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だが、次には彼は二日続けて学校に来なかった。
「よくあることなんですよ」事務の女性はうんざりした表情をうかべて受話器を置いた。
「べつにラッセルさんに限ったことじゃありませんけどね。親が旅行に連れていきたいからとか、あるいはズル休みしたい生徒が親のフリをして電話をかけてくるとか」
「それで、ラッセルさんは?」
「わかりません、電話に出ませんから」
「マクファーソン神父、ミスター・ラッセルのことなら、気にかけるだけ無駄というものだよ」
通りかかったシルヴェストル教諭が
「入学からこっち、いつもそんな状態だ。私はもういい加減、彼の名前を出席簿から削除しようかと考えている。ほかの先生がたも同じだろう。出てきたと思ったら居眠りするし、字は汚いし、形容詞と副詞の区別はつかないし、先月の中間試験ときたら……まったく、面倒ばかり増やしてくれるよ」
「そんな言いかたはないわ、ニコル」助け舟を出してくれたのはサリヴァン校長だった。
「……その呼びかたはやめていただきたいと申し上げたでしょう」
「あら、そうだったかしら、ごめんなさい」
「……すごい魔除けですね」
少し白髪の混じりはじめた彼の頭が廊下の向こうに消えるのを待って、私は校長に笑いかけた。
「
「ええ……えこひいきをするべきではないと思ってはいるんですが……彼のことが気になって」
「それは、えこひいきっていうのかしら? わたしは昔から疑問だったのよね、神様は、一匹の迷子の羊を探しに行っているあいだ、残りの九十九匹をどうしているんだろうって。まさかほったらかしにしているんではないわよね? だって、絶対みんな好き勝手なことをし出してバラバラになってしまうでしょう、教室では」
「それは私も不思議に思っていましたよ」私は言った。「たぶん――どこかから羊飼いをたくさんつれてきてめんどうをみさせるんじゃないかって、子供心に考えたんですが。それか牧羊犬をですね。なにしろ神様なんですから」
「それじゃ、今のあなたはその羊飼いね」
「とても手が足りませんよ」
「腹減ったー。なんか食うもんねえ?」
彼が姿をみせたのはまた放課後だった。
「サンドイッチならあるけど」
オーソドックスなタマゴとツナのサンドイッチを、渡した紙袋からつかみ出してかぶりつく。六切れがきっかり十二口でなくなった。
「まあまあだねコレ。俺としちゃもう少しコショウがきいてるほうが好みだけど。またもらったの?」
「いや、私が作った」
「へえ、あんたの夕飯だったら悪かったね。けど全然足りないや。もっと食いでのあるやつじゃないとさ」
「あいにく今日はそれしかないんだ。コーヒーでも飲むかい」
「あ、俺ミルクと砂糖たっぷりね」
今度はBLTかローストチキンにでもしようと思いながらコーヒーマシンに向かう。
作ったものが無駄にならなくてよかった。誰かのためになにかを作るのは一年ぶりだ。
「
「あんなのオヤツだよ。体育があったからさあ」
パイプ椅子の上に片膝を立て、コーヒークリームでほとんど甘ったるいカフェオレと化したコーヒーをすすりながら言う。
「運動神経がいいんだってね。体育のコール先生が褒めてたよ」
「べつに。遊びだし」
サッカーと、ほぼすべての陸上種目でインターハイ記録保持者と並ぶような人間の謙遜なのだろうか。
「ほかに好きな科目はないの」
「ねえよ。ガッコ来んのマジでかったりぃんだよ」
こちらが黙っていると、甘いもので警戒が薄れたのか、
「行かねーと兄貴にどやされるからさあ」
「またお兄さんだね。このあいだ迎えにきた人?」
「……いや、もうちょいまともなほう」
少なくとも話のわかる人がひとりはいるということなのだろうか?
「お家の人は知っているのかい、君が学校を欠席したり、このあいだみたいに、お兄さんに……」
「知ってるよ」
「ご両親も?」
虐待を黙認している家庭にはありがちなことだが一応訊いてみる。
「おふくろはとっくの昔に死んだし、親父は行方不明だよ」
「ファイルに名前が書いてあったけど……」
「たぶん兄貴がテキトーに親父の名前を書いたんだろ」
「お家には誰かいないのかい、その……君を守ってくれる人は」
ぎろり、とにらまれた。
「あんたのそういうとこが気に食わねえんだよ。俺は誰かに守ってもらわなくてもじゅうぶんやっていけるんだよ。今はただ――ちょっとばかり力が足りないせいで兄貴たちにおっつけてないだけで」
「……すまない」彼のプライドを傷つけてしまったみたいだ。
「……クソ」音を立ててマグカップを置き、顔をしかめたままつぶやく。「二度とこねえよ、こんなとこ」
「――もし」出ていこうとするのに声をかける。
「お兄さんに追いつきたいなら、方法はあると思うけど」
「あんたになにがわかんだよ。兄貴に一回しか会ったことねえくせに」
「だけど、彼以外にもきょうだいはいるんだろう?」
「あんたがなにしたいんだかわかんねーけど」
ディーンは年齢に似合わない冷めた声で言った。
「その兄貴にチクって上の兄貴と話をさせようったってムダだぜ。俺の序列は一番下だから、ギルの兄貴がちょっとやりすぎて俺を蹴り殺したとしたって、誰も気にしないぜ」
「ミスター・ラッセル――ディーン!」
カウンセリングルームのドアが閉まった。
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