第5話 宇宙交易港に戻ってこよう!
『マスター。マスター』
「ん……」
また少し眠っていたらしい。
操縦室のシートも、なかなかよく眠れる。
『おはようございます、マスター。間もなく目的地に到着します』
「目的地? あー」
少しずつ思い出してきた。
世界樹の種を根付かせ、それから海賊が襲ってきて。
あれから約1期。
予定より早く、そして予定外の荷を引き、私たちは世界樹の種を買った宇宙交易港に戻ってきた。
『入港手続きはすでに実施済みです。間もなく回答があると予測します』
「そっか、ありがとう」
話していると、モニター上に宇宙港のアイコンが表示された。
『船舶情報の照合完了。お帰りなさいマセ。お早いお帰りでスネ』
宇宙港側から、うちのAIよりもっと機械的な合成音声が飛んでくる。
『通行を許可しまスガ、後方のお荷物は通常入口の制限サイズを超過していマス。大型物搬入口へ向かってくだサイ』
「いや、確か港のすぐ隣の宙域で
『承知しまシタ。参加するのであレバ、必要情報の登録をお願いしマス』
「わかった」
船の移動をAIに任せ、私はフリーマーケットの内容を見た。
飛び入り参加オッケー、サイズは宇宙船で
ざっと見たけど、出品には問題ないだろう。おそらく。
「よーし、出品しよう」
『サンプル数が少なく判断根拠に欠けますが、売れる確率は低いと予測します』
「ま、ダメ元さ。最悪、クズ金属として売れば少しはカネになる」
商品概要は入力できた。
あとは品名だけど。
なんて呼べばいいんだろな、あれ。
類似品を参考にするか。
宇宙盆栽で検索すると、そこそこヒットするなぁ。
どれどれ?
<
トネリコ型のオーソドックスな世界樹。葉が多く、素人目にも整った木だと感じる。大きさは中型船ぐらい。
<嵐の後>。
ピラミッド状できれいな形なんだけど、葉が無くて幹と枝だけの木だ。
木の種類は未記入、サイズは小さめ。それでも私の船よりは大きいけど。
<いずれはブラックホールの冬>。
かなり黒く太い木だ。
ところどころに葉をつけた黒い幹は、バネのように渦を巻きながら中心の一点を目指すように伸びている。ブラックホールの重力圏に捕まった物体がとる軌道っぽい。
これを狙って作ったのならすごいな。
全長、およそ500メートル。そのサイズも含めて大迫力の逸品だ。
他にもまあ、いろんなのがある。
名前や木の種類も、形も大きさも全部バラバラで個性的だ。
共通点といえば植物がベースってことぐらいか。
『千差万別ですね』
「だね。ひとつひとつはあんまり参考にならない。けど、一応の方針は見えた」
これはあれだ。そのものを、見たまま、そのまま言葉にすればいいんだ。
そして、言ったもの勝ち。
あれだ。たぶん、美術品とかの名付け方みたいなもんだな。
芸術なんてまるで縁がない人生だけど。
「よし、これで行こう」
『マスター? 本当にこの名称で決定するのですか?』
「ああ。わかりやすいだろ?」
その名は。
<海賊船もブチ抜く一本の竹槍>だ。
「これで出品だ。
『この名称に興味を示す客層が予測できません。マスターの単語選出機能は破損している可能性があります。メンテナンスを提案します』
「お前に言われたくねーよ」
言い合いながら、私はモニターの映像を出品物に切り替えた。
あの小惑星帯からはるばる牽引してきた、偶然の産物。
それはもう、ただ一本の竹だ。
他に言いようがない。
だが全高は2キロメートル超え。
並の宇宙戦艦より長いんじゃないかこれ。
その竹の根元には、オマケのように海賊船とコンテナの残骸がひっついている。
こいつの大元は、海賊の襲撃時に残したコンテナ内の世界樹の種。
私はあの時、種の遺伝子参照先に竹を設定したのだ。
竹の特性は色々あるが、私が注目したのは成長の速さと強さ。
自然の竹でも、家の中まで根を伸ばし下から床を突き破ることがあるらしい。
ナノマシン製の竹なら、種を拾った海賊船の船体にダメージを与え足止めできるかと思ったのだ。
その結果が、あのありさまである。
芽を出した竹の子は一瞬で成長し、海賊船にダメージどころか天井を貫通。
さらに根、正確に言うと地下茎は船体やコンテナを取り込み、養分にしてしまった。
エネルギーから構成物まで根こそぎ吸収された海賊船やコンテナは、重力弾の直撃でも受けたみたいにボロッボロ。
一応、海賊船からは脱出ポッドが無くなっていた。
言い換えれば、土台となった船に海賊の死体は存在しない。
だからまあ、競売の出品禁止事項にはあたらないはずだ。
『マスター。信じがたいですが入札がありました』
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