河童の川流れ

河童の川流れ

　夫の実家に行った翌日は絶対に食べてしまう。低カロ過食は太らないけど死ぬほどしんどいよ、と言っていたのはメンタルヘルス掲示板でむかしよく話したモコちゃんさんで、本当にそのとおりだったから今はきゅうりを底にだけしている。スーパーでできるだけ太めのを選んで買ってきたきゅうりの外側の緑は三年前の秋のおわり、二年ぶりに会った夫の姉に玄関先で「それ夏物だよね」と言われた、あのスカートとおなじ色だ。あのスカートはよく見てみればたしかに夏物で、そして、もう捨てたのに。むくむから塩はほんの少ししかかけないことにしている。次に入れるものを食べたくて仕方ないから、ただ、ただ、緑で、あまり味はしない。

　視界の端にラインの通知が見えた。料理上手でいつもツイッターでいいねをたくさんもらっている裕花ちゃんから届いたのは上が焦げたパウンドケーキの写真と、失敗しちゃった～、の文字で、彼女はまだわたしのことを、個人的にメッセージを送るぐらいには親しく思ってくれているのだ。ラインもそういえば緑だなと思う。ああ、ケーキも食べたかった。食べたい。勉強だけが取り柄だった。初めて過食嘔吐をした翌日が期末試験で、成績の下がったわたしに担任の先生は、河童の川流れだな、と言ったのだった。友だちをつくるのは下手だった。

　月見バーガーとポテトとコーラとクリームパンとからあげと冷食のたこやきのあと流れ始めた緑を見て、河童がきゅうりに掴まったまま、必死に急流を流されていくさまが脳裏にうかんだ。ぜんぶ吐ききってやっと、わたしは裕花ちゃんにラインを返すことができた。

　「河童の川流れだね」