第39話 シナリオブレイク
「おお勇者ショウスよ、どうしてお戻りに――なぱーーーん!!!!!」
国王との再会直後、俺は即座に右ストレートをぶちかましていた。
充分に力を溜めた渾身の一撃をな。
俺達はダウゼン家で調べ物をした後、準備を整えて城へ乗り込んだ。
それで今、謁見の間に乗り込み事に至ったというワケ。
レベル32の本気撃ちは伊達じゃない。
台座さえも見事破壊し、国王がピンボールの如く謁見の間を転がっていく。
おびただしいまでの鼻血を噴出させながら神官たちをも薙ぎ払って。
「今さら隠しても無駄だぞ国王、貴様が邪神と繋がっているのはわかっているんだ」
「そうだぞ! なんたって我が伝えたからな!」
もう遠慮する必要は無い。
勇者召喚は構わないとしても、敵に情報を売るのはスパイ行為で重罪だからな。
平気でマッチポンプする様な奴は勇者として許しておく訳にはいかない。
「うくく……おのれアホ王子め、また余計な事をべらべらと喋りおったか……!」
「フハハハ! そうだ! 我がやったのだ! ――ってアホってゆーなー!」
ゆえに今、俺達は最強装備で国王の前に立っている。
更には首元に剣先を突き付けて。
見た目はこっちの方が悪人に見えなくもないだろう。
それでも相手の所業を考えれば、このまま首を刎ねる事だって吝かじゃない。
そうする事が勇者の使命なら躊躇いはしないさ。
「アンタはやり過ぎたんだ。只の国王だけをしていれば、それだけで充分だったのに……ッ!」
「黙れ小童め! 何をしてでも財政を立て直し、世界経済を回して発展せねばならぬ者の立場を知らぬくせに! ワシは国王ぞォ!?」
「だからと言って世界を裏切っていい理由にはならないだろうがッ!!」
「それは貴様の言う事ではなぁい! 支度金を受け取った者風情が声高々とォ!」
けど国王は一歩たりとも引き下がらなかった。
奴なりに正義があるからこそなのだろう。
その点は立派に国王をしていると思うよ。
その手段さえ間違えなければ尊敬する事だってあったろうに。
だがそんなやり取りの中で突如、国王がその手で刃を弾き退ける。
まるで何も恐れていないと言わんばかりに、ニタリとした笑みを浮かべて。
「ううッ!?」
「しかぁし! その国王が何も策を用意していないと思ったかァ!?」
しかもその拍子に国王の身体から黒いオーラが溢れ出す。
ギュリウスが放っていたものと同じ、邪神の眷属のオーラだ。
それも桁違いの力を感じさせる程にどす黒い。
それに気付き、皆が揃って距離を取る。
そんな中で黒のオーラが集まり、巨大な何かへと変貌した。
身長一〇メートルほどもある巨大な人型魔物へと。
「あ、あれは一体ッ!?」
「【ジャガンコロッサス】だぞ! 邪神との契約により、眷属の力を得た姿だ!」
「そんな魔物、記録にありませぬぞおッ!?」
「な、なんて力強さなの……!?」
「ひえぇ、こんなのに触られたらウチどうなっちゃうでっすかぁ!?」
当然、黒い体付きは筋骨隆々で屈強そのもの。
巨大な赤の一つ目をギョロリとこちらへ向けている。
更にはどこから現れたのか、巨大な棍棒まで持っていて。
そのヤバさが滲み出て来る様だよ……!
なんだこの相手、強ボスとかいうレベルじゃねぇぞ……!?
そんな相手が今、棍棒を掲げてきた。
既に交戦状態って訳かよ!?
「ぬぅははは! 死ぃねえええい!!」
「クッ、だがドリルがあれば通常攻撃くらいは!」
「いけない翔助! コイツはだめだあッ!!!」
それで攻撃を受け止めようと盾を構えたのだが。
途端、ギュリウスが俺をタックルし、二人揃って攻撃範囲から飛び外れた。
「コイツの攻撃は全て防御無視の特性を持っているのだ! 邪神がドリル対策にと用意した特性なのだ!」
「なんだって!?」
「それだけじゃない! コイツには必殺技耐性と回復魔法耐性もある! 小細工が通用しない相手なのだ!」
どうやら俺はギュリウスに間一髪救われたらしい。
おかげで今は二人して無事に立ち上がる事が出来た訳だが。
それと同時に、恐怖もが心の奥底から滲み出てきやがった。
そのせいで相手がよりデカく見えて来る。
近づく事なんて出来ないとさえ思えてしまうくらいに。
前に出ていくのがこれほど怖いなんて、今まで一度も無かった感覚だよ……!
「翔助殿! 相手を調べるのです! もしやすれば弱点などがわかるやも!」
「よ、よしッ!!」
それでも勝てないという訳では無いだろう。
相手の弱点さえ、倒せる算段さえ立てば勝てるかもしれない。
そう思うままに勇者の証をかざし、相手を調べてみた。
//////////////
ジャガンコロッサス ☆シークレットボス
Lv:98
HP:?????/?????
MP:?????/?????
攻撃力:3280
防御力:2991
瞬発力:1990
知性力:1862
精神力:2185
運命力:1640
パッシブスキル
〇破壊の一撃 〇必殺技耐性 〇回復魔法無効 〇強化魔法無効 〇弱体魔法無効 〇炎耐性+30 〇物理耐性+12
弱点:雷、光
//////////////
な、なんだよ、これ……!?
ステータスが明らかにおかしいだろ……!?
こんなの、俺達のレベルで立ち向かう相手じゃないだろうがッ!!?
「ファハハハ! 愚かな小童め、やはりワシの事を知らんで立ち向かってきたか。その顔に書いてあるようだわ」
「なんだと……!?」
「ワシはなぁ! 貴様がシナリオを外れて進んだ時に始末出来るよう、邪神様より遣わされたトラップボスよ! それも終盤でなければ勝てない隠し存在としてなぁ!」
……そうだ、こんな相手はRPGにもいた。
コアなゲーマーが好む、やり込み要素の高いフリーシナリオゲーの敵だ。
こちらの成長などガン無視で現れ、1ターンでパーティを消し炭にしてくる奴。
セーブ機能を使わなければコントローラー投擲不可避の理不尽仕様さ。
そんな相手が今、目の前にいる。
理不尽さを振り撒いて、俺達に襲い掛かろうとしてきている。
くっそぉぉぉーーーーーー!!!
「こうなったら、エクサーカイトでえッ!!!」
そんな脅威を未だ信じられなくて。
自慢の雷鳴剣を抜き、覚悟を決めて奴へと突進する。
この速度が上昇する剣ならば、巨人の懐に飛び込む事も可能なんでな!
そしてその勢いのままに振り抜く。
弱点である稲妻を迸らせ、力の限りに。
――だが。
「なあッ!?」
なんとあろう事か、エクサーカイトの方が音を立てて折れてしまったんだ。
根元から「バギンッ!!」と、金音を激しく立てながら。
「そんなバカなあッ!?」
「なんだ知らんのか? 相手のレベルが自分より高ければ高いほどなぁ、消耗度が著しく高くなるんだよォ! 今まで冒険して来た癖にそんな事も知らん無知とはァ!!」
「嘘、だろ……!?」
確かに、元々消耗していたのもある。
けど、それでも戦うには充分なくらい耐久度があったのに。
それでも一発で損壊してしまった。
相手の言う通り、仕様によって攻撃が通らなかったんだ。
つまり、俺達にはもう奴を傷つける武器が無い。
恐らく仲間達の武器も同じ目に遭うだろうから。
魔法も炎メインだから通用しないだろう。
あいにくと雷魔法も光魔法もジョブ専用属性で、ユーリスは取得できていないんだ。
そして当然、ボス戦は逃げれない。
すなわち、俺達は詰んだという事になる。
勝てる訳も無い相手に挑んでしまった事によって。
ちくしょう!
なんでこんなバグ野郎が序盤に配置されてるんだよ……ッ!!!
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