分からせ屋
「ねえ聞きまして? あの話」
「あら、どのお話かしら。思い当たるものが多すぎて」
「ノア様とあの女が婚約したって話よ!」
「ああ……アレのこと……。ほんっと生意気よねぇ……」
「なんでも
「んまあ! はしたない! わたくしはそのとき参加していなかったから見ていないのよね」
「酷い有様よ。被害者ぶって。ノア様もお可哀想に。騙されたんだわ」
「きっと子供が出来たかもだとかそんなこと言って婚約したのよ」
まぁこうなるだろうなとは予想してた。音楽とともに聴こえてくるのは懐かしい陰口。人の口に戸は立てられない。そもそも貴族って生き物は噂話が大好物なのだから。
此処は貴族が集まる大ホール。ただ今舞踏会の真っ最中である。
季節の移り変りを祝い、年に二回行われる大規模なパーティーだが、私にも変化がひとつ。
隣に並ぶパートナーが変わったことだ。
「お待たせ、シャーロット。君がいつも美味しそうに食べていた鴨肉のロースト、今年は近くで眺められるなんて幸せだよ」
「っ、なんでそれが好きだって知って……!」
そりゃあ見てたからね、と笑う。
好きな席で気の合う人と好きな物を食べる。それから素敵な方とダンスをする。殿下の婚約者になる前はそれが当たり前だったのに。いつの間にか仲良くしてた友達は居なくなった。出来たのは話の種が欲しい上辺だけの友達。
「ね、シャーロット。俺が動けばあんなこと言われなくて済むんだよ?」
「聞こえていたのですか……お恥ずかしい……。でも良いのです。それこそノア様の権力を使っているみたいで」
「シャーロットは昔からそういうところあるよね。意外と負けん気が強い」
「えっ、そ、そうですかね……?」
「ああ。婚約破棄されたときだって負けた気がするからって、堂々と舞踏会に参加してたし。そういうところも可愛い」
「う……やめて下さいこんなところで」
「恥ずかしがる顔も可愛い」
隣に座るノア様は遠慮なく頬にキスをする。私の驚いた顔を見て、手を握りそしてまたキス。
「っち、ちょ!? ノア様が婚約者といちゃついてるイメージなど無かったのですが……!?」
「当たり前じゃない。こんなに好きになったのは君が初めてなんだから」
「またそうやってぇ……っ!」
「それに君だって体験しただろう? 婚約破棄されすぐに男性陣に囲まれていたじゃないか。君は君が思っている以上に魅力的なんだよ」
「それとコレにはなんの関係が……!?」
「牽制に決まってるじゃないか。まぁ婚約してたときもルーカスは馬鹿だから押せばいけるって何人かは思ってたみたいだけど。俺はそんなの許さないよ」
「こわい……!」
「ふふ、それにこれだけ示してたら文句言うやつも減るだろう?」
周りも引くぐらい愛してるんだからね、と言って今度は腰を引き寄せて鼓膜に響くキスをされる。首筋にも吸い付いてきて、席が薄暗いからって声が出てしまえば意味が無いのに。
──乱れていくドレス、声も必死に我慢していたけど、ふと気が付けば周りの貴族は横目で私達の様子を眺めていた。
見られていたことにそれはそれはもう恥ずかしくなって、思わずノア様に肘鉄を食らわしたのだった。
「い、痛い……」
「こ! これ以上やったら本気でぶん殴ります……!」
「わ、分かった分かった、ごめんごめん! でも恥ずかしがって怒る顔もやっぱり可愛いよ」
「っ〜〜〜……!! もうっ……!」
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