第4話 宇宙海賊が攻めてきたぞ!


『マスター、マスター』


 遠くからAIの声が聞こえる。

 いつの間にか、うたた寝をしてたみたいだ。

 目を開けると、天井に広がった仮想モニターが点滅してるのが見えた。


「んー?」

『マスター。緊急連絡です。識別信号無しの小型宇宙船が接近中』

「は!?」


 モニターにレーダー画面が表示される。

 小惑星を示す灰色の塊が大量に散らばる中で、不自然に移動する赤い光点があった。


「船体の数と速度は?」


 言いながらベッドから起き上がり、自室を出て操縦室へ走る。

 識別信号の発信無しといったら、大破レベルの故障か、違法改造だ。


『今のところ1せき。運動性能が高く、加速度は本船よりも上です』


 仮想モニターとAIの声が、ぴったりと俺に付いてきている。


「海賊だよねぇ」

『はい。98%の確率で宇宙海賊と予測します』

「残りの2%は?」

『船の制御AIがウイルス汚染等により暴走、識別信号発信を含め制御不能というケースがあり得ます』

「どっちみち厄ネタだよ」


 操縦室のシートに座ると、正面モニターに相手の船の映像が映し出された。

 小型で流線型、身軽そうな船体で、後付けの不揃いな砲門が並んでいる。


「戦闘用に改造されてる。海賊で確定だな。こんな辺境に出るとはね」


 海賊も、こんな船の通らない宙域にいたって稼げないだろうに。

 こっちはそう予想して武装より世界樹の種を優先したんだけど、裏目に出たな。

 あれは対デブリガンだけじゃ落とせないだろう。


『マスター。宇宙港から現在地まではマッピング済みです。推定海賊船の速度を考慮しても、小惑星を盾にすればまだ逃げ切れる可能性はあると予測します』

「ん。だが確実じゃない。それに逃げるならあの世界樹は諦めなきゃだよな」


 サブモニターに表示された成長中の世界樹は、まだ枝分かれもしてない若木という状態だ。

 これからが育成の楽しみだったってのに。


『命には代えられません。世界樹の種はまだひとつ残っています。離脱に成功すれば被害は挽回できる範囲と判断します』

「そうだな。それはわかるが、いや、待てよ」


 寝る寸前まで読んでいた世界樹の種のマニュアル。

 あの中に使えそうなことが書いてあった。


 世界樹の種の樹形、その基本デフォルト設定はトネリコだ。

 ナノマシンはその遺伝子情報を参照し、植えられた小惑星や肥料ミサイル内の物質を使って樹形を再現、組み上げていく。


 だが使用可能な植物の遺伝子情報はトネリコだけではなかった。

 キットには、かなり大量の植物遺伝子情報が記録されているらしい。

 過去に侵略的外来種なんて呼ばれてたような繁殖力の高いやつもだ。


「この船の貨物コンテナを分離パージしたら、こっちのほうが速くなるか?」

『はい。あの機体は重量のある武装を多く積んでいます。パージ後のこちら側の速度は全面的に相手を上回ると予測します』

「なら確実に振り切れるな」

『しかし、その場合はコンテナと中の種まで失うことになります』

「ああ。だが海賊の狙いは金、つまりは売れそうな積荷だ。コンテナを引っ張って逃げたら、おそらくアレもついてくる。逆にコンテナをここに置いていけば、海賊はそっちに食いつく」

『なるほど。損は増えますが、逃亡確率は上がると判断します』

「それに、罠も仕掛ける。うまくいけば追い返せるかもしれない」


 これは賭けだ。

 だが、相手は一隻で小型。勝算は低くない、と思う。


「コンテナに積んだ世界樹の種に【役割】を入力する。設定画面を開いてくれ」

『警告。その行為はこの緊急事態では時間の浪費と判断。当キットは武器の代用にはなりません。種や肥料ミサイルに射出機能はありますが、仮に撃ったとしてもあの船には99.99%以上の確率で外れると予測します』

「種も肥料も発射はしない。コンテナに積んだまま【役割】と起動時間だけを設定する。役割は私がやるから、お前は今から言う条件に合う時間を予測、設定してくれ」

『条件とは?』

「ここに放置したコンテナを拾うために海賊が停止してから、また動き出すまで、だ」

『承知しました』


 世界樹の種に【役割】を手早く入力する。

 詳細設定から参照先の遺伝子情報を確認。

 初期設定のトネリコから変更。

 種も肥料も即時成長を最優先、根付き元の保全は無視する。


「役割設定完了。起動時間はどうだ?」

『時間計算及び設定、完了しています』

「よし! コンテナをパージ、その後に全速で離脱!」

『承知しました。貨物コンテナのパージ作業開始。並行してメインエンジン出力増加』


 レーダーの中の海賊船は、まるで羽虫のようにブンブンと飛び回りながらこっちへ近づいてくる。


『パージ完了。エンジン全開。急速発進による衝撃に備えてください』


 だが、まだ私たちには届いていない。


『カウントダウンを開始します。1。0』

「カウントの意味ねえ!」


 身軽になった船は、私のツッコミよりも速く小惑星帯の中を突っ走りはじめた。

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