part.3 『番狂わせ』と試練突破
階段を下り、再び『翼のない火竜』に向かう。
あと一歩、踏み出して進めば、竜の火に焼かれてしまう……けれど、前みたいにはならない。
なぜなら――ネイアさんが『盾』となるからだ。
僕らが立てた作戦は、こうだ。
ネイアさんが奥の手……アイギスの魔法の強化版を使い、竜の攻撃に耐える。
その間に僕が竜を攻撃、挑発。
アイギスを頼りに、攻撃を防ぎながらジワジワと体力を削っていく。
穴だからけで、博打要素しかないけれど……うまく成功させてみせる。
「いいですか、もう一度確認しますが、その力は一回使うのが限界だと思ってください。それ以上は体が持ちません」
「つまり、ぶっつけ本番で成功させるしかない」
「はい。……ですが、焦ることはありません。ノゥスさんのことは私が守ります」
杖を抱え、心配や不安なんて感じさせないほどの自信を掲げてネイアさんは微笑んでいる。
……でもよく見れば、杖を持つては小刻みに震えているし、顔は少し青白い。
きっと、僕も同じだ。
不安でたまらないし、痛い思いはしたくない……させたくもない。
「――では、行きましょう」
★
――『翼のない火竜』は自らのテリトリーに侵入者が入りこんだことをすぐに察知する。
それは先ほど、燃やしてやって男と女の二人組。
『フシュー……ギュルァ!』
こりずにまたやってきたのかと、喉を震わせ威嚇する。
けれど、怯えることなくこちらを睨みつけられ……竜は火を吹く。
……先ほどよりも強力で高火力。
間違いなく、丸焦げになる……はずだった。
「【不肖なる我が身、乞い願うは不動の盾】――【アイギス】」
十階層に侵入したとたん、威嚇と共に先ほどよりも効果力の火のブレスが襲い来る。
打ち合わせ通り、ネイアさんが前に出て火の手を防ぐ。
……けれど、先ほども破られたように、すぐに白い魔法陣には亀裂が走る。
だから、ネイアさんはさらに呪文を紡ぐ。
「――――【それは何者も傷つけず、何者にも侵されない神秘の欠片、大いなる一柱、戦の女神に今一度願う】」
白い魔法陣がネイアさんを中心に地面に描かれる。
淡白い光が辺りを包み、神聖さすら感じさせるネイアさんの詠唱が鐘の音のように告げられた。
魔法が完成し、ここに不動の障壁が築かれる。
「【
竜の火を物ともせず、何者をも拒む盾。
ネイアさんが無事な限り、壊れることはなく、修復され続ける不動の盾。……けれど、
「ノゥスさん! これで私は動けません!」
「ああ!」
その場から一歩でも動けば崩れさる、脆いものでもある。
だからこそ、この盾が健在であるうちに……僕があの竜もどきを倒す。
そのための力はすでにある。
指輪に力を注ぎ、悪魔との契約によって獲得した力を呼び出す。
「――『
指輪を通して悪魔と契約して手に入れたスキル――『
それは本来あるべきものを狂わせ、予想外の結果をもたらす効果を有しており……例えば、僕が持つ『剛力』に使えば、
「ふ、っ――ぐぅぅぅ!!!」
『ギュオア!?』
『翼のない火竜』を吹き飛ばすほどの腕力を得ることができる。
『剛力』にここまでの効果はないし、あるとしたらそれは『剛力』なんて名前ではないだろう。
……これが『
拳一つでなんでもできそうになる昂揚感が身を包み、自然と息が荒くなる。
「ノゥスさん! 戻って! 離れすぎです!」
遠くからネイアさんの声が聞こえる。
……そういえば、攻撃を防ぎながら機会を伺うんだっけ。
でも、それじゃあ、ネイアさんが危ない。
「畳み、かける!」
今度は足に力をこめて地面を蹴り、吹き飛ばした竜もどきの近くまで一気に駆け抜ける。
速攻で片づけるなら、攻撃をし続けて、反撃させなければいい。それが一番安全で、確実だ。
地面が抉れるほどの力が軽々しく使えることに恐怖を覚えながらも、今は勝つことだけを考えて――竜の尻尾を掴み、思い切り振りまわす。
勢いを乗せて手を放し、そのまま壁に叩きつける。
壁に叩きつけられ、ひるんだところへ頭に拳を一発。
「――っんぐ!」
上から全体重を乗せるように放った拳には当然、反動がくる。
所詮、スキルで上乗せされた筋力。
素の力が低い僕では、そのすべてを受け止めることはできず……内側から砕けるような激痛が走る。
だけど、それでも構わず左、右と反撃の隙を与えないように殴り続けた。
痛みでどうにかなりそうだ。
でも、殴る。
死なない。
ならもっと力を。この怪物を捻じ伏せられるだけの圧倒的な力をもっと。
『
ブチブチと腕から音がするけど、今は――ただ、殴る。
「はぁ……はぁ……」
……気が付けば、『翼のない火竜』の頭はぐしゃぐしゃに潰れ……塵となって消えていった。
僕は両手両足を広げて大の字になるように、その場に倒れる。
倒したことで力が抜けて倒れたわけじゃない。
立っていらるほどの力が僕には残っていなかった。
全身から力が抜けて、徐々に痛みに支配されていく。
『
「――作戦と違います! 言ったじゃないですか! 効果が強力になる分、反動も凄まじいものになるって!」
「……うん。ごめ、ッ!? アァ――ッ!?」
口を開くのもままならないほどの激痛。
あまりの痛みに意識を手放すことすら許してもらえない。
意識を失って楽になろうとしても、全身を巡る反動の痛みがそれを妨げ、意識を失うどころか頭がおかしくなりそうだ。
「――、――!」
もはや声を出すこともままならず、助けてと手を伸ばしたくても力が入らない。
このまま藻掻き苦しむことしか許されないと、そう思っても仕方ないくらいの苦痛。
……でも、視界が温かな光に包まれたと思えば、痛みが徐々に和らぐ。
「ごめん、じゃありませんよ。――絶対に、反省させますから」
僕はその温もりに包まれながら意識を失うのだった。
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