

 校庭の中央に浮かぶ《ウマ》をアツヒメチームが包囲した。

「近くに別働チームが二ついます。ネーヴィスは砧浄水場へ、ファビーナは大蔵の卸売市場へ。呼んできてください」

「何を言ってるんですか」

「皆でかかれば勝てます」

 死と隣り合わせて数時間。また戦おうと思えるのは戦士として評価できる。

 しかし、一太刀で相手の力量を見極められるのが、一流の戦士であった。

「僕たちは本気で攻撃しました」

「傷一つつかないんだ……」

 アウラとレイローズの言葉で、女戦士たちがやっと理解した。その攻撃の中には、勇者であるアツヒメの大剣も含まれるのだ。

「悪い予感しかしねえ」

 マサムネの言葉を待っていたのか、《ウマ》の目が赤く光った。長細い顔の装甲部分が動いた。目から上部はせりあがり、その下部分は後頭部を基点に左右へ開くと、もう一つの顔が現れた。馬の骨を模した姿には土像兵ならぬ凶悪な印象があった。

 『椅子取りゲーム』のために存在した《武人ハニワ》。土像兵には何かしらの役目を負う者がいる。そういう意味でこの《ウマ》は、敵を排除する命令を帯びているのかもしれない。

 耳の位置にあった二本の角は、伸縮自在の触手で宙を蠢いている。左右へ開いた顔部分から、刃のついたアームが力強い動きで空を切っている。そして、尻尾が後部へ倒れ、連動するように筒が背中から起き上がってきた。

 蛇腹ホースのように節で繋がったそれは、恐らくビーム砲だ。完全に攻撃型の土像兵であった。

 変形をする土像兵に度肝を抜かれた女戦士へ、角部分が伸びた。

 マサムネが一瞬でその間に入って、剣で角を弾いた。

 その音に皆が麻痺から回復した。

「行くんだ!」

 アツヒメの号令に、指名された二人が校門へ走り出した。

 その間もアームの刃と角の攻撃が続く。戦士たちは防ぐので精一杯だ。尻尾が動いて熱光線が発せられたが、ロキシーが盾で防いだ。夜の校庭が橙色に染まるほどの攻撃であった。盾から洩れた光の筋は地面を赤く焼いていた。

 まともに当たったら一たまりもない。

「援軍は二十分――いや、十五分で来る。それまで持ちこたえるんだ」

 アツヒメの掲げたミッションは、その攻撃を見た上で簡単に頷けるものではない。皆一様に不安な顔を張り付かせていた。

 しかし――「分かった」「了解」と、マサムネとロキシーが返事をした。

 アツヒメが微笑み、レイローズとアウラも頷いた。

 納得するしないにかかわらず、《ウマ》の攻撃は続く。

 尻尾からの熱線攻撃をロキシーが防ぐ。トリッキーな触手を有する角をマサムネが加速でカバーする。首部分から伸びるメインウエポンの剣を正面でアツヒメが受ける。

 他の者が削るように《ウマ》へ攻撃した。

 非生物である相手はダメージが見えない。持久戦において、敵は自分の中にも存在する。疲労は集中力を切らせてしまう。油断から《ウマ》の脚にぶつかる者。急な後退で意表を衝かれ弾かれる者。マサムネたちの反撃封じの隙間を縫った角や刃をかわせない者――時間をかけると人間は体力を失う。

 傷つきつつも犠牲者が出ていないのは奇蹟に近い。

 その奇蹟を起こしているのがマサムネだ。

 攻撃を受けて倒れた者へのフォローに回り、《ウマ》の次手の攻撃を防いでいた。その間に女戦士が体勢を立て直すことで何とか持ちこたえていた。

 月明かりが校庭の砂塵を金色に染める。疲弊した空気は、剣戟の音だけを響かせていた。

 マサムネは伸びてきた角を弾いただけで片膝をついてしまう。

「さすがに疲れたか、マサムネ」

 アツヒメが声を掛けた。彼女の声もいつもの張りがない。

 マサムネは返答をするために息を整えた。それよりも先に、走り回るロキシーが目に入った。

 彼女も限界に近いはずだ。足が時折もつれている。それでも眉間に皺を寄せ、歯を食いしばっていた。

 チームが自分を残して全滅する――よほど実力の差がなければ起こらない。普通は全員戦死するからこその『全滅』だ。中に親しい人がいた。しかも二人同時に失う苦しみ。それが心に落とす痛み。生き残ったからこそ背負う十字架――そして、能力がある者が抱く重圧を、ロキシーは自らを律し、孤独を選択することで果たしてきたのだ。

「並び立つに値する男とはどういう者か」

 マサムネは小さく呟き、笑う膝を叩いて身体を押し上げるように立ち上がった。

「うちの予測ではあと五分だ。頑張れ!」

 皆を鼓舞しながら大剣をふるうアツヒメの横を通り過ぎ、マサムネは前へ出た。

「どうした、マサムネ?」

 右の視線の奥で、腰を落とすアウラと彼女を庇うように立つレイローズが、やはりマサムネへ視線を向けていた。

「過去の重責や柵を一緒に背負えるわけがない。ましてや痛みを分かち合うなんてできるはずがない」

 皆の目がマサムネへ集中し始めた。中にはロキシーの目線も含まれている

「それでも、これから共に歩むことはできる。過去と同じ過ちや苦しみを負わないように、手を貸すことはできる!」

 ロキシーが怪訝そうな表情を浮かべた。自分のことだと勘付いたようだ。

「私はロキシーといたい!」

「まあ」

 マサムネのストレートな言葉に、アツヒメが場違いにも嬉しそうな声を上げた。

「そのためには彼女以上に強くなければいけない。まず……」

 とマサムネは重心を落とした。

「自分に負けるわけにはいかんのだ!」

 《ウマ》が敵と認めたのか、マサムネへ身体を向けた。

「加速――!」

 蹴り上げた地面にドーナッツ型の土煙が残る。周りにはどう見えていたか。ただ風が《ウマ》を包んだように思えたのではなかろうか。その風がマサムネであった。

 力を使い続けた。通り過ぎざまに斬りつけ、着地と同時にまた《ウマ》へ跳びかかる。

 短めの剣と低い打撃力では、決定的な深手を負わせることはできない。しかし回数が多ければ、それなりにダメージは積み重なる。

 抵抗の意思を見せていた相手の角や刃が、次第に弱々しく動きを止めた。

 五分――つむじ風は吹き続けた。

 アツヒメの横へマサムネは戻ってきた。体勢低く着地したが、足が耐え切れず、止まれずに地面を転がった。

「マサムネ――」

「……後はよろしく」

 マサムネは倒れたままアツヒメに言った。

 ギシギシと唸るように《ウマ》が動き出した。というより、よろけたようだ。

 そのタイミングで、校庭にアツヒメの別働隊が二チーム入ってきた。先導しているのは、伝令に走った二人の女戦士だ。二十人近い女戦士が合流した。彼女たちを中心に、アツヒメは最終決戦に臨んだ。

 尻尾から放たれた熱線をロキシーが盾で受け止めた。

 それが《ウマ》の最後の抵抗であった。

 勢いに乗った攻撃に《ウマ》は身体を崩していった。そして、アツヒメのレジェンダリーウエポン『イザナミ・巌鉄』が、その胴体を切り裂いて二分した。

 動かなくなった土像兵に、勝利を確信し、アツヒメチームが嬉々に湧いた。

 マサムネはその様子を寝転びながら見た。

 歓声を耳にしながら激しく呼吸を繰り返していると、横に気配がした。

 見下ろしてるのはロキシーであった。

「来てくれたのか?」

「部外者だから」

 全員アツヒメの正式メンバーだから一緒には喜べないという意味らしい。

 ロキシーは顔の横にしゃがんだ。

「またムリした」

「だってさ――」

「近くで死なれるのは迷惑」

 マサムネは身体を起こした。

「私は絶対に死なない」

 膝を抱えるようにしゃがむロキシーへ、マサムネは向き直って胡坐をかいた。

「それを証明してみせる」

 ロキシーが目を丸くした。

 何か答えようと、小さな唇が動いた時、アツヒメが歩み寄ってきた。

「二人ともお疲れ様。助かったよ」

「タイミング悪いな、アツヒメさん」

「ん?」

 ロキシーが立ち上がって、アツヒメを待った。

 マサムネはまた大の字に倒れこんだ。

「君たちが粗方削っていてくれたおかげだな」

 ロキシーの正面に立ち、アツヒメはマサムネを見下ろしながら言った。

「君たちの力は、超人や勇者とも違う『何か』かもしれないな」

「何かって何だ?」

「それはともかくだ――」

 アツヒメは唇に指を当てて、『ナイショ』のジェスチャーをした。

「このことは言わないでくれたら助かる。皆の良い自信につながってくれたはずだからな」

 マサムネとロキシーは頷いた。

 総勢五十人近い女性が一堂に会していた。これはアツヒメの人望がなせる業だ

「それだけじゃないんだろうがな」

 アツヒメが言っていた『超人や勇者とも違う力』――これは彼女にもあると思えた。

 ロキシーと会話しているつもりだったが、返事がない。

 いつの間にかロキシーを見失っていた。アツヒメもいない。

 マサムネは立ち上がると、男性一人のマサムネは居心地の悪さから、《ウマ》が出てきた辺りへ向かった。トラ男が何をしたのかも確かめたかった。

 アウラとレイローズがいた。

「マサムネ、これは大発見かもしれないぞ」

「何だったのだ」

「恐らく土像兵の工場だと思います」

「そうか。道理でうちのブロックにはやたら土像兵がいると思ったよ」

 いつの間にかアツヒメがいた。

「制圧する」

 ロキシーもいた。

「そうだな。もう一仕事、手伝ってくれないか」

 アツヒメの目はマサムネも含んでいたが、「もちろん」と返事をしたのは合流したチームのリーダーたちであった。マサムネへの警戒の目を緩めないのは仕方ない。

 部外者なのだから――と思っていたが、それだけではなかった。後から合流した戦士たちにとって、マサムネは寝てただけだから心証を損なっているのだ。

 《ハニワ》が多かったが、幸い工場内に《ウマ》ほどの強敵はいなかった。

 入口のなかった校舎裏の建物は、校庭のその穴から地下で繋がっていた。製造された土像兵が世に放たれるための倉庫だったのだ。

 アツヒメの扇動の元、夜明け前に世田谷区成城地下の土像兵工場を攻め落とすことに成功した。

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